第45話 ルミいいの?
「えーと、当日の流れはこんな感じになりますがいかがですか?」
西川がイベントの資料を見ながら3人に向かって説明し終えていた。
「大枠はこれで行けると思います。これに先ほど言った握手会などの時間も設けて頂けたらぜひ実施したいのですが。」
「そうでしたね。スケジュール的には可能だと思いますので、握手会も加えて再度当日のタイムスケジュール調整しましょう。」
「ありがとうございます。」
こんな感じで応接室で1時間ほどの打ち合わせを終わらせると、全員で移動して当日の会場や控室を確認する為に応接室からの移動の準備をし始めていた。
オサムもルミもその会議中ほとんど目も合わさないで、ましてや会話などは一切することも無く時間だけが過ぎて行っていたが、その様子を見ていた志桜里は考えていた。
(大丈夫かなこのふたり? 全く話さないし、一切視線合わさないし・・・、なんかこっちが気使っちゃって疲れちゃうよ・・・。何とかしなくちゃ。)
「会場は駐車場の奥なんですけど結構広いスペースで、今までのイベントでは盆踊りとかカラオケ大会とか実施してたんですが、スペースの半分、いや3分の1も使ってない位の感じなんですよ。でも今回は目一杯広く使ってお客様いっぱい来てもらいましょう。出店もいっぱいだせますしね。」
「そ、そうなんですか。そんなに広いんですか。広い会場で大勢のお客さんの前でのライブは最高ですからね。ははは。」
(大丈夫かな。そんな広くなくていいんだけど・・・。)
大森は笑いながら口ではそうは言っていたのが、この前の握手会の悪夢を思い出してしまったようで、その笑顔はどちらかと言うとひきつった感じの笑顔になってしまっていたのだが、西川はそんな大森のひきつった笑顔には気付かないで、笑顔で答えていた。
「いやー! 本当に楽しみですねー!」
会場や控室などのひと通りの案内と会議室に戻っての最終の調整と確認を終え、今日の打ち合わせは全て終了し、オサムと西川は3人を見送るために従業員出入口前まで来ていた。
「今日は本当にありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。当日楽しみにしています。」
西川と大森が今日の打ち合わせの最後の締めのような会話をしていると、オサムは西川の横でふたりをとりあえずの笑顔を浮かべて見ていたが、心の中は相当モヤモヤした感じでいた様だ。
(ふー、無事に終わってくれてよかった。でも本当に無事だったのか? まあ、イベントの打ち合わせは自体は無事に終わったけど・・・、ルミちゃんの顔をいち度もまともに見られなかったな。それに俺とはいち度も口きいてくれなかったし、まあ、俺も話しかけなかったんですけど、というより話し掛けられなかったんですけど・・・。)
ルミと志桜里は西川と大森が会話をしている間、ふたりから2,3歩離れた場所でその様子を眺めていた。
「ルミいいの? 本当にこのまま帰っていいの?」
志桜里が大森たちの方を見たまま小声でルミに聞いた。
「えっ!」
ルミは驚いた表情を見せた後、困惑の表情を浮かべていると、さっきより少し大きな声で志桜里がもういち度聞いてきた。
「だから、何の話せず、このまま帰っちゃっていいのってかって聞いてるの。」
ルミは下を向いたまましばらく黙っていたが、顔を上げ志桜里の方を見て声を上げていた。
「よくないです、よくないんですけど、どうしたらいいのか・・・。」
「わかった。それなら私が何とかしてあげるから。」
志桜里はルミの方を見て力強くそう言った。
「じゃあ俺は車とってくるから、ふたりともここでちょっと待っててくれ。」
西川との会話を終えた大森が志桜里とルミに近づいてきて言うと、一度ルミの方を見てから志桜里は大森の元に駆けていった。
「すみません、私当日の会場もういち度見てみたいんですけど。」
「えっ?」
大森は驚きながらも”オイオイ”といった感じで、志桜里を促すように言った。
「志桜里・・・、そんな無理言っちゃだめだよ。皆さんお忙しいんだからご迷惑だよ。さあ、さあ、帰るよ! おふたりともありがとうございました。」
すると志桜里は今度は西川に近づいて行き、満面の笑みを浮かべたアイドル顔をして甘えるようにお願いしていた。
「店長さん、ダメですか?」
西川は志桜里のその笑顔と言葉に完全にやられてしまい、自身の顔のニヤニヤが止められなくなってしまっていた。
「全然いいですよ。何度でも、好きなだけ見て行ってください。私が案内しますから。大森さんもどうぞ!」
急に張り切って声を上げ、その会場である駐車場奥のスペースに向かって勢いよく歩き出していた。
「ルミ頑張れ。」
志桜里は小走りにルミの元に行きルミの手を取って小声で言うと、再び走って大森の元に行き今度は大森の手を引っ張って西川を追っていった。
「あれ? ルミは?」
「ルミには当日のお弁当の打ち合わせを、木村さんとしといてって言いました。さあ行きましょう。行きましょう。」
志桜里は大森の手を強く引きながら、後ろにいるルミに向かってウインクしてみせていた。
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