第52話 見つけた!

 ステージ上のライブは大いに盛り上がり、あずまやが用意した会場の出店も大盛況の賑わいを見せ、今回のイベントは終盤を迎えていた。

 大盛り上がりのまま進んでいたライブも、本日のセットリスト最後の曲を残すのみとなり、最初から全力のパフォーマンスを続けていたメンバー全員の顔にも疲労の色がみえていたが、若さなのか、プロ意識からなのか、誰ひとりとして手を抜くようなことは決していなかった。

「それでは本日最後の曲となりました。後1曲、最後までみんなで盛り上がって行きましょう!」

 志桜里が会場に向かって叫ぶと、大歓声がこだまして最後の曲のイントロが流れ始めた。

(オサムさんどこにいるんだろう?)



「ジャン、ジャン、ジャーン。」

 最後の曲のアウトロが流れ、メンバー全員ヘロヘロになりながらも会場に向かって決めポーズと笑顔を送っていた。

「本当に皆さん、ありがとうございました!」

 志桜里の締めの言葉で全員が整列し挨拶してライブは終了した。

(オサムさん観てくれたのかな? どこにいたの全然かわからなかった・・・。)

 メンバー全員すべてを出し切って疲労感いっぱいであったが、目一杯の笑顔を見せ会場に手を振りながらステージからはけていた。

 ルミは精いっぱいのパフォーマンスを披露出来た満足感と、オサムを見つけられなかった何かモヤモヤした気持ちを同時に抱きながら、ステージ裏に戻ってくると、緊張の糸が切れてしまったかのように全身の力が抜けてしまった。

(あっ、やばいかも・・・。)

「ドン!」

 するとルミは大きな音を立てて床に倒れこんでしまった。

 その大きな音で全員何が起きたのかとその方向に目をやると、いち早くその異変に気付いた大森が大きな声を上げた。

「ルミ大丈夫か!」

 その大森の声でルミがに何かがあったんだと全員が理解していた。

「ルミ!」

 志桜里もすぐに駆けつけ、心配そうにルミに声を掛けていると、大森が声を張り上げた。

「誰か西川さんを呼んできて!」

「大森さん、私が行ってきます。」

 最初驚いてしまって動くことが出来なかった真理が手を上げて、控室を飛び出そうとしていたその時、会場の一部から数人の小さい声が聞こえてきた。

「アンコール。アンコール。」

 その声は徐々に大きくなりまわりにあっという間に広がっていき、やがて会場全体からの大声援に変わっていった。

「アンコール! アンコール! アンコール!」

 

 メンバーはその声を耳にしていたが、今そこにルミが倒れてしまっていてそれどころではないといった空気が控室を支配していた。しかしルミはその声援で意識を取り戻し、ゆっくりと体を起こし、気丈に立ち上がろうとした。

「皆さんの声援に応えないと、もう1回ステージへ戻らないと、私大丈夫ですから。アンコールのステージに行かせてください!」

 大森と志桜里に向かって頭を下げて、必死のの表情で訴えていた。

 そのルミの言葉を聞いても、大森は迷っていたようで何も言葉を返せないでいると、志桜里が立ち上がり大森に向かって頭を深々と下げた。

「大森さん行かせてあげてください。私がサポートしますから、お願いします。」

  大森はまだ返事を出来ないでいた。

「大森さんお願いします。」

 ルミも泣きそうな顔で再び頼み込むと、真理を筆頭にその他のメンバー全員が3人を囲むように集まってきて声を発してきた。

「私たちもサポートします。お願いします。」

「私たちがルミを守ります!」

「わかった! 志桜、そしてみんなも頼んだぞ。でも俺もここで見ているから、少しでもやばいと思ったらすぐに止めるからな。ルミもそのつもりでな。」

 メンバーの声を聞きようやく大森も決断すると、ルミに言い聞かせるように言っていた。

「ありがとうございます。」

 ルミが大森に頭を下げると、まわりのメンバーもルミに近づいて行き、温かい声を掛けていた。

「ルミ苦しくなったら、私たちがサポートするから。」

「その時は遠慮なく休みな、私たちが前に出て隠してあげるから。」


「ありがとう、ありがとうみんな! でも最後まで私頑張るから。」

 ルミは涙を流しながら言った後、力強い目に戻って声を掛けてくれたメンバーの方を見ていた。そんなルミの姿を見ていた志桜里が無言でルミの肩に手をのせて、大きくうなずいた。

「よしみんな! アンコール行くよ!」

 全員に向かって大きな声を掛けると、メンバー全員勢いよくアンコールのステージに向かって行った。

「バーン! バババーン!」

 会場に音楽が再び響き渡りアンコールの曲がスタートすると、会場から大歓声が再び上がっていた。

 ルミも元気に飛び出していき、センターポジションについて踊り始めると、最初から全力のパフォーマンスを披露していた。

(大丈夫だ。これなら最後まで行ける!)

 アンコールの2曲目になったとき、ルミも落ち着いたようで、会場の様子がよく見えるようになり、正面の出店と出店の間にいるオサムの姿を見つけていた。

(オサムさんやっと見つけた。私のダンスどうですか? ちゃんと私のこと見てくれてますか? 行きますよ、オサムさん。しっかり受け止めてください!)

 ルミはステージの最前面で、会場のオサムに向かって約束通りラブラブビームを送っていた。


 オサムも約束通り?にルミのラブラブビームを思いっきり全身で受け止めていた。

(ルミちゃんかっこいいよ。今までで一番輝いているよ。)

 オサムはステージ上のルミを見て熱いものがこみあげてきてしまっていたが、まわりの大歓声に負けない様に大きな声援を送っていた。


「めちゃくちゃ可愛い、ルミちゃん!!!」

 


 ライブとその後の握手会も大盛況で終了した。

 控室のメンバー全員がやり切った満足感でいっぱいの顔をしながら、少し興奮状態で会話をしていた。ルミと志桜里もお互いをねぎらいながら言葉を交わしていた。

「お疲れ!」

「お疲れ様でした。」

 西川と大森がメンバーに声を掛け控室に入ってきた。

「ささやかですが、食堂の方に簡単な食事と飲み物をご用意させていただきましたので、皆さんそちらに移動して、おくつろぎ下さい。」

「それではお言葉に甘えて、みんな行くぞ。」

 大森はまだ興奮しているようで、手を突き上げながら控室を出て行くと、メンバー全員も笑いながらその後に続いて行った。



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