第一幕

 壁に開いた小さな穴を見つめ私、金城 鈴は悩んでいた。

悩んで行き詰った時は状況を整理することが前進のきっかけになる。

 私の名前は金城 鈴(かねしろ りん)、数えで十五の乙女。

激しい運動が禁じられている、儚くも可憐な乙女である。

好きな食べ物はタコ焼き。

嫌いな食べ物は鬼灯(ほおづき)。

 今日の天気は五月雨、外の不快感と違い病室は自由が少ないという点を除けば快適である。

そんな可憐で快適な乙女である私は悩んでいる。

なんでもない小さな穴を壁に開けてしまい、言い訳に悩んでいるのだ。

 素直に謝れば許してもらえる、この問題をややこしくしている原因はたった一つ。

どうやって穴をあけたのか私自身がわからないことである。

もし私の謎の力が働いて空いた穴ならば他人に知られれば実験動物になること間違いない。

 早急に原因が私なのか自然現象なのか判断しなければならないが原因がわからない以上わからないことはわからないとして、わかることを増やしていこう。

 まず机にあったボールペンを穴に近づけてみる。

ペンと比べるとわずかに小さい穴は目立たないサイズ感である。

しかし困ったことに、この穴は目立ちたがり屋で縁取るように周囲が焦げていた。

ちょっと分析した結果、なぜ焦げたのかという新しい問題が浮かび上がってしまった。

自分の分析力が恐ろしい。

 そういえば再現性という言葉を聞いたことがある。

なんで起こったのか分からない事情をもう一度再現し同様の変化が起こるか確認することだ。

 先刻のことを思い出し再現してみる。

まず本を読み終える、余韻に浸りカレンダーに目をやる。

物語の登場人物の真似をしてダーツの矢を持つふりをする。

彼と同じように指先に集中し目標へ向かって投げる、ふり。

 枕をたたくような音がして先ほどの穴が広がる。

再現性は非常に高いようだ。

理由はわからないが指先に集中して投げるふりをすると穴が広がるか増える。

三つ目の穴をあけて私はある重大な事実に気づいた。

 状況が悪化しているのだ。

最初は間違いなく焦げ付いた小さな穴が一つだった。

今や細巻き程の穴が三か所寄せ合うように配置されていた。

 木を隠すなら森の中。

もう誤魔化すのはやめて引き出しからドライバーを取り出す。

細巻きを囲むようにガイドの穴を空けていく、若干心が弾んでいる。

あらかた作業を終え油性ペン片手に穴に近づく。

あとは病室の扉を誰かが明けるのを待つだけである。

 人の気配をとらえ私は穴の位置を再確認した。

扉が開いたその瞬間、私は頓狂声をあげて穴の位置に油性ペンを突き立てそのまま勢いを殺さず地面へ突進した。

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