「第6章 本当の真実」(3-1)
(3-1)
「やっぱり“心読み“は戻りそうにない? 小説を書いても戻りそうにない?」
話が長くなったところで、本来の目的。“心読み“を回復させる方法について、話題をシフトする。
現状を打破する唯一の光明を大切に美結に投げかけた。しかし彼女はその光明をフッと消す。
「手伝ってくれて、本当に申し訳ないんだけど……」
「そうか、残念だ」
やっと捉えてた手掛かりが消失してまった事を直哉は、非常に残念に思う。
「新藤さんにとって、“心読み“が消えるのは、本当に辛いんだと思う。その辛さは、新藤さんにしか分からない。分かってあげたいんだけど、やっぱり“心読み“がない俺には百パーセント寄り添えない」
「うん」
「普通、この世界で生きている人は“心読み“は持っていない。もしかしたら、持っている人もいるかも知れないけど、極小数だ。持っていない人の方が圧倒的に多い。だけど、それでも皆、生きてるんだ」
直哉がそう励ます、美結は「無理だよ」と小さな返事を返した。
一度出た本音は、洪水となって一気に流れ出る。
「ずっと怖いの。学校でも家でも“心読み“がないと私は誰と話してても不安でしょうがないの。誰が何を考えているか分からないと……」
“心読み“がないと、どうなるのか。誰よりも一番、美結自身が分かっている。
「ならどうしたい? 一生、この部屋にいるの? さっき杏さんに言ってたじゃないか。大学になったら一人暮らしするって。それと矛盾してるよ」
「言われなくても分かってる」
直哉の追及に美結は弱気になる。さっき説明した話は、あくまで司と一緒に暮らしたくない為のプラン。今夜、話すつもりだったのもその場限りの嘘かも知れない。
“心読み“がない今、人とまともに話せない。相手の真意が分からない。
その判断の境界線がおかしくなっているぐらいには、美結は壊れていた。
美結の“心読み“で作られたこれまでの自信。それに代わるものが必要。それが答えである事を直哉は理解していた。どうしたら自信が付けられる切っ掛けになるかも。
直哉は足を一歩、前に出す。
「新藤さんが、自分の意思でそこから出てこない。最終的には新藤さんの人生。俺がとやかく言ってもしょうがない。――だけどさ、」
直哉はiPhoneを耳から下げた。そして、左手を伸ばしてドアノブに掛ける。
ほんの少し力を入れるだけで、ドアノブはいとも簡単に開いた。
「そんなの、俺は嫌だな」
iPhone越しではない。肉声で直哉は言葉を発した。
美結の部屋は、カーテンを閉めて電気も消して暗闇を維持していた。廊下からの明かりが部屋全体を照らす。
部屋の中は前回来た時と同じで散らかっていない。
「新藤さん」
直哉は部屋の中に足を踏み入れて、美結の名前を呼んだ。
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