第5話 才能


優斗[ただいまー]

母[おかえりなさい、蒼ちゃんもおかえり]

蒼[…ただいま]

母[蒼ちゃん、学校はどうだった?]

蒼[…わからない]

母[まぁ…慣れるまで時間が掛かるわよねッ]

優斗[母さん、そんなことより、ちゃんと説明しろよ!]

母[だから説明したでしょ~それに驚かそうと思ってたのよね~蒼ちゃん突然学校行ったらビックリするでしょ(笑)]

優斗[ビックリとかそう言う問題じゃないわ…]

母[それにそれに、母さんだって色々と大変だったのよー学校への手続きとか~色々と蒼ちゃんの私物の買い物とか~髪だって伸び放題だったから美容室に行ったり、あ、でも蒼ちゃんとのお洋服選びは楽しかったわよね~あと、履歴書作成と戸籍の偽造とか~あんたが一週間ダラダラ休んでる間、忙しかったんだからね!]

優斗[…戸籍の偽造とか…あんたサラッと言ってますけど……普通にヤバいこともやっちゃってますけど………てか!そもそも、学校にバレたらどーすんだよ!]

母[学校は心配無いわ、あんたの学校の理事長とは昔からの知り合いだから話しは通してあるわ。]

優斗[………]

母[さッ!そんなことよりお腹空いたでしょ!蒼ちゃん夕飯のしたくするから手伝ってちょうだい!]

蒼[…うん、わかった]

母[二人とも先に着替えて来なさいね。]

優斗[言われなくても着替えるわ…ガキじゃねーっつーの]


優斗、部屋に戻り着替えていたら、[ガチャ]いきなり優斗の部屋を開ける蒼。


優斗[うぉっ!?おまえいきなりドア開けんじゃねーよ!ノックぐらいしろよ!着替えてんのに!………ん?]


蒼[優斗、これどーやって着るの?]


下着姿の蒼がエプロンだけを持って入ってきた。

優斗は顔を赤くして…


優斗[おまえバカッそのまま、着るやつじゃねーよ!それに服!まず服着ろよ!最初に服着てからするやつだから!]

蒼[…わかった…服…着てくる。]

優斗(あ、あいつ何考えてんだ……にしても…スタイルはいぃな…………っじゃねー!いかんいかん!そもそも、あいつは父さんじゃねーか…何考えてんだ俺…それに…あいつが父さんを…ッ)


蒼が服を着て、優斗の部屋に入ろうとした時、優斗が部屋から出てきた。


蒼[優斗、服着てきた…これ…]

優斗[あー…母さんに着せてもらえ]


優斗はスタスタとリビングへ向かった。


蒼[…うん…わかった]


蒼もそのままリビングへ向かった…。


母[あー準備できた~?蒼ちゃん!じゃ始めましょうか!]

蒼[三咲、これ…]


蒼がエプロンを三咲に渡す。


母[あ~昨日買ってあげたエプロンね!後ろでヒモ結ぶやつだから難しかったかな?これは、こ~やって着るのよ、はい!できたー!]

蒼[……]

母[蒼ちゃん、誰かに何かしてもらったら何て言うんだっけ?]

蒼[…ありがとう]

母[そぉ!良く出来ました!じゃっ作ろっか~]


優斗が携帯をいじりながら小声でボソッと


優斗[何が良く出来ました~だ…ガキじゃねーのに…]


母[優斗、何か言ったー?蒼ちゃんはあんたより素直で何事にも一生懸命よ!少しずつだけど何でも覚えようと努力してるわ!あんたも、ちゃんと蒼ちゃんの事を見てあげれば良くわかるわ。]

優斗[………]


そして、二人は料理を作り終えテーブルへと並べた。


母[さぁ!食べましょう~!いただきます!蒼ちゃんも!]

蒼[…いただきます]

母[そぉそぉ!良く出来ました!]


母が蒼にニコッと笑う。


優斗[いただきます…]


少し食べ進んだ頃。


母[どお?優斗、美味しい?]

優斗[まぁ…普通]

母[普通ってことないでしょ~母さんは美味しく出来てると思うけどな~]

優斗[自分で作っといて自分で美味しくって言うか?]

母[あら?これほとんど蒼ちゃんが作ったのよー蒼ちゃんね~料理に関しては、すぐに覚えちゃうの!あんたがダラダラしてた一週間の間、私が色々と教えたの、そしたらメキメキと腕を上げちゃって~まぁクックパッドも頼ったけど(笑)。でも、凄いわよね!これも1つの才能ね!私はすごく嬉しいわ~!]

優斗[後で自分が楽したいだけだろ…]

母[違うわよ!蒼ちゃんが、成長してくれてるのと一生懸命努力してる姿が単純に嬉しいの!まったくーホントひねくれてるんだから……あ、蒼ちゃん明日から、あの件宜しくね!]

蒼[…うん…わかった…頑張る]

優斗[あの件…?]


真夜中


優斗[あー喉乾いた…]


優斗が冷蔵庫へ飲み物を取りに行く。


優斗[ん?母さん起きてたの?]


母[えぇ明日までに出さなきゃいけない資料があってね]


母がパソコンをカタカタとやっていた。


母[あーそうそう、明日から母さんしばらく朝早いから宜しくー]

優斗[あーそー]

母[………]

母[…優斗…蒼ちゃんの秘密は…誰にも言ってないでしょう?]

優斗[…言うわけないだろ。てか誰にも言えるようなことじゃないわ…]

母[…そう、ならいぃんだけど]


母( カタカタ、カタカタ、タン パソコンを閉じる。)


母[……それと……蒼ちゃんのこと、ちゃんと見てあげてね。あの子はまだ、上手くコミュニケーションが取れなくて無愛想に見えるけど、本当はちゃんと自分の感情や思ってることもあって、誰かに頼らないと生きていけないんだから………この前ね、蒼ちゃんに料理を教えてた時、最初はもちろん中々上手く出来なかったの…でもね、頑張って何回もやってるウチに、上手に出来るようになったの…そこからは覚えるの早かったなぁ~私も嬉しくて蒼ちゃんを褒めてあげたの、そしたら蒼ちゃん、ちょっとだけど嬉しそうにニコッてしたの…その時…あぁ…この子は上手く感情や心のあり方を、表現出来ないだけなんだって思ったの。だから…優斗も…]


優斗は……うつ向きながら……


優斗[…だから?……だから何?あいつに優しくしろって?俺は無理だね。母さん頭おかしんじゃねーの?あいつは父さんじゃないんだよ?むしろ父さんを奪ったやつみたいなもんじゃん!何であいつにそんなに優しく出来るわけ?俺には理解出来ないね!だいたい…!]


母[!]


蒼に気付く。


母[優斗!!!]


蒼が起きてきていたのだ。

母が焦りながら。


母[あ……蒼ちゃんどーしたの?]


優斗[……]

蒼[……のどが渇いて…]

母[あ~そっか~のど渇いちゃったか待ってね今お水出してあげるわ]


蒼は少し、うつ向きながらチラリと優斗を目で追った…。

優斗は蒼を一切見ずに無言で、そのまま部屋へと戻っていった。


母[ごめんね~あの子、少し疲れてるのよ!だから私に八つ当たり(笑) 気にしないでね!あと、明日の朝は宜しくね!]


母が優しく微笑み掛ける。


蒼[うん、わかった]


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る