無題のシナリオ。~ぼくとあの娘のTRPGリプレイ~

蒼蟲夕也

1章 ファンタジー編『終焉の儀式』

第1話 えんぴつTRPG

(過剰なほどに整理整頓されたワンルームで、一組の男女が向かい合っている。

 片や、どこか哀しげな目をした中年男。

 片や、十代半ばほどの、勝ち気な娘だ。

 男が、フリー音源のBGMを流し始めたあたりで、物語は始まる)


――ええと、……ごほん。

 そんじゃ、さっそくやっていきましょうか。


A「オーケーです、おじさん」


――おじさんではない。今後は私のことを、”ゲームマスター”と及びなさい。


A「はあはあ。了解です、GMさん」


――うむ。……ところでAちゃん。きみ、約束のサイコロを忘れてきたね。


A「うん!」


――わあ。元気が良いねー。忘れん坊さんのセリフとは思えないねー。


A「でも、ぜんぶGMが持ってるんでしょ」


――あいにくいまは、別の場所に一式、置いてきてしまっているんだ。


A「えーっ。そんじゃ、どうします? また、スマブラでもする?」


――しない。若者の反射神経には勝てないので。


A「えーっ。そうですかぁー?」


――……よし。わかった。

 ここはいっちょう、昔遊んだネタ帳を引っ張り出して……(本棚の奥から、一冊のボロいノートを取り出してくる)あったあった。


A「なんです、それ?」


――身内向けに作った、TRPGのルールブックだよ。

 『えんぴつTRPG』といってね。


A「えんぴつ?」


――うん。えんぴつってほら、六角形だろう。これを6面ダイスに見立てるんだ。……ほら、学校の休み時間中でも遊べるようにね。


A「へえー。もののない時代だったんですねぇー」


――……ものがない……。ま、まあ、そう言えなくもないか。

 ちなみにAちゃん、さすがにえんぴつくらいは持ってきたよね?


A「はい! もってきました!(山のようなえんぴつをテーブルに広げる)」


――そんなにいらないよ!


A「だってだって、いまどきえんぴつとか、ほとんど使いませんし。あたし、このために買ったんですよ」


――ああ、そっか。……うん、ありがとう。よし。それじゃあその、えんぴつの六面に数字を書いていって、サイコロの代わりにしよう。

 『えんぴつTRPG』は、六面ダイスD6のみを使ってプレイするんだ。


A「そんなんで、ちゃんとしたゲームになるんですか?」


――なるとも。TRPGには、無限の可能性があるからね(遠い目)。


A「ふーん。あっそ」


――わあい、冷たい反応。

 一応この遊び、最近は人口が増えてきているはずなんだけど……。


A「そうかなあ? あたし的には、米兵さんにチョコレートおねだりしていた時代のイメージ」


――さすがにそんな、”戦後まもなく”って時代のゲームじゃないんだが……。


A「まあ、とりあえずやってみましょうよ! 何ごとも、やってみなくちゃわからないんですから」


――うん。そうだね。それではまず、【2D6】でキャラクターの設定を決めてください。


A「にでぃーろく?」


――2個の六面ダイスD6を振る、という意味だよ。要する今回は、えんぴつを二本、投げてくれってこと。


A「ふうん」


――決めるべき項目は、体力、精神力、筋力、知力、五感、それとキャラ設定だ。よろしく。


A「ちなみにお話は、どーいうかんじです? 現代劇? ファンタジー?」


――現代編のシナリオもあるけど、……今回は、ふわっとした中世ファンタジーのイメージの世界観でやろうか。


A「はあい。ふわふわファンタジー……と」


(カキカキ……コロコロ……)


A「はい! おーけー、きまりましたよ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『キャラ名:シュバルツ・ハオプトロレ・クーゲルシュライバー

 種族:ヒューマン

 体力:4

 精神力:3

 筋力:12

 知力:5

 五感:8

 設定:名門、クーゲルシュライバー家の長男。

 剣の名手で、めっちゃつよい。哀しい心を持っているが、それを表に出さないクールガイ。現在、家のくだらないしがらみから逃れ、流れの剣士として冒険者をしている』


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――こいつ、キャラ設定に対して、よわくね。すぐ死にそうなんだけど。


A「パワーがあるから、へーきへーき」


――なんなら、最初から振り直しても……。


A「これでいいんです! あたし、ダイスの神様を信じていますから!」


――ふむ。……なるほど。その意気やよし。


A「では、GM。これからあたしのことを、シュバルツと及びください」


――了解。


A「では、さっそく初めていただきましょうか」


――いいだろう。……ではさっそく、シナリオを読み上げていくぞ。


A「待ってました!」


――では、始めよう。

 チュートリアルシナリオ:『終焉の儀式』を開始する。


A「はーい♪」



――あなたは、最近ギルドに登録したばかりの、新人冒険者だ。

 今のところ、きみの仲間は、たった一人だけ。

 ええと……、【シークレットダイス】……きみの仲間は、エルフの少女、ヘルディンだ。

 ヘルディンとシュバルツは、たまたま冒険者ギルドに入会したタイミングが同時であったため、なんとなく行動を共にしている、パーティの一員である。


A「シュバルツとヘルディンは、付き合ってるんですか?」


――え? 付き合ってるかって? ……ええと、どうなんだろ。


A「シュバルツはイケメンなんだから、ヘルディンが言い寄ってきてもおかしくないと思うんですが」


――うーん。……いや、まだそれほどまできみたちは、仲が良くない。昨日今日、あったばかりだし、エルフは身持ちが堅い種族だからね。


A「にゃるほど。りょーかい」


――では、続けるぞ。

 ある日、シュバルツが酒場、”丸焼き亭”でのんびりと過ごしていると、ヘルディンが話しかけてくる。


ヘルディン(GM)「ハロー! シュバルツ。ゴキゲンいかが?」

シュバルツ(A)「機嫌? まあ普通だけど」

ヘルディン「あら、そう。……ねえねえところで、あそこを観て。マッチョな船乗りたちが、お金をかけて腕相撲大会を開いているよ。あんた筋肉バカなんだから、いっちょう挑戦してみない?」

シュバルツ「ほほう、腕相撲大会。なかなか興味深い。――って誰が筋肉バカだ!」

ヘルディン「うわ。いきなり怒るじゃん」

シュバルツ「俺は、この筋肉を誇りに思っている。この筋肉を馬鹿にするものは、何人たりともゆるさん!」

ヘルディン「別に、筋肉を馬鹿にしたわけじゃないわよ。馬鹿にしたのは、あんたの頭の方」

シュバルツ「なるほど。それならよし」


――えっ。……それはいいんだ……。


ヘルディン「あんた、相変わらず愉快なやつね。なんでもいいから、腕相撲に挑戦してきなさい。どーせ、お金が必要なんでしょ」


――どうしますか?


A「えっと。そんじゃ、試しにやってみようかしらん」


――承知しました。

 それではここで、”行為判定”のチュートリアル。

 ”行為判定”は、その難度に応じた出目以上を出すことで成功となります。

 判定難度は、”簡単”、”普通”、”難しい”……という風に段階があって、それぞれ数値が設定されています。

 今回の判定難度は、”難しい:15”とします。あなたはこれから、【2D6えんぴつ二本】を振って、それに筋力を足した数値を出せば成功となります。


A「はあはあ、なるほど。つまり今回は、15マイナス12だから、出目3以上を出せば成功ってわけね」


――そういうことです。マッチョなシュバルツには容易い仕事ですね。


A「【ダイスロール:10】 ……うし! やった!」


――シュバルツが船乗りたちに交じって腕相撲に参加します。結果は、シュバルツの圧勝でした!

 船乗りたちは、シュバルツの馬鹿力をそれぞれ賞賛して、その報奨金として、100ゴールドを渡してくれるでしょう。


シュバルツ「やったあ! ――じゃない。ふっ、……まあ俺なら、当然これくらいできるだろうな」

ヘルディン「さすが、力だけはサイクロプス並みね!」

シュバルツ「おや? また口喧嘩するかい?」

ヘルディン「いまの、普通に褒めたつもりだったんだけど」

シュバルツ「なーんだ。……てへへ」


――などと話していると、二人の間に割り込むように、一人の男が現れました。


シュバルツ「?」


――彼の依頼が、世界の危機に迫る冒険の幕開けになろうとは、この時のきみたちは、思いもしなかったのです。

 ……と、いうところで、いったん休憩にしよう。


A「お」


――お茶とおやつの時間だ。今日はケーキを買ってきているから。


A「やったあ! ないす、おじさん!」


――おじさんではない。ゲームマスターと呼びなさい。


【To Be Continued】

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