第7話 TRPG初心者、ボス敵に挑む

――ではまず、D部屋の描写から始めます。

 遂に、洞窟の最深部に到着したシュバルツたち。彼らがまず感じたのは、……背筋が凍り付くような、強烈な死臭でした。

 血と、腐った肉の臭い。

 まだ、それほど修羅場を潜っていないシュバルツたちにも、この場所で行われた凄惨な出来事を察することができてしまいます。

 シュバルツたちは、直感でわかるでしょう。

 こんなところに長くいられる、あのエルフ。まともなやつの訳がない、と。


シュバルツ「実にわかりやすい腐れ外道だ。この俺が直々に、成敗してくれる!」


――なお室内には、捨てられた人間の死体が、雑多に放置されているようでした。

 どうやら、赤いローブの魔術師の目的は、ここに攫ってきた人々を連れてきた後、その魂を生け贄として捧げることのようです。

 部屋のあちこちには、生きた人間を残酷に殺すための様々な拷問器具が並べられていました。


シュバルツ「なんというやつ。許せん!」

魔術師「……ふん。新米冒険者風情が、我が神、フォルター様の復活を妨げるか! かかってこい!」


――それでは、戦闘開始。

 敵の配置は、このような構成です。

 狼(×2):5メートル

 魔術師:↑の後方、5メートル

 行動順は、シュバルツ⇒狼(×2)⇒魔術師⇒ヘルディン、という感じですね。

 それでは、シュバルツの攻撃、どうぞ。


シュバルツ「ではまず……”冒険者キット”の中にあった油壺を狼に投擲することはできますか?」


――おや! 機転を利かせてきましたね。


A「いろいろできるのが、TRPGの醍醐味、……なんでしょ?」


――いいでしょう。これには1ターン消費してしまいますが、構いませんか?


A「うん! ……その前に、”サブアクション”として、ヘルディンにファイアの巻物を渡します」


――はい。


シュバルツ(A)「ヘルディン! 君はこれを使え!」

ヘルディン(GM)「う、うん! わかった!」


――それでは、油壺投擲の行為判定。”筋力”で行います。

 難易度は……そうですね。

 相手は動き回る動物を対象にしているので、”超難しい”で。出目5以上で成功。


シュバルツ「いくぞぉおおおおおおおお! 【ダイスロール:12】 成功! しかも大成功クリティカルだ!」


――素晴らしい。それではあなたは、油壺一つで、襲いかかる狼二匹を同時に油でギットギトにすることができるでしょう。


A「うふふふふ! ぎとぎと!」


――続いて、狼たちのターン。

 狼は、自身が油に濡れていることなど意にも介さず、猛烈な勢いで襲いかかってきました!

 2匹のコンビネーション攻撃であるため、ダメージは……【2D6】です。


A「それってもしかして……最大12ダメージって……コト?」


――はい。


A「冒険が! あたしの冒険がいま、終わりを迎えようとしています!」


――まあ、装甲6もあるし、わりと大丈夫では。【ダイスロール:9】 ……あ、結構いい出目が……。

 『シュバルツ:体力4⇒1』。


シュバルツ「ぐああああああああああああああ! いてえよおおおおおおおお!」


――きみ、ゲームキャラと神経、接続していらっしゃる?


シュバルツ「死ぬううううううううううううううううううううう(じたばた)!」


――ああいや、ナイスなロールプレイだ!

 (この追加ルールはまだ早い気がしたけど、こっそり採用しておこう)

 それでは、……そうだな。魔術師はシュバルツの間抜けな悲鳴を聞き、愉悦に歪んだ笑みをニヤリを向けるでしょう。

 敵が苦しんでいる様に、言いようのない興奮を覚えているようです。


A「うわっ。きっしょ! なんなんですか、こいつ!」


――悪事に手を染めた結果、心が歪んでしまったのでしょう。

 さて、魔術師が手番を無駄に消費したので、ヘルディンのターンが回ってきます。


ヘルディン「それじゃ、……行くわよ……! ”ファイア”!」


 彼女が呪文を詠唱すると、シュバルツに襲いかかっていた狼二匹を、同時に火だるまにすることができるでしょう。

 ダメージは、それぞれに【2D6】。……【判定省略】……ええと、狼の体力はたったの2ですので……、はい! どちらも撃退です!


A「くたばれ! あたし、犬派ですけども!」


――犬っていうか狼ですけどね。

 さて、ターンが巡って、シュバルツです。


シュバルツ「うおおおおおおおおおおおおおおおお! これで終わりだあああああああああ! 【ダイスロール:5】 余裕の命中! そして【1D6】のダメージ! 【ダイスロール:1】 ……うん! あんまり効いてないや!」


――シュバルツが剣を振るいますが、敵の魔術師はローブは分厚い革製品らしく、ダメージはないようですね。


A「分厚い、革。レザー・アーマーと同じくらい堅さかな? ……ってことは、装甲3!?」


――シュバルツに斬りかかれた魔術師は、流石に余裕を失って、魔法の詠唱を行います。

 魔術師の呪文は、《骸骨兵の召喚》! なんと、彼が呪文を唱えながら地面に手を当て、何かを掴み取るような仕草を行うと……その位置に、錆びた剣を携えた、骸骨の戦士が顕現します!


A「敵が増えたー!」


――ここで、”知力”に長けたヘルディンが助言をするでしょう。


ヘルディン「なんてこと!? こいつ、骸骨兵を召喚するの!?」

シュバルツ「知っているのか、ヘルディン」

ヘルディン「骸骨兵は、すでに死を経験した者。それを呼び出した主を倒さなければ、無限に蘇り続けるのよ!」


――なお、骸骨兵はこのターン、召喚酔いのため行動できません。行動順は、ヘルディンの後になります。


シュバルツ「とにかく、マッハで敵を叩けば良いってこったな」

ヘルディン「そうね」

シュバルツ「よし、ではヘルディン。やっつけろ!」


――では、ヘルディンの攻撃。……失敗!

 ロングボウでの一撃は、明後日の方向に飛んで行きます。


ヘルディン「……てへへ!」

シュバルツ「きみほんと、マジで……」


――シュバルツの攻撃。


シュバルツ「【ダイスロール:2】……あ! 大失敗ファンブルだ!」

ヘルディン「どうやら、間抜けは一人ではないようね!」


――それでは、シュバルツは攻撃しようとして足を滑らせ、剣を落としてしまいますね。拾うのに1ターン消費しそうです。


A「終わったああああああ!」


――魔術師のターン。彼は再び《骸骨兵の召喚》を行い、骸骨兵が増えます。

 なお、これはGMからのアドバイスなのですが……骸骨兵は群れで攻撃します。その場合、数が増えれば増えるほど、1D6-2、2D6-4、3D6-6……という具合に攻撃力が変動していくでしょう。


A「つまり……あと二、三回、攻撃される前に倒さないといけない、と?」


――出目次第ですが、……まあ、その方が無難でしょうね。


シュバルツ「ヘルディン! もう希望は君しかいない!」

ヘルディン「が、……がんばる!」


――ヘルディンはそこで、シュバルツの盾になるよう、前へと飛び出しながら攻撃します!


ヘルディン「最悪、私が盾になるわ!」

シュバルツ「き、きみぃ……(トゥンク)」


――ヘルディンの矢は、こんどこそ命中! ダメージは4点! 魔術師は、肩に矢を受けて血を流します。


魔術師「ぐおおおおおおお! 我が神、フォルターよ! いまこそ、庇護の力を与え賜わん!」

シュバルツ「そういうの、なんて言うか知ってるか? 困った時の神頼み、だ!」


――骸骨兵の攻撃。

 動きの鈍い骸骨兵は、前に飛び出したヘルディンに気づかず、シュバルツを攻撃します。

 しかしシュバルツの装甲は、錆びた剣を跳ね返すでしょう。


シュバルツ「よーし。次で決めるぞ」


――シュバルツのターン。


シュバルツ「これで終わりだ! 【ダイスロール:6】……命中! (えんぴつを手のひらで何度も転がた後)【ダイスロール:5】 これで、どうだ!」

魔術師「ぐああああああああああああ!」


――魔術師は、血を流しながら倒れ込みます。明らかに死にかけていますが、まだ戦う意志は残っているようです。


シュバルツ「マジか」


――魔術師は、味方を増やす戦術から切り替えて、直接攻撃に切り替えます。

 苦し紛れの”ファイア”を、ヘルディンに。

 先ほどの戦闘で気づいていたかもしれませんが、……森の民であるヘルディンは、火の呪文でよく燃える! 【2D6】のダメージ! ……あ。


A「え?」


――……うーん、これは辛い! 最大の出目でした。

 ヘルディンは炎に包まれます!


ヘルディン「きゃあああ!」

シュバルツ「仲間が死んだああああああああ! この人でなしぃいいいい!」


――さっきも説明しましたが、まだ死んでません。死にかけの状態ですね。この後トドメを刺されて、初めて死亡します。

 続いて、骸骨兵のターン。【2D6-4】のダメージなので……まだ、ギリギリ持ちこたえるでしょうね。


シュバルツ「これで、……終わってくれ! 【ダイスロール:7】 命中! 攻撃は……【ダイスロール:3】。どーだ? 装甲を貫通できたか……ッ?」


――はい。そうですね。

 それでは……魔術師は、いまの一撃が一押しになったのでしょう。

 その場にがくりと、膝をつきます。


魔術師「ば……ばかな! こんな、新米冒険者に……私の野望が……」


――みたいなことを言って、彼は気を失いました。

 同時に、彼と魔力的に接続されていた骸骨兵たちも崩れ落ちますね。

 戦闘終了です。


シュバルツ「勝ったああああああああああああああ! だいしょーり! クリア!」


――いいえ。まだもうちょっとだけ、続きます。


【To Be Continued】

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