第49話 サプライズ

 メンバーは全員、きらびやかな衣装に着替えを済ませると、イベント会場の控室に移動してきていた。

「よし、みんな聞いてくれ。」

 大森がメンバーに声を掛けた。するとメンバー全員が緊張した表情になり大森の方に目を向けた。全員の顔を確認し大森は少し目を赤くさせ、メンバー全員に語り掛けるように話し始めた。

「今日は記念すべき我々の新しいスタートの日です。快く会場を提供してくれたあずまやさんへの感謝を忘れずに、思いっ切り楽しみながら、全てを出し切ってこのイベントを必ず成功させましょう。」

「はい!」

 メンバー全員の大きな声がテントの中に響き渡った。

「よし、いくよ!」

 いつもの志桜里の掛け声でリハーサルのためメンバー全員は勢いよくステージに向かって走り出した。

 ステージに真っ先に飛び出していった真理が会場を見て足を止めていた。

「すごいよ。すごい。ねえ見て、見て!」

「何がすご・・・。」

 後に続いていた玲は言いかけた言葉が止まるくらい驚いていた。

 そこでふたりが目にしたものは、向日葵16グッズで華やかにデコレーションされた出店がステージ上からよく見える位置にいくつも設置され、会場に置かれた椅子のひとつひとつにも向日葵の花の飾り付けがほどこされていた。さらに、向日葵16のメンバーには個人毎にメンバーカラーが決められていたが、応援用にとメンバーの名前とメンバーカラーで配色された色とりどりの手作りうちわが全席に配置されていた。それらはどれをとっても手作り感満載ではあったが、今までメンバーが見てきたどの会場よりも暖かくメンバーを迎えてくれていたのであった。

(オサムさんだ。これは絶対にオサムさんが作ってくれたんだ。ありがとう。)

 ルミはこの光景を見て涙ぐんでいると、志桜里がそっと近づいてきてた。

「ルミ、まだ泣くのは早いぞ。でも本当に凄いねこの会場。これは愛だね。ルミへの愛だね。」

「えっ!」

 ルミは驚いて志桜里のことを見たまま、口を開けてしまっていたが、そのルミの表情をみて志桜里は慌てて言い直した。

「ルミ、違う、違う、そういう愛じゃなくて・・・。もう恋愛禁止っていてるだろ。」

 困った表情をみせていると、逆にルミはその志桜里を見て笑顔を取り戻していた。

「さあ、リハーサル頑張ろう。」

 志桜里はルミの笑顔を確認すると、そっとルミの背中を押して、ふたりいっしょにステージへと進んでいったのであった。


 メンバーはリハーサルを終え、いち度あずまやの会議室に設けられた休憩所兼更衣室に戻って用意されていたお弁当を食べていた。

「ちょっとルこのお弁当って、ルミの好きなものばかりじゃない?」

 玲がそのお弁当の中身を見て言うと、真理も悔しがるそぶりを見せていた。

「ほんとだ、なんだ、打ち合わせ私も行けばよかった。」

 そのやり取りを見ながらルミは少しばつの悪さを感じて小さくなっていたが、ルミはあの日お弁当の打ち合わせをオサムとはしていない・・・。

(これもオサムさんが考えて用意してくれたんだ、ありがとう。)

 自然とルミは笑顔になって、美味しそうにそのお弁当を口に運んでいると、横でルミのことを見ていた志桜里は、もちろんルミとオサムがそんな話をしていないのは知っていた。

(あの人は本当にルミのことが好きなんだなー。本当に感心しちゃう。)

「ルミ、今日のライブは絶対成功させないとね。」

 志桜里は真剣な顔でルミを見ると、ルミはひと言だけだが力強く返事をしていた。

「はい!」

 


 食事休憩が終わり、いよいよイベントの開始時間が迫ってきていた。メンバー全員イベント控室で緊張した顔でその時間を待っていると、急に立ちあがり真理が慌てて控室を出て行こうとしていた。

「ちょっと私トイレ行ってくる。」

「私も行こうかな。」

 玲も真理に続いて席を立とうとすると、今出て行ったばかりの真理がすぐに引き返してきた。

「ちょっと、真理どうしたの。早いね。」

 不思議な顔をして玲が聞くと、真理は玲に手招きして自分の方に呼び寄せていた。

「違うよ。玲ちょっと来て。」

「えっ違うの? じゃあ何、あっ、ひとりで行けないの? もう真理ったら。」

 玲は真理の方にゆっくり進み控室をでると、さっき見た会場のすばらしさにも驚いていたが、先ほど見た光景よりふたりを驚かせる光景がそこには広がっていたのであった。



 開始時間が近づき、事務所で談笑していた西川と大森も会場へ向かっていた。

「なんか今日はすごく緊張しますね。この前のこともあるんで・・・。」

 大森が不安そうなことを口に出しながら足を会場に向け進めていた。

「大丈夫ですよ皆さんなら。絶対成功しますよ。私達も有志で応援団作って昨日も練習してますから目一杯声援おくって盛り上げますよ。ははは。」

 楽観的な感じで大森を励ますように西川が声を掛けたのだが、またも先日の悪夢を思い出して渋い顔になって、大森が再び不安を口にしていた。

「いやー。お恥ずかしい話なんですが、実はこの前の握手会が中止になたのは、主力メンバーが抜けて、ファンの方に会場へ足を運んでいただけなくて、握手会の会場がガラガラの状態だったんですよ。ちょっと私も最近にないぐらいショックだったものですから。」

「それでしたら、もっとご心配なく。絶対に大丈夫ですから。」

 またも何故か西川は自信満々に胸を張って答えていた。

 大森にはその自信がどこから来るのか理解できずに、不安そうな顔のまま会場が見えるところまで来ると、おもわず声をあげて驚き立ち止まってしまった。

「えっ!」

 


 大森、真理、玲が目にしていたのは、会場を満席状態に埋め尽くした観客の、開演をまだかまだかといった感じで待っている、小さい子供からお年寄りまで、幅広い年齢の人達の楽しそうで、少し紅潮ている顔、顔、顔であった。

「どうして・・・?」

 大森が西川の方を驚きの表情のまま振りむくと西川が答えた。

「実は・・・。」




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