第8話 TRPG初心者、奇跡を起こす

――はい。それでは、戦闘シーンが終わって。

 残されたシュバルツは、どうしますか?


A「えーっと。……うんと。とりあえず、もう部屋に敵はいないんですよね?」


――はい。戦闘終了しているので。


A「そんじゃ、とりあえず魔術師をロープで縛って、部屋の中を探索します」


――……え?


A「ん?」


――ああ、いや……ヘルディンは? 死にかけで倒れてますけど。


A「あ、そっか。忘れてた」


――かわいそう!


A「彼女、”治癒ポーション”もってます?」


――はい。持ってるようですね。


A「では、それを本人の口に流し込みます」


――はい。【ダイスロール:4】 では、彼女は息を吹き返しますね。


シュバルツ(A)「おい相棒! 大丈夫か! 生き返れ! 元気出せ!」

ヘルディン(GM)「うーん……けほっけほっ。豚の丸焼きの気分」

シュバルツ「冗談を言う余裕があるなら、大丈夫だな! 俺は部屋を調べるぞ」

ヘルディン「う、うん。……お願い」


――ヘルディンは一休みしているので、探索はシュバルツのみが行います。


A「よーし。……ええとこの部屋、具体的にどの辺が調べられそうです?」


――調べられそうなのは……、

 人間の死体の山

 赤いローブの魔術師の身体

 拷問器具

 死者の魂を捧げる祭壇

 ですね。


A「なるほど、あんまり長居したくない場所ですね。とりあえず、死体の山から調べましょうか」


――では、”五感”判定。難易度は”普通”。出目5以上で成功です。


A「5、以上かぁ。……なーんか、上手くいかない気が。【ダイスロール:4】あー。ヤッパリダメだ」


――可哀想なヒューマンの死体の山に、シュバルツは目を背けてしまったようです。ひょっとすると金目のものがあったかもしれませんが、そこから奪い取ることはできませんでした。


シュバルツ「さすがにここから金品を盗むのは、気が引けるな。……よし、次は魔術師を探ろう」


――はい。それでは……ダイスロールするまでもなく、自動成功ですね。

 魔術師の懐からは、魔術書やら魔法の巻物やら、合計500ゴールド分の金品および、先ほど見かけた鉄格子の鍵と思われるものが見つかります。


シュバルツ「へへへっ。これでしばらく暮らせそうだ。つぎは、拷問器具を」


――それでは”知力”判定。難易度は”簡単”。出目5以上で成功。


A「よーし。……【ダイスロール:7】 よし!」


――素晴らしい。それでは、あなたが拷問器具を調べると、それはヒューマンを殺すべく創られた構造だとわかります。その他の種族には、微妙にサイズが合わなかったりするようですね。これは、魔術師が言うところの”魔神フォルター”が、ヒューマンの魂を喰らう邪神であることを示しています。


シュバルツ「ふむ。なるほど。とんでもなく邪悪なやつだ」


――最後に、祭壇ですね。

 あなたが、祭壇に手を伸ばした……その時です。

 ガチャリと扉が開いて、一人の男が部屋に入ってきました。その顔には見覚えがあります。

 それは、今回のクエストの依頼主、サボターでした。


シュバルツ「おや? あんた、なんでこんなところに?」

サボター「あ、……ああ! いやあ、シュバルツとヘルディン! 無事だったか!」

シュバルツ「無事というか、なんというか。結構な激戦だったけど」

サボター「良かった良かった。あれからいろいろ心配して、様子を見に来たんだ!」


――そういってサボターは、回復アイテムを譲ってくれるでしょう。シュバルツたちはそれで、全回復したと思っていい。


A「わあ! 良い人だあ!」


――(ありゃ、そんな風に感じてしまったか。普通依頼人が、三日もかけてこんなところまで出向かないと思うんだけど)


シュバルツ「いやあ、助かった。正直、死にかけだったんだよ」

サボター「へ、へーぇ? そうだったんだ」

シュバルツ「ところで、サボター。きみはここのこと、どういう風に思う?」

サボター「どう、と言われてもな。まさかこんなところに儀式の間があるなんて、思いも寄らなかったよ」

シュバルツ「だな。――しかしこの儀式、いったい何を呼び出すための場所だったんだろう」

サボター「うーん。どうだろう。わからんなぁ。……ただし……そうだな。この神は、それほど…………悪いものじゃないんじゃないかと………思うんだが……どうかな」

シュバルツ「はあ? そうなのか?」

サボター「あ、ああ。神が生け贄を求めるのは、至極当然のことだからな。邪神と善神は、表裏一体の存在なんだ」

シュバルツ「へぇ。じゃあ、案外呼び出してみたら、世のため人のためになるかもしれないな」

サボター「そう……そう! その通り!」


――(これ、良くない流れだな。この娘、完璧にサボターが良い人だと思ってる)

 ええと、それでは”知力”判定。難易度”普通”。出目8以上で成功します。


A「はーい。【ダイスロール:2】 ……あ! 大失敗! 大失敗でした!」


――ええと……そうですか。

 ではシュバルツは、何ごとにも気付くことなく、……なんか、別のことを考えてました。


シュバルツ「おなかすいたなー。おにくたべたいー」


――こいつ、死体の山の隣で、食事のことを考えるのか……。


サボター「なあ、シュバルツよう。もし良かったらここで、儀式を完成させてみたいかい? ひょっとすると何か、良いことが起こるかも知れないし」

シュバルツ「うん。そうだな。試してみて損はないか。面白そうだし」


――(おいおい私、”邪神”って説明したぞ!?)

 ええと、……、ううんと。


A「なにか?」


――(いや。GMが変にアドバイスする訳にはいかないか)

 いいえ。何も。


シュバルツ「ではさっそく、ちょっと触ってみようかな」

ヘルディン「ちょ、ちょっとまちなさい、シュバルツ!」

シュバルツ「へ?」

ヘルディン「いくらなんでも、急にサボターがやってくるのはおかしいわ! ひょっとしてこいつ、何か企んでるんじゃないのかな」

シュバルツ「え? そうか?」


――対するサボターは、無表情のまま二人を見ていますね。


A「それでは……シュバルツは腕を組み、『ふっふっふ』と不敵に笑って見せます」


――え? あ、はい。


シュバルツ「遂に……正体を現しましたな、わるい女エルフめ!」

ヘルディン「え? 私?」

シュバルツ「そうとも! ここにいる間ずっと、やたらと足を引っ張って! 最初からおかしいと思ってたんだ! お前が全ての黒幕だろう!?」


――(それはその、たまたまダイスの出目が悪かっただけで……)


シュバルツ「それに加えて、先ほど倒した”魔術師”の種族! やつはおまえと同じ、エルフだった! それが、お前が裏切り者である何よりの証拠っ!」

ヘルディン「ええ……ええぇぇぇぇぇぇ……。いや、一概にエルフっていっても、いろいろいるから……」

シュバルツ「つまりこの場の正義の人は、サボター! 彼の言葉が正しいとみた!」


――(なんてこった。まさかこんな展開になるとは。信じられん)


A「どうしました? そんな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」


――ああいや、別に……。


A「とにかく! シュバルツは、祭壇に取り付いて儀式を完成させます!」


――そう、ですね。

 では、ヘルディンはそれを力尽くで阻止しようとしますが、サボターに組み付かれ、なにもできないでしょう。


サボター「ここは俺に任せて、先に行け」

シュバルツ「ほら、いかにもな正義キャラのセリフ!」


――(すまん、Aちゃん。適当なアドリブなんだ。だが安心してくれ。さすがにチュートリアルシナリオで死亡ロストはさせないつもりだから)

 ……ええと。ではシュバルツは、祭壇の前に向かいます。そこには、ヒューマンの血と魂で穢れた聖杯がありました。

 そこにあなたは、全ての精神力を注ぎ込むことにより一度だけ、フォルターの復活を試みることができるでしょう。


シュバルツ「よっしゃきた」


――ただし! ”復活の儀式”の難易度は、”知力”判定の”不可能”です!

 あなたの知力では、”大成功”を出さないかぎり達成不可能でしょう。

 確率でいうと、三十六分の一。2.78%です!


A「ふふふふ! 物語の主人公はね、こういう時こそ、奇跡を起こすのです!」


(手のひらで転がされたえんぴつが、チャリチャリとなる)

(そして、ダイスロール。出目は……)


――あ。


A「あ」

ヘルディン「あ」

シュバルツ「お」


――あ、あ、あ、あ。嘘だろ!? ”大成功クリティカル”!?


シュバルツ「やったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


――……ええと。……その。

 ごほん。

 それでは……その。

 本シナリオの、エンディング処理に入ります。


【To Be Continued】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る