第7話 夢の後
ルミが帰ってからオサムは先ほど自分でも言っていたように本当に仕事にならずに、ただ売り場と事務所の往復を繰り返していた。しばらくしてオサムは夕方の休憩を取る為に再びお店の食堂に来ていたが、相変わらず抜け殻のようになって自動販売機で買ってきたペットボトル飲料のキャップも開けずに、ボーッと椅子に座って休憩を取っていた。
オサムがしばらくそうしていると、そこに少し遅れて同じく夕方の休憩で西川がやっ来て、抜け殻状態のオサムを見つけていた。
(あっ、木村さん仕事全然しないで、また休憩ですか。いいご身分ですね!)
さっきのこともあったのでオサムから離れた席に着こうかと思ったようだが、何だかそれも大人気ないと思い、結局オサムの向かいの空いていた席に向かっていた。西川が席の前まで来るとオサムも西川の顔を見て、何となく気まずく思っていたのだが(自業自得なのだが・・・。)、軽く会釈すると西川もぎこちなく会釈を返しながら椅子に座り、買ってきた缶コーヒーをひと口飲んだ。
「木村さん、さっきはどうしたんですか?」
オサムはやっぱりさっきのことを西川は怒っているのだと思い、今はルミも帰って普通の精神状態に戻っていたので、本当の理由はさておきとりあえず
「すみませんでした。自分でもよくわからないんですけど、あんな態度とってしまって、本当に申し訳ございませんでした。」
「いいえ、私のことはどうでもいいですよ。それよりせっかくあの子がお礼を言いに来てくれたのに、木村さんほとんど何もしゃべらないでいたものですから、何か私まで申し訳なく思えてきて、木村さんかなり変でしたよ。いったいどうしたんですか?」
西川は自身本当はオサムに対して少し面白くなく思っていたのだが、あえて話をそっちの方向へ持っていって話しをすると、オサムは西川の言葉を聞いてどう誤魔化して答えるか悩んだ挙句、結局いい答えも浮かばず、でも本当のことを西川に話せるはずもなく、聞かれたことを誤魔化す様に質問で返していた
「そんなに変でしたか?」
「すごく変でしたよ。」
西川は答えると、続けた。
「木村さんらしくないっていうか、変な言い方かもしれませんけど、木村さんはどちらかと言うと人に感謝されたりするの好きですよね。」
そう言われたのだがオサムは何のことを言われてるのかわからず戸惑いながらも西川に聞き返していた。
「えっ?どういう意味ですか?」
「だって、アルバイトさんとかに仕事教えてあげて感謝されていると木村さんすごくうれしそうな顔してますからね。」
そう言った後、西川は少し視線を上に向けてから、缶コーヒーのふた口目を飲んでいた。
「そうですかね?」
オサムは少しとぼけてみせた後、ずっと緊張していたせいなのか、今まで気付かなかった喉の乾きを今ようやく感じ、ペットボトルのキャップをひねり、ゴクゴクと一気に飲み始めた。
「それが木村さんの良いところじゃないですか。」
西川は笑顔で言っていると、オサムはただうなずいていた。
「そうですよ。そうじゃなければこの仕事してないでしょ。何か事情でもありましたか?」
オサムは再び問われていたが、どう答えたもんか・・・。その答えは決まっているのだが・・・、それはさっきの少女が神宮ルミであったこと、そして自分がその神宮ルミを応援している熱狂的なファンであること、それによって自分の思考回路が停止してしまったこと・・・、に決まっていたのであるが、やはりそんなこと言えるはずも無く誤魔化すように言うしかなかったようだ。
「なんだったんですかね? 本当に不思議ですね・・・? でも本当に何でもないんです・・・。」
そんな感じでとぼけるように言いかけてオサムは違和感を覚えた。
(あれ? 店長はルミちゃんの事のこと知らないのかな? ルミちゃんしっかり神宮ルミって名乗ってたのに・・・。そういえばこの前ルミちゃんの画像見せた時も誰ですかって言ってたしな。さっき店内でもバックヤードでもルミちゃん素顔だったのに誰も気づいていなかったような?・・・、なんでだろう・・・?)
「何でもなければそれでいいですよ。じゃあ、この話はもうお終いにしましょう。」
西川は進展しない話を終わらせようとしていたが、突然、オサムにとって意外な?言葉を西川は発してきた。
「でも、さっきの子可愛かったですね。」
「えっ。」
その言葉を聞いてオサムは驚いてしまい言葉を詰まらせていると西川は続けた。
「さっきの子ですよ。まあ私が言うのも変ですけど、アイドルになれるぐらい可愛かったですよね。それに誰かに似てますよね? でも誰でしたかね? それとも私、どこかで会ったことがあるんでしょうかね?」
そう言うと首をひねった。
(やっぱり店長はルミちゃんのことを知らないんだ。誰だっけとか本当に失礼だよな。それに何言ってるんだ? アイドルになれるじゃなくて、正真正銘のアイドルの神宮ルミなのに・・・。もうマジか? ひょっとしてみんなも知らないのかな? そんな・・・。)
西川の言っていた言葉を聞いてオサムは少し寂しく悲しく思っていた。
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