第3話 TRPG初心者、戦闘する

――その後、シュバルツとヘルディンは、三日ほど馬車に揺られて……。


A「え? GM、ちょっとまってください」


――ん?


A「目的地まで、馬車で三日もかかったんですか?」


――そうだね。この世界の移動は、わりと時間が掛かる設定だし。


A「タクシーの運転手さんと数日、一緒にいるって感じ? き、きまずい……」


――そうですね。でも後半にはなんか、すごく仲良くなってるかも。


A「えー。どうかなぁ」


――なお、この世界の馬車は冒険者の仕事を補佐するのに特化していて、長旅にも耐えうる設計になっています。舗装された道路の範囲内に限られますが、このお陰で冒険者たちは、快適に依頼者のいるところまで移動することができるのです。


A「へえー。ちなみに馬車内は、寝泊まりできるような作りなのですか?」


――はい。そこそこ快適な空間ですね。


A「そうなると、馬車全体の重量はかなりのものになると思いますけど……、お馬さんは疲れないのですか?」


――ええと……そうですね。GMはさっき、「馬車」と表現しましたが、実のところそれをけん引しているのは、我々の知っている馬ではありません。似て非なるものです。故にこの馬車は道中、馬を交換したりする必要もなく、長距離を楽々踏破できるようです。


A「なるほどね。GMは、異世界の生物を我々にも親しみやすいものに当てはめてくれている訳ですか」


――はい。トールキン流に言うなら、「現代語に翻訳している」のです。


A「ふーむ。……ということは……ふむふむ」


――何か他に、気になることでも?


A「ああ、いえ。三日……男女が……密室の中……と。それって二人、ぜったいイイナカになってるはずですよね?」


――え? どうかな。

 そもそも、二人っきりじゃないし。さっき言った通り、馭者のおじさんもいるし。


A「ぜったいぜったい、ちゅーまでは行ってますよ。間違いない。シュバルツはイケメンなので!」


――まあ、そういうことにしたいなら、どうぞ。


A「いや、やっぱり止めときます。シュバルツはクールなので、女性には気軽に手出ししない設定にしよう」


――どっちなんだ、きみ。


シュバルツ(A)「さあて。この三日間、これっぽっちも我々の人間関係に変化がないまま、のんびり旅を続けてきたけど、そろそろ目的の場所に着いたんじゃないかな」

ヘルディン(GM)「えっ、あ、そ、そうね……。そろそろその、ゴブリンどもの巣が近い、かも」


――その時、冒険者たちは……そうだな。”五感”判定をお願いします。

 難易度は、”普通”で。ステータスとの合計、14以上で成功です。


A「はいはい! 【ダイスロール:6】 ってことは……チェインメイルでパワーアップした分も含めて、9+6で15! ばっちり成功ですね!」


――よしよし。慣れてきたね。


A「おまかせあれ。暗算は得意ですから!」


――じゃ、今後は数字的な説明を少し、省略していくよ。


A「おっけー!」


――さて。

 ”五感”判定に成功した冒険者たちは、道のそばに外れた馬車の車輪を発見するだろう。

 そのすぐそばには、何か重いものを引きずった跡があって、獣道に続いているのがわかります。


シュバルツ「ちょっと、……馬車止め! ストップ!」


――すると、馭者のおじさんはちょっと驚いた表情になって、馬を止めますね。


馭者(GM)「え? なんですか?」

シュバルツ「(ひらりと馬車の荷台を降り)どうやら、ここが俺たちの探していた場所のようだ」

馭者「どういう……?」

シュバルツ「悪いが、しばしここに馬車を止めておいてくれないか」


――シュバルツがそう言った、次の瞬間でした。

 目の前にいる馭者の喉を、一本の矢が貫いたのは。


シュバルツ「……なっ!?」


――同時に、草むらの中から酸匹、恐るべき悪鬼、ゴブリンが飛び出してくる!


シュナルツ「……っ! 馭者のおじさんに、”治癒ポーション”をつかうぞ!」


――ざんねんですが、一目見てもう、手遅れだとわかるでしょう。

 戦闘です!


シュバルツ「お、おのれー! ゆるさん!」


――さて。ここでいったん、戦闘のチュートリアルを行います。

 このルールでは、以下の手順に従ってゲームを進めて行きます。

 

①キャラごとに【1D6えんぴつ一本】で手番順を決める。

②自分の手番では、以下の2アクションを順不同で実行する。

 サブアクション:10メートルまでの移動、剣を抜く、武器を捨てるなど、数秒以内で行えるあらゆる行動。

 メインアクション:剣を振る、弓を射る、物を投げつける、呪文の詠唱など、攻撃に関するあらゆる行動。

 ※メインアクションを省略することで、サブアクションを二回行うことも可能。

③手番終了。

 以上の流れを、戦闘終了まで繰り返す。


 なお行動順は今回のみ、シュバルツ⇒ヘルディン⇒その他の敵……と言うことにします。チュートリアルなのでね。


A「了解。……ねえ、ところでGM。敵の状況をざっくりと確認することって、一手番に含まれますか?」


――いいえ。剣を抜いたり鞘に収めたり、アイテムを取り出したり石を拾ったりなどは”サブアクション”です。その後、”メインアクション”で攻撃することが可能ですよ。


A「ではまず、状況確認をしましょっか」


――いいでしょう。二人の前に立ち塞がっているゴブリンは、全部で三匹。

 それぞれの距離は、

 ゴブリン(剣):4メートル

 ゴブリン(棍棒):↑の後方、1メートル

 ゴブリン(弓):↑の後方、5メートル

 といった具合でしょうか。


シュバルツ(A)「ふん、いいだろう。ではまず、一番近い剣ゴブリンに接近し、アタック!」


――シュバルツは素早くショートソードを引き抜き、攻撃します。

 ショートソードの命中率は15。これは、【2D6えんぴつ二本】を振って、『出目+筋力の値が15以上』が出たらヒットするという意味です。

 その後、ショートソードの攻撃力である【1D6】を振って、出目から敵の装甲を引いた数字が、敵へのダメージになります。


A「なるほど、攻撃力-防御力=ダメージ、ですか。単純でわかりやすいですね」


――はい。安定と信頼のアルテリオス計算式です。


A「って、あれ? ちょっとまってちょっとまって? そうなると、シュバルツくんのHP……場合によっては、一瞬で溶けちゃうんじゃ」


――そうですね。


A「やべ」


――さて。それでは、ダイスロールを。出目3以上で成功です。


A「はい。【ダイスロール:4】。とりあえず、余裕でヒット」


――次に、ダメージ判定を。


A「【ダイスロール:6】。おや、最大値」


――はい。ではゴブリンは、あなたの一撃を受けて即死ですね。


A「やったー!」


――次に、ヘルディンの攻撃。……【判定省略】……はい、ロングボウでの攻撃が当たり、棍棒持ちのゴブリンは即死です。


ヘルディン「まあ、こんなところね!」

シュバルツ「……ふっ。腕を上げたじゃないか、ヘルディン」


――などと、のんびり話している間もなく、ゴブリン(弓)の攻撃です。


A「ひえええ……当たらないで!」


――【ダイスロール:12】シュバルツにヒット!


A「やだー! 死にたくなーい! 死にたくなーい!」


――【ダイスロール:6】シュバルツに弓が突き刺さる!


A「さよなら……」


――しかし、シュバルツの装甲は、6。

 彼は華麗に矢を盾で受けて、ダメージを受け流します!


シュバルツ「……なーんて言うと思ったのか? 俺は不死身だ!」


――ターン巡って、シュバルツの手番です。


シュバルツ「【ダイスロール:3】喰らえ、薄汚い化け物め!」


――シュバルツの攻撃により、ゴブリンは全滅しました。戦闘終了です。


シュバルツ「……ふん。殺しても殺したりんやつだったな!(決め台詞)」


――無事、ゴブリンの襲撃を逃れた冒険者たちは、彼らの懐から、一つの戦利品を得るでしょう。この付近にある、ゴブリンの住処を示した地図です。


シュバルツ「これは……?」

ヘルディン「どうする?」

シュバルツ「もちろん、決まってるさ。……やつらを根絶やしにするまでが冒険だ! 殺して殺して、殺しまくろう!」

ヘルディン「う……うん。そーね」


【To Be Continued】

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