「第7章 青が読めなくなっても」(2)
(2)
直哉はこの間聞いた美結の大学進学の話を思い出していた。
美結の幹となる部分を作れたのが嬉しかった。彼女も今はもう地元にいない。神奈川にマンションを借りて大学生活の準備を始めている。夏休みには一度、遊びに行く予定だ。
今の直哉は学生服を着ていない。この先も着る事はない。入学式から卒業式まであっという間に流れていった三年間だった。でも間違いなく過ごした思い出は、ずっと蓄積されている。
「ふぅ」
直哉は思い出を二酸化炭素に少しだけ変換して、口から吐き出す。
そして、持ってきていたトートバッグから封筒を取り出した。中にはクリアファイルにA4のコピー用紙が100枚以上入っている。雑に扱って破れないようにそっと、封筒から取り出してテーブルに置く。
これは、美結が神奈川へ行く最後の日。
直哉に渡してくれた約束の小説だった。美結は「約束してから大分経ったけど、ちゃんと完成させたよ。良かったら読んでくれると嬉しいな」と照れていた。
正直、あの時話していた小説を完成させているとは驚きだった。
だけど、美結はちゃんと約束を守って、こうして直哉に渡してくれた。
受け取った時、必ず感想を言うと約束している。
それから少しずつ、読み進めていた。
美結の書いた小説は、まるで彼女の心情が写し出されたように丁寧で繊細な文章で書かれていた。時折、涙が出そうになる。
さぁ、今日も読み進めよう。直哉は、クリアファイルから中身を取り出した。
一枚目には、タイトルが書かれている。
本文は、パソコンで書かれているがタイトルは青のボールペンで手書きで書かれていた。青色で書かれているのがまた、美結らしい。
タイトルは「青が読めなくなっても」
今日もまた、美結が書いた物語を読み始めたのだった。
青が読めなくなっても(了)
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