第2話 TRPG初心者、交渉する
――さて。
腹ごしらえも済んだところで、続きやっていこう。
A「はいはい!」
――いまシュバルツは、とある男に話しかけられたところだったね。
男は、浅黒い肌にくすんだ灰色の髪、トンガリ耳、といった風貌で、他人を射貫くような、鋭い目つきが特徴的な外見だ。
……では、練習ついでにシュバルツ。”知力”でダイスロールだ。
行為難度は”超簡単:8”とする。シュバルツの知力は5だから、出目3以上で成功だよ。
A「おっけー……【ダイスロール:3】 わあ! あぶな! ギリギリ成功!」
――シュバルツはどうも、一般常識も危うい男らしいな。
A「うっさいですねえ。ぶうぶう!」
――行為判定に成功したシュバルツは、現れた男の正体がわかる。彼はどうやら、ダークエルフと呼ばれる種族らしい。ダークエルフは、純潔を重んじるエルフとは真逆の存在で、多種族との混血を好み、根っからの武闘派だ。様々な魔法を巧みに操るが、小狡い側面もある、……という情報を思い出した。
ダークエルフの男(GM)「やあ、あんちゃん。どうやらあんた、腕自慢らしいな」
シュバルツ(A)「おうともよ。なにかようかい?」
ダークエルフの男「おいら、あんたをみこんで、ちょっとした依頼をしたいと思ってるんだよ。――申し遅れたな。おいらの名前は、サボター。よろしく」
シュバルツ「ほうほう。聞こうじゃないか?」
サボター「実はな、おいら、ちょっと困ってるんだよ。北にあるバオアー村に、届け物があってな」
シュバルツ「なるほど。運び屋ってわけだな?」
サボター「まあ、話を最後まで聞けって。荷馬車はすでに、出発しちまってるんだ。だがどうも、向こうさんの話を聞くに、荷物が届いちゃいないらしい。どうやら、道中にゴブリンが出るらしくってよう。そいつらにやられちまったんじゃないかって話なんよ」
シュバルツ「ほうほう」
サボター「悪いがあんたら、ちょっと行って悪鬼どもをやっつけてきてくれんか? 報酬は……500ゴールドってとこでいいか?」
――依頼の内容は、以上ですね。
A「……えっと。ちょっと、GM?」
――はい?
A「お金の相場を知らないので、報酬が高いのか低いのかもわからんのですけど」
――そうですね。あなたの”知力”では難しいでしょう。
A「は? ブチギレそう」
――ああいや、きみ自身の頭の良さじゃなくて、キャラの”知力”の話ね。
A「ああ、そっちね」
――それでは……いいでしょう。ヘルディンに助けを求めてもいいですよ。
A「ほう」
――二人はすでに自己紹介し合っているので、あなたはヘルディンの能力を知っていることとします。
ヘルディンの能力は……、
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『キャラ名:ヘルディン
種族:エルフ
体力:5
精神力:6
筋力:3
知力:10
五感:12
設定:南にあるエルフの森から追放されてやってきた少女。
エルフ族は見た目で年齢がわかりにくいが、彼女は二十歳になったばかりである。
得意武器は弓。
日銭を稼ぐため、嫌々ながら冒険者の仕事をしている。』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――こんな感じ。
A「なんかこの娘、シュバルツより強くなあい?」
――まあ、ぶっちゃけお助けキャラだからね。
シュバルツ「なあ、ヘルディン、きみはどう思う?」
――訊ねると、……”知力”判定を行うまでもなく、ヘルディンは気づくでしょう。この依頼料は、どう考えても相場の半分以下である、と。
ゴブリンは一匹一匹は弱い動物ですが、群れると下手なモンスターよりもよっぽど厄介な存在なのですから。
シュバルツ「なんだてめーこのやろー! ぶっ飛ばすぞ!」
サボター「わあ! 悪かった悪かった! 1500出す! 1500だすから!」
シュバルツ「わかればいいんだこのやろー! あと、前金でよこせ!」
サボター「い、いやいやいや! それはちょっと……」
シュバルツ「じゃあ、やらない! 帰る! 今日は店じまい!」
サボター「わ、わかった! わかった! 前金として、いくらか出す! これでどうだ?」
シュバルツ「ふふふふふ。ならよし」
サボター「とほほ……」
――なんという……。
A「どうしました?」
――ああいや、出会い頭に依頼人を脅すとか、TRPG初心者とは思えないプレイングだな、と。
A「マズいですか?」
――いいえ、素晴らしいロールプレイです。少なくとも、一生酒場でうだうだやられるよりは、よっぽどいい。
A「えへへ」
――あなたはサボターとの交渉の結果、前金として150ゴールド……つまり一人当たり75ゴールドを受け取って、冒険の旅に出ることになりました。
つまりシュバルツの持ち金は、初期資金の500G+腕相撲の賞金100G+前金の75Gということになりますね。
A「ひゅー♪ 楽しくなってきた!」
――では、あなたたちはその後、冒険者ギルドが運営するアイテムショップに向かうでしょう。
武器屋の主人は、その辺に転がっている奇岩をそのまま頭に載っけたような風貌の男で、つるっぱげた頭に短く刈り込んだ黒髭が特徴的な人物でした。
彼は、現時点で取り扱っている武具を教えてくれるでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『防具類:胴』
レザー・アーマー:装甲+3/五感+1/50G
チェイン・シャツ:装甲+4/五感+1/200G
チェイン・メイル:装甲+6/300G
『防具類:盾』 ※盾は、片手武器と組み合わせて使う。
鉄の盾:装甲+2/40G
『武器類』
ナイフ……片手武器/攻撃力1D6-1/命中率8/射程:接近/30G
ショートソード……片手武器/攻撃力1D6/命中率15/射程:接近/40G
ロングソード……両手武器/攻撃力1D6+2/命中率16/射程:接近/75G
ロングボウ……両手武器/攻撃力1D6-2/命中率10/射程:20メートル/200G
『マジックアイテム類』
ファイアの巻物:1精神力を消費して火の魔法を使用する。使い捨て。20G。
アイスの巻物:1精神力を消費して氷の魔法を使用する。使い捨て。20G。
治癒ポーション:体力を1D6回復する。50G。
精神ポーション:精神を1D6回復する。50G。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――その他もろもろ、雑貨品が山ほどありますが、その辺は割愛で。
A「ええっと……ぶっちゃけ、戦闘のルールがわからないから、どれを買えば良いのか……」
――いまは、ノリで大丈夫です。ここで売られているアイテムなら、どれを買っても間違いないものをピックアップさせてもらっているので。
A「ふーむ。おっけー」
――ただ冒険に出る際は、”冒険者セット”という便利な雑貨品を50Gで購入する必要があります。これには、背嚢、たいまつ、たいまつ用の油壺、水袋、保存食10日分、ロープ、ほくち箱、寝袋などが含まれる。
まあ要するに、冒険一回分のチケットだと思ってくれればいいよ。
A「はあい」
(かりかり……)
A「はい、決まりましたよ!
購入したのは……、
チェイン・シャツ ×1 200G
鉄の盾 ×1 40G
ショートソード ×1 40G
ファイアの巻物 ×4 80G
治癒ポーション ×3 150G
精神ポーション ×2 100G
冒険者セット ×1 50G
こんな感じ!」
――はい。……って、ずいぶんとファイアの巻物を買い込みましたね。
A「あたし、魔法剣士に憧れてたんです!」
――なるほど。
……その後、買い物を済ませた、シュバルツとヘルディンは馬車に乗って……って、あ。馬車代忘れてた。どうしよ。
A「依頼主が払ってくれたんじゃないんですか? それくらい」
――え? ええと……どうだろう……。
A「払ってくれたことにしましょう! もうこちとら、買い物は済ませてるんですから」
――うーん。そうですね。そうしましょう。
サボターは妙なところで奮発したらしく、道中の馬車の代金は支払ってくれたようです。
サボター「ここまでしてやったんだから、ぜったいゴブリンを倒してくれよ!」
シュバルツ「おうともよ」
――そうしてシュバルツとヘルディンは、冒険の旅に出るのでした。
【To Be Continued】
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