第23話 優等生ルミ

「この店で良かったかな? 私が勝手に決めちゃったけど。他に行きたいお店とかあったのかな?」

 志桜里が正面にいる少し緊張した面持ちでいるルミに聞いていた。

 ルミは少し暗い店内を見回していた。

(確かにこのお店高そうだな。店内の雰囲気素敵だし・・・、こんな感じのお店、来たことないよ・・・。)

「いいえ、特に行きたいお店とか無かったです。それにしてもこのお店とっても素敵ですね。さすが志桜里さんが選んだお店だけありますね。」

 ルミはお店の雰囲気に少し気後れしながらも、笑顔で優等生的な返答をしていた。

「私が選んだからってそんな風に言わなくてもいいのに、そんなに気を使わなくていいんだよ。」

 志桜里は笑顔のルミを見て答えた。

「でも今のルミの答え方は100点満点だね。いや120点かな。今の聞いて悪い気する人はまずいないと思うよ。さすがルミだね。」

 何故かルミのことを褒めるよな言葉を口に出していたが、志桜里のその言葉にルミは何か違和感を覚えていたのだが、その場は特に何も言わないで志桜里の顔を見ていた。

「ルミは普段はどんなところに食事に行くの?」

 また志桜里はルミに質問してきた。

「そうですね、私あまり外食とかしないんで、コンビニでおにぎりとかお弁当買って来て家で食べていることが多いですかね。」

 ルミは不思議に思いながらも少し恥ずかしそうに答えた。

「そうなんだ。全然外で食べたりはしないの?」

 志桜里が次々質問してくるので、ルミは戸惑いながらも再び素直に答えた。

「そうですね・・・。たまに外で食べるとすれば、家の近くのファミレスぐらいですかね。後は駅前にあるハンバーガーショップもたまに行きますね、私エビバーガー好きなんです。あっ、でもそのお店からもテイクアウトしちゃうことが多いから、結局家で食べてますね。うふふ。」

「うーん。ルミは頭の回転が本当に早いね、まわりのことが見えてるね。本当にしっかりしてるよ。まだ若いのに感心しちゃうよ。」

 志桜里は笑顔でうなずきながら、何故かそんなことを言っていたが、そう言っている志桜里もまだ23歳なのであったが・・・。

「えっ、そうですか? そんなこと無いです。私なんか全然しっかりしてないですよ。ただ普通で、何の特徴が無いっていうか・・・。」

 最後の方は口ごもりながらルミが言うと、志桜里はルミの様子を見て少し考えてから言っていた。

「そうだね。ルミは優等生過ぎて何かインパクトがなくて、まわりの人から見ると普通に見えちゃうんだね。いい個性持ってると私は思うから、すごくそれがもったいなく感じちゃうな。」

(あぁ、志桜里さん今日はダメ出しするために私を誘ってきたんだ。でも志桜里さんの言ってることは正論だし、私ってグループ内で埋もれちゃってるから仕方ないか・・・。)

 志桜里の言葉を聞いてルミは身を縮めて小さくなっていると、志桜里はルミのその様子に気づいてはっとした表情になっていた。

「ごめん、ごめん。なんか違う方向に話がいっちゃって、今日はそんな話しに来たんじゃないんだよ。今のことは忘れて!」

 少し慌てた様子で、大げさに手を顔の前で振っていたが、ルミはその慌てた志桜里の姿を見て、なんだかおかしくなって笑顔に戻っていた。

「志桜里さんでも、そんな風に慌てた感じになることってあるんですね。私そんな志桜里さんの姿初めて見ました。」

「そうかな? 私なんかしょっちゅうテンパってるんだよ。ライブの前なんか特にね、でも今まではいつもすぐそばに沙由と美里愛がいてくれたから、何とか落ち着くことが出来て、冷静さを取り戻せて頑張れてたんだ。」

 志桜里は言うと、少し寂しげな表情を見せた。

(あれ? 志桜里さん急にどうしたんだろう。私変なこと言っちゃったかな? それに今の言葉も何か引っかかるな。)

 ルミは志桜里の表情の変化にすぐ気づいていたが、何も聞かずにただ志桜里を心配そうな表情でみていた。

「ルミ。今、私がちょっと落ち込んだなって思ったでしょう。」

 いきなり志桜里が静かな口調で言ってきた。

「えっ、何のことですか? そんなことないですけど・・・。」

 ルミは志桜里が言ったように確かにそう思っていたのだが誤魔化していると、志桜里はその言葉が終わるのを待たずに言葉を続けた。

「ルミは本当にしっかりしてるよ。そうやって人の気持ちの変化とかすっぐ察することができるんだもの。でもね、それがルミの良いところだと思うんだけど、その思ったことを自分の中で処理しようと思っちゃうんでしょ。」

 ルミに向かって冷静な言葉で言っていた。

(志桜里さんは何でもわかっちゃうんだ。私の心の中までも・・・。)

 

「でもね、ルミ。いつもまわりのことばかり考えてちゃだめだよ。ときには自分中心に考えてもいいし、自分の言葉を自分の口からまわりに伝えるように発信しなくちゃダメなんだよ。だから言いたいことは言わなくちゃ。」

 さらに志桜里はまたルミにダメ出しをしているような言葉を発してしまっていたが、ルミがなんだか気まずい感じになって再び体を縮めてしまっていたのを見てすぐに気づいて口に手をやった。

(しまった、またやっちゃった)

「違う、違う、ごめん、本当にごめん、また説教みたいになっちゃった。」

 志桜里はさっき以上に大げさに手を振り、何度も何度も頭も下げて謝っていたが、ルミは今度はその慌てた志桜里の姿を見ても笑顔にはならずに答えた。

「いいんです、そんなに謝らないで下さい。志桜里さんは私のことを思って言ってくださったんですから、気にしないでください。今後もどんどん気付いたこと言ってください。私、志桜里さんとあまり話したことないんで、今日はとても嬉しいんです。」

 真面目な顔でまたまた優等生的な言葉を発し笑顔を見せていたが、内心ルミはかなり落ち込んでいた。志桜里も自分の話でルミにつらい思いをさせてしまったのを感じて、申し訳なさそうな顔をしながら、ルミに対しての回答としては模範的な言葉を口にしていた。

「そう言ってもらえて嬉しいよ、ありがとう。」

 ルミも志桜里の言葉を聞いて少し安心した表情を浮かべていた。

(よかった。でも話っていったい何なんだろう。少し怖いけど・・・。でも私から聞かないと・・・。

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