第69話 【1D66】
――では、二人の決別のキスを目の当たりにしたサキコは、ちょっぴり目元に涙をにじませながら、こう言うでしょう。
サキコ「うん、うん! すごく興味深いおしゃべりだったわ」
べに「……。なんでもえぇ。とにかく、私を……人間の身体に…………」
サキコ「後悔、しないわね?」
べに「うん。しない」
サキコ「わかった」
――そういって彼女は、そっとリモコン・スイッチを操作します。
すると、談話室に備え付けられた本棚が、まるで主を待ち受けていたかの如く、隠された姿を露わにしました。
恐らくは、病院などで使われるであろう、業務用エレベーター。まるでスパイ映画さながらの仕掛けに、あなたたちは思わず息を飲みます。この施設を秘匿するため、どれほどの費用と手間が掛かっているか。ひょっとすると自分たちは、とてつもなく巨大な組織の陰謀に関わってしまっているのではないか……そのような思いに囚われるでしょう。
サキコ「ほら。こっちよ」
――エレベーターを通って地下へ降りると、山奥のログハウスにはまったく似つかわしくない、近代的な施設が待ち受けていました。
高さ30センチほどの円錐形の筒がずらりと並ぶその空間を進んでいくと、極めて簡素ですが、掃除の行き届いた手術台に行き当たります。
手術台のそばには、最新型のタブレット端末が備え付けられており、サキコはそれを、車椅子に座ったままの姿勢で操作しました。
サキコ「さあ、好きな肉体を選んで」
――タブレット端末にはいま、様々な男性の肉体が表示されています。
あなたたちはその中から、まるでネット・ショッピングでもするように、新たな肉体を選ぶことができるでしょう。
A「想像したら、なんだか気持ち悪くなってきた……」
B「……ねえ、GM。もし身体を交換した場合、能力のパラメータは変動しますか?」
――そうですね。
メタ的に言うと、体力、筋力、五感のパラメータを振り直すことになるでしょう。
B「そっか……」
――いずれにせよこの、”新しい身体”に関する判定は、あなたが無事生き残ってからの話になります。
あなたたちがその、タブレット端末の中の一つを指さすと、
サキコ「ん。わかった。じゃあ、その身体に、色式べにちゃんの脳を入れるのね」
――そう言いながら、サキコは高さ30センチほどの円錐状の機械を持ってくるでしょう。
B「わあ。脳缶やぁ」
――そうですね。
Bちゃんがいま、頭に思い浮かべている通りのものです。
どうやら、これを頭部に取り付けることでいったん脳みそを摘出し、……その後、別の身体へ”入れ替える”ようです。
べに「な……なにもかも、全自動で行われるってわけやね。……ほな、ちょっぴり安心、かも」
あくむ「べに。声が震えてましてよ」
べに「だ、だいじょうぶ! 怖くない! 怖くないから!」
あくむ「……ねえ、なんなら、いまからでも遅くないわ……」
べに「止めて。……わ、私は、一生あくむちゃんと添い遂げるんや。それ以外の、それ以外の人生なんて、万に一つもありえない。もしそうなったら、死んだも同然。……この選択肢だけが唯一、私が生きていられる道……ッ」
――するとサキコは、そんなあなたたちがしゃべり終わるのを待ってから、慎重な手つきで、色式べにを手術台に拘束します。
その周囲では、ミ=ゴたちが得体の知れない様々な機械を操作しながら、あなたたちの様子を伺っているでしょう。
べに「あくむちゃん……手を、握っていて……!」
あくむ「も、もちろんですわ!」
――そして……いよいよ、運命の時がやってきました。
サキコ「それでは、手術を始めるわね……」
べに「お……お、おねがいしま、しゅ!」
サキコ「安心して。私たちを私たちたらしめるのは、身体の外側にあるものじゃない。この、頭蓋の中にあるもの。それが全てなんだから」
べに「は……はい……」
サキコ「自分を強く保てば、なんてことはないのよ」
――そうして、色式べにの頭部に”脳缶”が取り付けられた、次の瞬間です。
ゴリゴリゴリゴリ! と、あなたの後頭部に激痛が走りました。
瞬間、あくむとべには理解します。
何か、ノコギリ状の刃が備え付けられた機械が、べにの頭蓋に穴を空けていることに。
べには当然、悲鳴を漏らし、身体をがくがくと揺らします。しかし、手術台に固定されたあなたは、一切の身動きがとれないでしょう。
サキコ「大丈夫。安心して。すぐに楽になるわ」
――サキコが、ねっとりとした口調で語りかけます。
想像を絶する痛みの中で、あなたたちはうっすらと気づくでしょう。
なるほど、これを平気で乗り越えられるような人だからこそ、……犯行後、自らの足を折るような、そんな滅茶苦茶なトリックを思いついたのだ、と。
A「うううううう、やっぱりやべえ、この女!」
B「正気のままイカレちゃってるー!」
――では、人智を超えた経験をした色式べには、【1D66】の狂気度を加算してください。
A「……………は?」
B「ろくじゅうろく?」
A「なんかの間違いではなくて?」
――はい。
【1D66】は、少し特殊なダイスの振り方です。二回、
A「11~66から、7,8,9を抜いた値ってこと? ……えーっとえーっと……。それってつまり、……かなり高確率でロストするのでは」
――その通りです。
B「クトゥルフで言うところの、SAN値直葬レベルってことか……!」
A「あわ。あわわわわわわ。そんな、そんな、そんな……ッ! まさか、こんなことになるなんて!」
――恐らく、円筆あくむも同じことを思っていることでしょう。
A「…………ッ。あ、そうだ! 《激励》! スキルを使います! ……使えますよね?」
――いいでしょう。ではまず、【1D6】をお振りください。
A「【ダイスロール:5】 ……そこそこの出目! がんばって、Bちゃん!」
B「ほな……………いきます! うおおおおおおおおおおおお一投目! 【ダイスロール:6】! そして……二投目! 【ダイスロール:2】! ……合計、26! 《激励》効果の適用によって、21!」
A「それで……現在の値は!?」
B「……えーっとえーっと……27!」
――お見事!
A「あッ。…………あぶなああああああああ!」
B「ロストは……免れた!」
――しかし、色式べには、”長期的狂気”が発現してしまいます。
まず、期間を設定します。【1D6】をお振りください。
B「【ダイスロール:1】」
――続けて、もう一度ダイスをお振りください。
B「【ダイスロール:4】」
――なるほど。
では……あなたは、これから一ヶ月間、『茫然自失:すべて仲間(円筆あくむ)の言いなりになる』という狂気を発現させてしまいます。少なくとも、このセッション中に正気に戻ることは不可能でしょう。
B「……といっても、結構マシな狂気や」
A「よかった、よかった! ……これなら、一緒に帰れますね」
――さらに……あくむは、”精神力”判定をお願いします。
難易度は”普通”。出目12以上で成功とします。
B「【ダイスロール:7(+5)】 成功」
――では……この情報はもう、二人に公開してもいいでしょう。
べには、薄れゆく意識の中で、このようなことを思います。
『自分の肉体は、根本から変わってしまった。
もはや屍肉を喰らう必要はない。
これで……愛する人と、ずっと一緒にいられる』、と。
A「…………ッ」
B「ダイスの女神様が微笑んだ……! 愛の勝利っ!」
A「んもお! 心臓が……きゅっと掴まれたような気持ちになりましたよぉ!」
【To Be Continued】
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