第46話 私、アイドルなんだ
残されたルミとオサムは、しばらくお互い何か気まずいまま無言で立っていたが、ルミの方が先に重い口を開いた。
「オサムさん、何で私たちこんな風になっちゃたんですかね? 考えれば考えるほど、私わからなくなっちゃって。」
ルミは悲しそうに下を向いていたのだが、オサムはどう答えていいかわからず、無言のまま動けずにいた。
「私が何回も会いに行ったりしたから、いけなかったんですね。きっとそうなんですよね。」
再びルミが下をむいたまま小さな声でつぶやいた。
(違う、絶対に違う。ルミちゃんは悪くない。悪いのは・・・。)
「悪いのは俺だよ! ルミちゃんは全然悪くないよ!」
オサムが急に大きな声を出したものだから、ルミは驚いて顔を上げると顔を真っ赤にして自分の方を見ているオサムが目に入ってきた。
「俺ルミちゃんと何回か会ってるうちになんか勘違いしちゃって、ルミちゃんが俺のすぐ近くにいるって、ルミちゃんの存在を身近に感じすぎちゃって、それでルミちゃんが活躍するのを見て、なんだかまた遠くに行っちゃったみたいに感じちゃって・・・。」
オサムは一気に吐き出した。
それを聞きルミは今のオサムの気持ちと、今まで自分を避けるようにしていたオサムの態度の訳は何となくだが理解することはできたのだが、自分の気持ちは伝えられていないと思っていた。
(私は? 私はどうなの? 私はオサムさんに迷惑かけてないのかな? それに私の気持ちは・・・。)
「違うよ、勘違いさせようとかじゃなくて、私は小さい頃からずっとオサムさんのことが気になってたんだよ。だって、オサムさんは私のあこがれだから。だからそんな風に言わないでください。私はオサムさんのこと・・・」
するとオサムはルミのその言葉を遮るようにして突然ルミの両肩をつかみ、ルミの目をしっかり見て大きな声を出し、ルミにその先の言葉を言わせなかった。
「ダメだよ! ルミちゃんはアイドルなんだから。絶対にダメだよ! ルミちゃんはアイドルなんだよ。大勢のファンの前で最高のパフォーマンスを見せなきゃ。だから・・・。」
オサムはそう言うと力なくルミから手を放し、再び下を向いてしまっていた。
ルミもしばらく無言でうつむいていた。
(そうだった、私はアイドルなんだ。私のパフォーマンスを大勢の人たちに見てもって、大勢の人たちに喜んでもらいたい。だから私はアイドルになったんだ。だからもっと頑張らなきゃいけないんだ。オサムさんもそれを望んでくれてるのなら、オサムさんの期待に応えなくちゃ。ありがとうオサムさん。)
オサムの言った言葉はルミの心に刺さった。
「ありがとうこざいます。オサムさんの言葉でなんか私吹っ切れました。だからオサムさん、私のことをこれからもずっと見ていてください。私頑張りますから。」
まっすぐな目をオサムに向けてルミは言うと、その言葉を聞いてオサムは、ルミの顔をしっかり見て答えていた。
「うん、なんか偉そうに言ってごめんなさい。でも僕も言いたいこと言えて、すっきりしました。これからもルミちゃんだけ見てます。ずっと応援します。ファンとして幼馴染として。」
「ありがとうございます、でも今後もステージの上からオサムさんを見つけたらすぐに、”ラブラブビーム”送っちゃいますからね。その時はオサムさん、しっかり受け止めてくださいね。」
ルミはアイドルの笑顔に戻って、オサムに向かってラブラブビームを放つポーズをしていると、そこへ”2回目”の下見を終えた3人が戻ってきて、大森がルミに向かって大きな声で呼びかけた。
「お待たせルミ、なんだか楽しそうだな。」
ふたりは慌てて背中を向け、お互い遠い空を眺めていが、大森はそんなことは気にせず、ルミに尋ねるた。
「ところでお弁当の件はどうなった?」
ルミは慌てて大森の方を見ると、一呼吸おいて満面の笑みを見せて答えた。
「はい、最高のおべんとうを作ってくれるそうです。」
そしてオサムの顔を覗き込んでいたが、オサムはいつもと違って、何故か普通に笑顔でうなずいていられた。
そのルミとオサムの様子を見て、何かを感じた志桜里は大きくうなずいた後、大きな声でルミに言っていた。
「ルミの好きなものばかりリクエストしたんじゃないだろうね。」
そしてルミに駆け寄り抱きつくと、ルミはしっかり志桜里を受け止めていた。
「解決したんだね。よかったね。」
志桜里が小声で言うと、ルミはより一層笑顔になり小さく志桜里にだけ聞こえるくらいの声で返事をしていた。
「はい。」
「でもさっきのあのポーズは何?」
志桜里はさっきルミがオサムに放ったラブラブビームのポーズをして見せると、ルミは恥ずかしそうに真っ赤になっていたが、そのルミの顔を見て志桜里も笑顔でうなずいていた。
3人が帰って数時間がたってあずまや武蔵台店は閉店していた。いつもは真っ先に帰るオサムが誰もいなくなった事務所にひとり残っていたのだが、決して残業をしていたわけではなく、ただ今日あったことを思い出していた。
実際に西川からは何度も、”先に帰りますけど大丈夫ですか?” そう声を掛けられていたのだが、ほとんど反応しないオサムを見て、あきらめて西川も帰ってしまっていたようだ。それでもオサムは、今日のことで何かが吹っ切れて、強い決心をもってイベントに臨むことを決めていたのであった。
(俺がルミちゃんにしてあげられることは・・・。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます