第38話 優斗のお父さんは……いつか……

……場面は代わり、優斗は自転車で上り坂を走っていた。

蒼は後ろに乗り……。


蒼[……優斗~ッ……どこ行くの~ッ?……ねぇ……やっぱりあたし降りようか?……]

優斗[はぁッ……はぁッ……ぃ……いぃッ……降りなくてッ……]

蒼[……でも……坂だし……優斗……辛そうじゃん……悪いよ……]

優斗[はぁッ……はぁッ……気にすんなッ!……それよりッ……(間に合ったか!?)……蒼ッ]

蒼[なーにーッ?]

優斗[もー少しだ!……はぁッ……はぁッ……ここを……過ぎ……たらッ……見えるッ……ぞッ!]


優斗が力を振り絞って坂を上りきった……木の間に薄青い空から繋がった水平線に沈みそうな夕陽が一瞬だけ見えた…………。


蒼[わぁッ!……凄いッ……]

優斗[はぁッ……はぁッ……本命はここからだッ!]

蒼[え?]


そう言うと優斗は、もうひと漕ぎした……その瞬間、横に立ち並ぶ木々が途切れた……。

すると!……先程一瞬だけ見えた景色と重なった、どこまでも広がる海が目の前に現れたのだ。

薄青い空から繋がったオレンジ色に光る夕陽は水平線に沿いながら淡く広がり、何とも言えない程の美しい光景であった。

それを見た蒼は……一瞬息をのみ……。


蒼[!……キレイ……]


蒼は……一瞬……時が止まる程の……美しいその光景に目を奪われていた………………。

そして、2人を乗せた自転車は、一気に坂を下る。蒼は優斗の熱くなった背中に頭を寄せながら、美しい光景を眺めていた…………。


優斗[着いたー……]


自転車を降りる2人は、砂浜へと歩き出す。そこには、先程の坂から見えた景色ともまた違った美しい景色が広がっていた。


優斗[どうだ?蒼……キレイじゃねーか?(笑)]

蒼[……うん……すごくキレイ…………さっきの……上から見えた景色も物凄くキレイだったけど……ココから見える海も夕陽も……とってもキレイッ……]

優斗[……そっか……良かった(笑)]

蒼[………コレが海の匂いなんだね……]

優斗[あぁ……え……もしかして臭いか?(笑)]

蒼[うぅん……嫌いじゃないよ……それに……初めて嗅ぐ匂いなのに……なぜか……懐かしい気がする……]

優斗[…………そっ……か……]

蒼[うん]


すると、蒼は靴を脱ぎだし、靴の中に靴下を入れ、片手に持ち、砂の感触を確かめだした。


蒼[……気持ちいい……砂……サラサラ……優斗も脱いだら?(笑)]

優斗[あーー…………だな(笑)せっかくだし(笑) ]


2人は裸足で砂浜を歩く。

蒼は徐々に海の方へと向かっていった。


優斗[ぉ……おい……蒼濡れるぞ……]

蒼[うん]


そして、白波が蒼の足にザザーッっとおしよせる……。


蒼[……ッ……冷たいッ]

優斗[そりゃ~夏じゃねーんだから海水も冷たいだろ(笑)……あ……つーか……夏に連れて来れば良かったな(笑)]


そう言うと優斗も海水に足を着けてみた。


優斗[お~!……まじで結構冷てーじゃん(苦笑)まぁ火照ってる俺には丁度良いけど(笑)]

蒼[優斗ッ(笑)]

優斗[ん?]


蒼が足で水を蹴り上げ優斗に掛けた。


優斗[うわッ冷てッ]

蒼[アハハハッ]

優斗[何すんだよッ蒼~]

蒼[だって優斗暑いんでしょ?(笑)だから(笑)]

優斗[だからって…………だったら……お返しだッ(笑)]

蒼[きゃッ(笑)]


2人の水の掛け合いが始まった。


優斗[うわッ蒼~掛け過ぎだって~びちゃびちゃだぞ俺……(苦笑)]

蒼[優斗が悪いんじゃん~止めないから~見てよあたしのもッほらほら~]


蒼は近くで、よく見てよと言わんばかりにシャツを下に引っ張り強調する。


優斗[そーかぁ?……いや……俺の方が……]


そう言って、蒼のシャツを見る為に近付く優斗に……蒼は。


蒼[えいッ(笑)]


蒼が、またしても水を蹴り上げ優斗に掛けた。


優斗[ぶぁッ!!?プッ!プッ!……蒼~おまえ~ハメやがったなッつーかしょっぱッ!海水飲んだわッ]

蒼[あははッ引っ掛かった~優斗~(笑)]

優斗[……くそ…………つーか……引っ掛かったは良いけど、さっきからパンツ丸見えだからな……]

蒼[……え…………あはは……ごめん(苦笑)……でも……優斗は、いつも見てるでしょ(笑)]

優斗[いつもは見てねーわッ!(笑)]

蒼[アハハッ……そぉ?(笑)]

優斗[……そーだよ………………とも……言えないかもな……(笑)つーか……蒼がいつも下着姿でうろついてるからだろ……]

蒼[フフフッちゃんとあたしのコト見てるんだね(笑)優斗のエッチ~(笑)]

優斗[……ハハハ……(苦笑)]


その後2人は、砂浜に座り沈み行く夕陽を眺めていた。


優斗[……つーか……良かったよ……どうにかこの景色が見れる時間帯に間に合って……(笑)……蒼に……放課後【自転車でどこか行きたい】って言われた時、思い出したんだ(笑)そー言えばずっと前に父さん…………ぁ……いや…………ココに来た事あって、夕陽が落ちそうなこの時間帯が一番キレイに見えるの思い出してさ(笑)…………]

蒼[…………そっか……ありがとう(笑)]

優斗[おう……(笑)]

蒼[…………優斗の…………お父さ]


蒼が、優斗の父の事を聞こうとしたが優斗がくいぎみに……。


優斗[なーなーッ蒼ッせっかくだから写真撮ろうぜ(笑)]

蒼[……ぁ……うん]

優斗[あれ?逆光で上手く写んねーな……あれ?……]

蒼[優斗なにしてるの?(笑)あたしが撮るよ(笑)角度はこっち(笑)ほら、優斗笑って~]

優斗[あ……あぁ……(苦笑)]

蒼[…………優斗?……顔が笑ってないよ~]

優斗[……そうか?]

蒼[そーだよぉ~(笑)]


蒼がわざと優斗の脇をクスぐる。


優斗[なッ何すんだよ~アハハハッ(苦笑)や、やめろって(笑)蒼~]

蒼[アハハハッ(笑)]


【カシャッ、カシャッ、カシャッ】


蒼が優斗をクスぐっている間に写真を撮っていたのだ。

画像を確認して……優斗に見せる蒼。


蒼[……ほら、見て、良い感じに撮れた(笑)]


そこには、ふざけ合い楽しそうにする自然体の2人が写っていた。


優斗[まじか……(笑)俺より上手くなってんじゃん]

蒼[フフフッだって、由衣といつも撮ってるから上手くなったんだもん(笑)]

優斗[そっか……(笑)]

蒼[うん……]


そして、暫く沈黙が続いた後……蒼は優斗が、はぐらかした父の事が、なぜか、どうしても気になり……もう一度優斗に聞いた。


蒼[ねぇ……優斗……]

優斗[……んー?……]

蒼[……優斗の……お父さんの事なんだけど……]

優斗[………………]

蒼[…………]


優斗は暫く沈黙した後……。


優斗[…………父さんが……どうかした……]

蒼[…ぁ…いや…優斗が…嫌なら……答えなくていぃんだけど(苦笑)……ただ……優斗のお父さんって……どんな人だったのかなぁ……って……思ったのと…………………さっき言い掛けて止めたけど…………もしかして……お父さんと……ここに……来たことがあったのかなぁって…………思って……]


優斗は悩んでいた……元々、父だった蒼に……父の話をするのが……何だか……怖かったのだ……もし父の話をして……それがきっかけで真実がバレてしまったら……と。


優斗[……(でも……逆にずっとはぐらかしてる方が怪しいよな……)……]

蒼[……優斗?]

優斗[……そう……蒼の言う通り……父さんと……ここに来たことがあるんだ……]

蒼[…うん…]

優斗[……丁度この時期……このくらいの時間に……そのときさッ……俺……仲良かった友達とケンカして……落ち込んでたんだよ(苦笑)……そんな俺を見て……父さんがいきなりチャリ持ってきてッ【優斗付いて来なさい】って(笑)…………俺は意味も分からず、ただ父さんの後ろを必死になって追い掛けて……(笑)……そしてさ、さっきの坂の途中に来た時に……【父さんッこの坂キツいから帰りたい】って言ったら【男ならこの位で諦めないで、頑張って付いて来なさい】って……そう……まだ、小学生の子供に淡々と話す人でさ(笑)帰り道もわかんねーから仕方なく必死で登りきったのを覚えてるよ(笑)]


父の話をする優斗は、とても楽しそうな表情だった。そんな優斗を見て蒼も嬉しくなり、微笑みながら、ただただ頷いていた。


優斗[そしてさ……さっき……蒼が見た同じ景色を見たんだ…………正直……あの当時とほぼ同じく見えたのは驚いたけどな(笑)……これも……運命……ってやつなのかな……(苦笑)]

蒼[運命……?……そぉ……なんだぁ]

優斗[……あぁ(笑)…………でさぁ……ココに来て父さんが言ったんだ……【優斗キレイだろ……そして……海はこんなにも広い……だから……お前が今、何を悩んでいるのかは知らないが……コレを見たら悩みなんてちっぽけだろ】って……はは(笑)……実際、そんなコト言われても子供の俺には意味不明で、ワケわかんなかったけど(笑)…………でも……こんな景色見せられた後……何だか色々考えるのバカらしくなってさ(笑)……結局その後、俺の方から友達に謝って仲直りしたよ(笑)]

蒼[そっか~良かったね(笑)]

優斗[まぁな(笑)……………だから…………だからさッ……蒼も…………もし……何か悩んでるコトとかあるなら……考え過ぎるのやめろよ(笑)……あ……まぁ……悩んでるかどうかは知らねーけど(笑)……けど……何かあるんなら……俺に相談してくれねーか?……]

蒼[………………]

優斗[……多分だけど……蒼……最近……調子悪いよな?…………もしそうだとしたら……隠さないで……俺には話して欲しいんだ…………]

蒼[………………優斗]

優斗[……うん?]


蒼が立ち上がり……夕陽を見ながら話し出す。

優斗は横で、そんな蒼を見上げる。


蒼[……実はね……あたし……文化祭から……ずっと……目眩が止まらないの……それで……たまに……酷い時は……頭が……痛くて……夜も眠れない時があるの……だから……最近……よく……寝坊しちゃってて……迷惑掛けて……ごめんね優斗……]

優斗[やっぱりか……何で早く言わねーんだよ]

蒼[……だって……言ったら優斗……心配するでしょ……だし……そんなに……大したことじゃないと思うから(笑)]


そう言って優斗の方を向く蒼は笑顔を見せ……髪は夕陽色に染まり……そして、風でなびく髪を耳に掛ける姿はとても女性らしく美しく見えた。そんな蒼を見て優斗は一瞬見とれてしまいボーッとしてしまうが……ハッと我に帰り……。


優斗[……ぁ……いやでも……そんなの分かんねーじゃねーか……もし……何かの病気だったら……その事は……母さんにも言ってないのか?……]

蒼[……うん]

優斗[…………蒼……一度ちゃんと病院に検査しに行こう……(……あ……でも……病院は不味いか……その辺……母さんに聞いてなかったな……)]

蒼[…………うん……わかった……これ以上迷惑掛けたら……優斗にも皆にも悪いもんね……(苦笑)]

優斗[はぁ~……ったく……今は?どうなんだ?目眩は?頭痛くないのか?]


そう聞かれた蒼は……本当は目眩も頭痛もあったのだが……優斗を心配させたくないが為に笑顔で嘘を付く。


蒼[今は全然平気だよ(笑)]

優斗[……そうか……なら良かったけど]

蒼[うん(笑)エヘヘ……心配した?(笑)]

優斗[したわ!……と言うか今も心配してるよ……もし……蒼に何かあったら……俺は……]

蒼[大丈~夫だから(笑)本当に優斗は心配性なんだからッ(笑)]

優斗[あのな~蒼……]

蒼[あー……それより……さっきの話の続きじゃないけど……]

優斗[続き?]

蒼[……その……今は……優斗の……お父さんは……どこに居るの?……]

優斗[……(やっぱ聞いてくるよな……)……あーー……父さんは……………(なんて言ったら……)…………今は………………分かんねー(笑)]

蒼[え?]

優斗[……急にどこかに行っちゃってさ~(笑)探しても見つかんねーんだよ(笑)まぁ~……居ても居なくても一緒だしなハハハッ……(笑)]


優斗は無理矢理、作り笑顔で誤魔化していた。


蒼[……そぉ……なんだ…………ごめん……無神経な事聞いちゃって……]

優斗[別に(笑)全然気にしてねーし(笑)蒼が気にするよーな事じゃねーよ(笑)]

蒼[……でも……でもね、さっき……優斗がお父さんの話をしてる時……すごく楽しそうだったの……きっとッ本当は優斗……お父さんの事が好きなんだよ]

優斗[はぁ~?そんな事ねーし……]


優斗が顔をそらす。


蒼[……優斗ッ]

優斗[なんだよ……]

蒼[優斗のお父さんは……いつか……あたしが見つけてあげるッ]


驚き振り向く優斗。


優斗[なッ……はぁ?なに言ってんだよ蒼……]

蒼[だ~か~らあたしがいつか、優斗のお父さんを見つけて優斗に会わせてあげるのッ(笑)]

優斗[だから……なに勝手に決めてんだよ……]

蒼[……だって……あたしは……いつも優斗に助けて貰ってばかりだし……それに迷惑だっていつも掛けてるし……だからあたしも優斗に何か恩返しがしたいのッ……それに……あたしは優斗の笑顔が見たいし、幸せになってもらいたいのッ(笑)]


そんな事を言われた優斗は、恥ずかしくなり顔をそらす。


優斗[(笑顔が見たいからって……それに……幸せににって……)……な……なんだよそれ]

蒼[……だから……いつか優斗のお父さんを探して、優斗に会わせて、とびっきりの笑顔になってもらいたいの(笑)そしたら、あたしも嬉しいし、幸せな気持ちになれるでしょ(笑)……ぁ……あたしが嬉しいじゃ…優斗への恩返しにならない?……ん?……結局あたしが嬉しいだけ?あれ?]


優斗は1人でブツブツ言ってる蒼の事がつい可笑しく見え笑ってしまった。


優斗[……ぷッ……あはははッ(笑)何さっきからブツブツと解決したようでしてない会話1人でしてんの(笑)]

蒼[え~だって~……真剣に考えないと優斗を笑顔にする事出来ないじゃん]

優斗[ははは……何だそれ(笑)]

蒼[だって~……]

優斗[………………よッ……ッと……]


優斗は立ち上がり蒼の方を向く。


優斗[ありがとうなッ……蒼……俺は……蒼のその気持ちだけでじゅ~ぶんッ笑顔になれるよ(笑)だから……俺の為に特別な事をしてくれなくても……俺は……蒼がずっと……一緒に居てくれたら幸せにもなれる(笑)]


そう言って優斗は蒼を抱きしめた。


蒼[……優斗]

優斗[蒼……]

蒼[………………でもそれじゃ~ダメなのッ]


蒼はそう言って、優斗の胸のところを少し押し、離れる。


優斗[……え]

蒼[あたしだって優斗に何かしたいんだもんッ]


蒼は顔をプク~っとさせ、怒顔で優斗を見つめる。


優斗[(怒顔……可愛い…………じゃなくて)……蒼……お前なぁ~今……結~構……良い場面だったと思うんだけど……]

蒼[だってッ優斗ばっかりズルいんだもんッ]

優斗[ズルいって……何もズルくねーだろ……]

蒼[ズルいよ……]

優斗[だから……俺は……蒼さえそばに居てくれれば幸せだって(苦笑)]

蒼[違うのッそれじゃ~ず~とあたしは何もしてあげられないままだもんッ……嫌なのッ……ただ何もたしないで優斗に貰ってばかりじゃ……だから……せめて……優斗のお父さん見つける約束がしたいだけなのッ……]

優斗[……ッ……(そんな事言ったって……無理だろ……)]


沈黙する2人。

すると、蒼が突然歩き出す。


優斗[……お……おいッ……蒼ッ]

蒼[…………帰るね……]

優斗[帰るって……突然どーしたんだよッ]

蒼[……1人で帰るから優斗は先に帰ってて良いよ]

優斗[……なんでだよ……]

蒼[…………]


後ろから追い掛ける優斗……が、蒼はスタスタと歩き進む……。


優斗[……帰り道分かんないだろッ…………って自転車……]

蒼[分かるもん……]


優斗は自転車を取りに行く。


優斗[蒼ッそっち逆方向だってッ(いきなりどーしたんだよ蒼のやつ……)]


蒼はピタッと止まり、進行方向を変える。


優斗[…………(やっぱり……わかってねーじゃねーか……)]


すると……蒼が突然しゃがみ出す。


優斗[!蒼!?]


優斗は自転車を思わず倒してしまうが……そのまま急いで蒼の方へと駆け寄る。


蒼[……ッ……はぁッ……はぁッ……はぁッ……]


蒼は頭を抑え呼吸も早くなり、苦しそうにしていた。


優斗[蒼!大丈夫か!?]

蒼[……はぁ……はぁッ…………優……斗……………………]

優斗[おい!……蒼!……蒼!……]


蒼はそのまま意識を失ってしまった……。


優斗[……ッ……蒼ッ…………(救急車か!?……でも……蒼は特殊だ……落ち着け………まずは………………脈を………………)]


落ち着いて脈を計る優斗……続いて呼吸を気にする優斗。


優斗[(脈は………少し早いか………呼吸……辛そうだな…………後は取り敢えず母さんに電話だな)]


優斗は急いで母に連絡をする。……が、何コールしても、中々、母は電話に出ない……。


優斗[……(くそッ……母さん……頼む早く出てくれ……)]


すると……蒼が意識を取り戻す……。


蒼[……優……斗……]

優斗[!……蒼!?……大丈夫か!?今母さんに連絡してるから!動くなよ!]

蒼[…………うん…………あ……のね……優……斗……あ……たし……]

優斗[蒼ッ……無理すんな!今は喋らなくていいから!後でちゃんと聞くから!]

蒼[…………さ……っき……は……………………]


蒼は何かを言い掛け……また、意識を失った……。


優斗[蒼!?…………頼むッ……母さんッ……早く出てくれ!…………]


すると、母がようやく電話に出た。


母[はい?どーかした?]

優斗[母さん!!蒼が!倒れたッそれで!…………(ダメだッ……落ち着け俺)]


優斗は一度深呼吸をし、冷静に状況を伝えた。


優斗[……母さん……蒼が今意識を失ってる……さっき、頭を抑えながら痛そうにしだして………そのまま倒れてる……]

母[……脈拍は?呼吸は?]

優斗[脈は少し早い、呼吸も辛そうにしてる……]


母[……今、どこに居るの?]

優斗[……今……海に来てて……]

母[……そう……それじゃ……蒼ちゃんの場合……救急車は呼べないから……タクシー呼んで家に帰っててちょうだい、母さんも直ぐに家に帰るからッ]

優斗[分かった……]


優斗は直ぐにタクシーを呼んだ。

待っている間、蒼は体温が高くなっていた。


優斗[……蒼……今タクシー呼んだからな、頑張れ蒼……]

優斗は蒼のシャツのボタンを2つほど外し、少しでも体温を下げるよにシャツをパタパタとしてあげた。

そして……暫くし、タクシーがやって来た。急いで優斗は蒼を背負いタクシーへと乗り自宅へと急いでもらった。

……自宅に着き、優斗は蒼を部屋まで運び、ベッドへ寝かせた。


優斗[……(母さん……早く帰ってきてくれ……)]


蒼に何もしてあげられない優斗は母の帰りを待つことしか出来ず……無力な自分に苛立っていた。

すると、部屋の扉が勢い良く開く。


母[蒼ちゃんは!?]


急いで駆け寄る母。


優斗[母さん……まだ、意識は無い……]


母が瞳孔を調べたり、脈を計りだした。


母[…………優斗……父さんの研究室のベッドに蒼ちゃん移すから手伝ってちょうだい]

優斗[分かった]


蒼を静かに父の研究室へと運んだ。

それから、母はテキパキと優斗に指示をし、検査の準備を始めた。


母[蒼ちゃん、ごめんね、ちょっとチクッとするわね(……まさか……こんなにも早く……こんな事態になるなんてね……)]


母は採血を始めた。


母[優斗、ちょっと色々と調べるから、アナタは部屋から出てなさい]

優斗[……いや……俺も手伝うよ……]

母[いいから……]

優斗[いや、でも……]

母[心配なのは分かるけど、今から蒼ちゃん、服も脱がせて調べるから……アナタはちょっと休んでなさい、手伝って欲しい時は呼ぶから……]

優斗[……ぁ……あぁ……分かった……]


優斗は部屋を出て、リビングへとトボトボ歩き出した……。


優斗[…………蒼…………(大丈夫だ……きっと母さんなら何とかしてくれる…………)…………ダッセーな……俺…………蒼が苦しんでるのに……何もしてやれねーのかよ………………]


そして……その頃、母はと言うと……。


母[……血液に異常無し……脳波は…………少し乱れがあるわね…………MRI検査もしといた方がいいわね…………]


優斗の自宅には父が実験で使ってきた医療機器が大半置いてあるのだ。そして、一通り検査を終えた後。


母[……やっぱり……アレ…よね………だとすると……]


そして、数時間が断った頃……。

ガチャ……リビングの戸を開ける音が聞こえた。

リビングは真っ暗であった……。

そして、明かりをつける母。

すると、ソファーに下を向きながら座っていた優斗が居た。

母は驚き声を上げる。


母[わッ!!ちょッちょっと~!ビックリするじゃない!何こんな真っ暗な中いるのよ!驚いたでしょ!]

優斗[……母さん……蒼は?]

母[大丈夫よ……今は落ち着いてる]

優斗[……そっか……良かった……]

母[…何……そんな暗い顔してんのよ]

優斗[…………いや…………何か……蒼が苦しんでるのに何もしてやれなかったなって……]

母[…何だ……そんな事……]

優斗[……そんな事?……そんな事ってッ……俺は!]


母がくいぎみに。


母[俺は何?もしかして、俺は何もしてあげられなかったから落ち込んでたの?]

優斗[………………まぁ…………]

母[だとしたらッ…………それは勘違いしたタダのクソガキね]

優斗[……ッ…………クソガキって……意味わかんねーし]

母[そんな事も分からないからよ…………いい?そもそもが間違ってるのよ……何の知識もないアナタが何が出来るって言うの?]

優斗[……ッ]

母[何も出来なくて当然でしょ……そんな事よりも、蒼ちゃんが倒れた時、あの状況で、その場で、出来る事を冷静に考えて対処していた自分を誇りに思いなさい]

優斗[…………]

母[…………普通だったら冷静でいられなくて、普通に救急車呼んでたかもでしょ?……だからアナタが行った行動は良かったのよ……蒼ちゃんの為に最善を尽くしたわ]

優斗[……でも……]

母[でもとか、だってとかどーでもいぃから]

優斗[……(だっては言ってないけど……)]

母[だから、アナタはアナタのやるべき事をやったのだから、何も落ち込むこと無いわ]

優斗[…………]

母[…………それよりも…………優斗に聞いてほしいと言うか……伝えなきゃいけない事があるわ…………]

優斗[……伝えなきゃいけない事……?]


母は真剣な顔になる。


母[……蒼ちゃんの事よ……]



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