昔話と相互理解
いやいやいやいやいやいやいや。
無理だって、流石にこの状況で冷静さを保つのは不可能だよ。
女の人とお風呂に入ったのなんて母さんと師匠くらいだし、どっちも子供の頃の話だ。
それだけでもかなり緊張するのに、その相手がとてつもない美人で、さらに僕のことを好きだと言い切っている相手ともなれば。
落ち着いてなんていられないっていうかいややっぱ無理だって脳内の思考で誤魔化すのも限界だよ頭真っ白になるわ言葉も思いつかないわ同じお風呂に入ってるはずなのにいい匂いするわ服がお湯で張り付いてて完全にボディライン見えてるしいやちょっと待って無理無理無理
ああああああああああ!
「ごめんヒルダ!ちょっと刺激が強すぎる!」
恥ずかしながら白状すると僕はいわゆる『そういうお店』とかにも行ったことないから女性に対する免疫とかほんとに一切全く無い。
なんで行ったことないかって?下手したら、いや下手しなくても高確率で死ぬからだよ!
そりゃあ、旅をしている間には、もっと露出の多い格好をしている人とかいたよ?
『そういうお店』を利用したことはないけど、縁があって助けたりはしたこともある。
でもね?この距離で、互いを男女と認識した上で、特に理由もなくお風呂に入るとかいう非日常・・・っていうか異常な状況で冷静さを保てるほど強いハートはしていない。
叫びながら立ち上がる。もうこれ以上は耐えられません。とりあえず一旦撤退を・・・って。
「まだ入ったばかりでは無いですか。もう少しゆっくりしていきましょう?」
「うおっいつの間に!?」
ヒルダに腕を掴まれてそのまま座らされてしまう。ちょっ、ビクともしない!不思議と掴まれてるところ全然痛くないのに動けない。
鬼神種程の上位種になると、力の制御も完璧みたいだ。
つまり、実際に
「いや、もうほんと限界って言うかお風呂の気持ちよさとか全くわかんないし目のやり場にも困るしどうしたらいいのかもう全然わかんないよ!」
「そ、そこまでですか・・・?私と一緒に居るのは、嫌、なのですか・・・?」
「うぐぅ!?」
よくわかんない衝撃で変な声出た。
そ、そんな悲しそうな顔と声でそんなことを言われたら・・・
「い、嫌、ではない、けど・・・」
「・・・ふふっ、まあ、私とて少し性急だとは思っています。ですから、今日今すぐここであなたを手篭めにしようとは思っていませんよ?」
ヒルダが僕を手篭めにするのか・・・
いや、力的には確かにそっちの方が強いからそうなるけども。
「だから、今日はただお話をしましょう?私は、あなたの事をもっと知りたいです。」
「・・・・・・・・ふぅ、そうだね。僕が意識しすぎてたよ。ヒルダがそういうのなら、せっかくだから少し話そうか。」
全精神力を総動員して表情を取り繕う。
落ち着いたとかそんなわけないけど、ヒルダが話をしたいだけだと言うのなら・・・
過剰に意識してる自分が、なんかその、恥ずかしくなった。
いや正直過剰ってことは無いと思ってるけど、これ以上思考を続けてもいい方向には進まなそうなので全力で自分を騙す。
「そうだなぁ・・・何から話そうか。」
「私のことは、里の案内と一緒に話した方が良いと思うので・・・今日は、シルヴァのことを聞かせてください。」
「僕のこと、かぁ・・・うーん、そうなると何から話せばいいのやら・・・」
話すようなことがない・・・という訳では無い。それなりに長いこと旅をしてるし、色々な経験をしてきてはいる。
しかしだからこそ、何を話せばヒルダが面白いと感じてくれるかわからない。
「そんなに難しく考えないでください。最近あったこととかで十分ですよ?」
「最近あったことか・・・じゃあ、この山の麓にある街での話とかしようかな。」
麓の街とはもちろん、僕がこの里の情報を聞いた酒場があるあの街だ。
「この里に来るまではその街に居てさ。ちょっと縁があって、色々良くして貰ったんだよ。」
「縁、ですか?」
「そう。まあ、少し長い話になるけど・・・」
このお風呂はいい湯加減だ。多少長風呂しても大丈夫でしょ。
「麓の街・・・バレーナって言うんだけど、知ってる?」
「バレーナ・・・もちろん、知ってはいます。少ないですが、交流もありますからね。もっとも、私は行ったことはないのですが・・・」
「あれ、そうなんだ?じゃあ交流って言っても、商人がこの里に来るのが基本ってことかな。」
「まあ・・・そう、ですね。私は、外に出ることはほとんど無いですから。」
ふむ、そうなんだ。やはり長ともなると色々あるのか・・・それか、ヒルダが自己紹介の時に言っていた『封神の里の神子』、というのが何か関係があるのか。
ま、その辺はヒルダが里を案内する時とかに教えてくれるでしょ。
僕も話すのが得意な訳では無いけど・・・
あったことをそのまま話すことくらいならできる。と思う。
「さて、じゃあ話そうか。僕がバレーナに来たのは・・・大体50日くらい前だったかな。」
そして、僕は語る。
シルヴァ・フォーリスが経験した、最も直近の騒動を。
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