第51話 急げ!
ライブ開演直前、控室に駆けつけていた大森が見守る中、ルミをはじめメンバー全員が志桜里を前に整列していたのだ。ここに並んでいるどのメンバーの顔も、先ほど会場の光景を見てからは、緊張の重圧はあったようだがその重圧をも楽しもうという気持ちになっていたようで、全員がなんとも頼もしい顔つきをしていたのであった。
「やってやるぞー!」
「頑張るぞー!」
しばらくしていつものように全員で円陣を組んでの掛け声の前に、志桜里からのひと言を全員がソワソワしながら待っていたが、いきなり志桜里がルミに向かって声を掛けた。
「よし、今日はルミにひと言お願いしよう。ルミよろしく!」
ルミは戸惑いながらも、何故志桜里が自分に振ってきたかを考え大きくうなずき、深呼吸をしてからメンバー全員の顔をしっかり見て前に出た。
「みんな、今日が新しい向日葵16のスタートです。色々あったけど、今ここにいるメンバーで最高のパフォーマンスを披露しましょう。あと、えーと・・・。」
ルミが緊張で固くなり不慣れな感じで何とか言葉を発しようとしていたが、言葉に詰まってしまうと、その様子を見た真理が、ルミの緊張を解こうと笑顔で突っ込みを入れてきた。
「長いよルミ、ひと言でしょ。ひと言。」
これにはメンバー全員が笑いながら声を上げていた。
「ルミ長いよ!」
「ひと言、ひと言!」
「どうした?」
ルミの緊張を解くように声を出すと、こわばった顔になっていたルミは少しひきつった表情を見せていた。
「もう! だってしかたないでしょ。緊張しちゃったんだから・・・。」
そう言った後ひとりすねた顔になっていたが、それでも緊張をほぐしてくれた真理とみんなに感謝し、仕切り直しの為、再び深呼吸した。
「よし! 最高のライブにしましょう!」
今度は言葉短く大きな声でしめると、すぐにその後、メンバー全員で円陣を作ってていた。
「行くぞー!」
「ヒマワリシックスティーン!」
志桜里の掛け声に続いて、全員の大きな掛け声が控え室のテント内に響くと、メンバーは勢いよくステージへ飛び出していった。ルミは誰よりも先に元気よく飛び出していっていた。
(オサムさん見ていてください。私頑張りますから・・・!)
「いらっしゃいませ。」
オサムはライブイベントが始まってもまだあずまやの売り場に立っていた。
売り場の場所によっては、かすかではあったが歓声と向日葵16の楽曲が聞こえてきていて、勿論イベントの様子が気にならないと言っては嘘になるといったのが本音であろうオサムはであったが、意識してその場所に立ち止まろうとはせず、自分の仕事を黙々とこなしていたようだ。それでもやっぱり本心はイベントのことが気になってしまっていて、その場所から離れると無意識のうちに再びイベントの音が聞こえる場所へ何回も足を運んでしまっていた。
(ダメだ! 仕事しなくちゃ! でもルミちゃん多分頑張ってるよな? 会場は気に入ってくれたかな?)
何度もそんなことを思いながら売り場で仕事を黙々?とこなそうとしていた。
西川はライブが終盤に入る頃、後ろ髪を引かれる思いであずまやの売り場に戻ってきていたのだが、これはオサムのことを思ってなのか、店長として本業をおろそかには出来ないと思ってなのかそれはわからないが、売り場に戻った西川はオサムを探しいた。するとすぐにオサムを見つけ足早に駆けよって行った。
「木村さんお疲れ様です。代わりましょう。さあ、早く行ってあげてください。私はもう十分志桜里ちゃんの応援してきましたから。」
手に持っていた志桜里のうちわを自慢気にオサムに見せていた。
「いや、まだ業務乗ってますから。」
オサムはいつもなら、たとえ中途半端に仕事を残してでもそれを投げ出して休憩に行ってしまっていたのだが、何故か今回はそう言って品出しを続けていた。
「さあ早く、木村さんのことを、待ってる人がきっといますよ。」
西川はためらっているのか? 意地になっているのか? 仕事を中断しないオサムに対して後押しするように笑顔で再び声を掛けたのだが、それでもまだ会場に向かおうとしないでオサムは品出しを続けていた。
「もう、木村さん、それなら仕方ないですね。」
見かねた西川は、何かを考え少し間をとるように深呼吸をした。
「業務命令です! 木村イベント会場に行きなさい!」
強い言葉をオサムに向かって言うと、オサムは西川からめったに聞けないような強い言葉に驚き、品出しの手を止め固まってしまった。
すると西川はオサムの肩をポンポンと叩き手をイベント会場の方にサッと差し出したのだった。
オサムはしばらく動くことが出来ないでいたが、しばらくすると西川に礼を言っていた。
「あ、ありがとうございます。」
そして西川に向け深々と頭を下げ、会場に向かって走り出していった。
「まったく、早くいかないとライブ終わっちゃいますよ。お店の仕事は日頃からしっかりやってくれればいいんですから。何もこんな時に限って頑張ってくれなくてもねえ。」
西川は走り去っていたオサムの背中を見ながら、小さな声でつぶやくように言うと、店長としてしっかりオサムの業務を引き継いでいた。
「いらっしゃいませ。」
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