異形の街 05
マンティコアの素材も運び込まれ、とりあえず予定も無くなったシルヴァは買い物に来ていた。
なお、アルスは留守番である。
届けられたマンティコアの素材の鮮度を保つために、倉庫の気温を下げているのだ。
「別に、冷却用の魔道具だってあるのになぁ。」
一人街を歩きながら呟く。シルヴァはアルスにもそう告げたのだが、本人いわく少し新しい体の使い方を確認したいからと押し切られてしまっていた。
「まあ、あそこは元々アルスの家らしいし大丈夫か。・・・さて、今日は何を作ろうかな。この辺りは・・・穀物はほとんどないみたいだしなぁ。」
バレーナは、水も豊富かつ温暖であり農耕に適した気候ではある。しかし、マンティコアに代表されるような危険な魔獣により、とても広範囲で農業ができるような環境ではない。酪農も同様である。
故に、バレーナで手に入るのは魔獣の肉が基本である。また、人馬種のような肉を食べられない幻妖種の為に外部から野菜はある程度安定して供給されている。
「・・・適当に肉料理でいいか。香辛料とかは色々あるみたいだし。あーでも、アルスは肉食べるのかな・・・なにか主義とかあったら困るけど。」
と、シルヴァはまた独り言が多くなっていることに気づいて苦笑する。
そして、周囲を見渡し近くの露店の店主に声をかける。
「こんばんはー。今日の夕飯に使う食材を探してるんですけど、良いお肉とかありますかね?」
「・・・あ、いらっしゃい。見ない顔だね。」
「旅の身ですからね。それで、どうですかね?」
「悪いけど、あんまり良い食材は入ってないんだ。」
「あれ、そうなんですか?」
シルヴァが声をかけたのは、
人蛇種。人間の上半身と、蛇の下半身を持つ女性だけの幻妖種である。
年齢を重ねても外見があまり変化せず、刹那的な快楽を好む享楽主義者が多く、総じて陽気な者が多いのが特徴だ。
しかし、シルヴァが声をかけた露天の店主は疲れた表情を浮かべており、とても陽気とは言えない雰囲気だった。
「なんだか、随分と不景気な顔してますね。」
「ははっ・・・不景気か。まあ、そうとも言えるかもね。」
「と、言いますと?」
「うちは魔獣の肉を加工して売ってる店でね。私はこれでも人蛇種だから、毒の扱いには慣れてるし、普通は食べられない肉とかを処理して販売してるんだ。」
「へぇ、それは凄いですね。」
「はっ、大した事じゃないよ。こんなの知識があれば誰でも出来るさね。まあともかく、うちはそういう商売をしてるんだけど・・・加工前の肉が、あんまり手に入らなくなってね。新鮮な肉の価格は高くなるわ、そもそも質のいい肉なんて入らないわで商売上がったりさ。」
うんざりした表情で店主はため息を零す。
「ここらも普段はもっと沢山店が並んでるんだけどね。今は肉に限らす色んな品物が入らなくて、みんなさっさと店じまいしちまったのさ。」
「品物が入らない?それはまたどうしてです?」
「ヤバい化け物がこの辺りに出たんだとさ。肉が入らないのは、食材になる魔獣をその化け物食い尽くす勢いだかららしいよ。幸い、街道や街からは遠くにいるらしいけど。」
「化け物、ですか。・・・でもそんなの、バレーナだったらよくある事なんじゃないですか?」
「そりゃ、たまにはあるけどね。今回のヤツは、いつもとは違うらしいよ。魔獣、じゃなくて化け物って言われてるのは、そいつがどんな魔獣とも違う見た目をしているからだってさ。まるで、適当な生き物を繋ぎ合わせたような、気持ち悪い見た目らしいね。」
「はぁー・・・恐ろしいですね。」
「こっちとしちゃ迷惑もいい所さ。・・・それで?ここまで話をさせといて、まさか手ぶらで帰るなんて言わないだろう?」
店主はそう言うと、店先に並んだ肉を指さす。
「質は良くないが、悪くもないさ。それを美味くするかどうかは、あんたの腕次第ってことさね。」
店主の言葉通り、それらの肉は色こそ良くないが魔法で保冷されているのか保存状態は悪くなさそうである。
シルヴァはその売り文句に思わず笑みを零す。
「そう言われてしまうと、引き下がる訳にも行きませんね。では・・・高くても良いので一番質が良いっていうか、安全なものをお願いします。僕は純人種なので、あまり刺激が強いものは危ないので。」
「ははっ、言ったね?ほれ、じゃあこれなんてどうだい?ちっと値は張るが、間違いなく安全だ。それに、ここにある中じゃあ一番鮮度が良い。」
「これは・・・へえ、
シルヴァは料金を確認すると、店主に手渡す。
「はい、どうも。なかなか景気良いじゃないか。あやかりたいもんだね。」
「まあお陰様で。僕はしばらくこの街に滞在する予定ですから、贔屓にさせてもらいますね。」
「ああ、また来なよ。色々厳しいからサービスは出来ないけどね。」
「あはは、正直に言いますね。」
シルヴァは肉を受け取り、露店から離れる。
購入した肉は、確かに割高ではあるがシルヴァ一人なら数日はもつ程度の量はある。
もっとも、アルスがどれだけの量を食べるのかは未知数だ。
「それにしても・・・適当な生き物を繋ぎ合わせた、ねぇ。帰ったら、アルスに聞いてみよっと。」
手に入れた戦利品を抱えながら、シルヴァは鼻歌混じりで家へと帰って行った。
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