「それでマジックペンを持ってたの」

 鼻のティッシュを詰め替えながら私は即興で考えた言い訳を話し終えた。


 言い訳の内容はこうだ。

本を読んでダーツに興味を持った。

的がないのでカレンダーに的を書きに立った。

急にドアが開いてびっくりして叫んでころんだ。

たまたまマジックペンを持っていたまま壁に手を付いたので壁に穴が空いた。


「……、特に何かいたわけでもされた訳なかったのならいいわ」


 私の顔を見て真剣な目で見つめる彼女は、この病院の看護婦さんの一人だ。

私は彼女の発言に全力で肯定して鼻のティッシュを詰め替えた。


「とりあえず的になる紙は私が今度持ってくるから

 今日はその鼻血ティッシュが取れるまで大人しくしてなさい。」


 最後に怪我に気をつけて片付けるよう注意して彼女は病室を離れた。


 作戦はすべて成功した。

脱力した息を吐き、鼻のティッシュを詰め替える。

あとは反省を示すために申し出た破片の片付けで不自然な形のものを処分すれば証拠隠滅完了。

この現象についてはこそこそ調べていけばいい。


怪しい破片と壁に残った加工痕を折り取り、それらをポケットしまう。

破片といえどさすが石膏ボードずっしりとした重さが体に響く。

残った破片をゴミ箱に集めて私はベットに座り一息ついた。


 鼻のティッシュを詰め替えながら今後の方針を考える。

まずこの指先に集中するとなにか出るこの現象、壁に何度か穴を開けた結果これは私の視線の先に着弾している。

着弾という表現なのも、私が投げたと認識してから穴が開くまでタイムラグが生じている為だ。

このことから実験は人目がなく広い所が適している。

私が普段で歩いていて目立たない場所ならお昼の運動コースの屋上がいい。

あそこならば上から見られる心配もないから出入り口だけ気にしてれば大丈夫だ。

そうと決まれば明日から早速実験を始めよう。


 鼻のティッシュを詰め替えているとドアをノックする音が聞こえた。

少し低い位置から聞こえる可愛らしい、この音は最愛の義弟が来た証拠だ。

どこからか姉の怪我を聞いて飛んできたのだろう。

心配そうな彼をお上品になだめ私は鼻のティッシュを詰め替えながら昨日読んだ本の話や今日の出来事を話し慎ましく過ごした。


「薫。今度来たときあの甘いお菓子を買ってきてくれるかしら?」


 帰り際に私は彼にお使いを頼んだ。

結果的に折角の休日を台無しにしてしまった彼女にお詫びするためだ。

先程カジュアルな服を着ていたのはきっとお出かけのついでに寄ったからだ。

悪意がなかったにしろ私の自作自演で時間を取ってしまったのだ。

これくらいのお詫びをしなければ罰が当たる。


 返事をしながら扉を占める彼を見送り、私は3箱目の蓋を開け、また鼻のティッシュを詰め替える。

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