第3話 異世界で魔物狩りのための試験を受けることになりました
僕は不安な気持ちを抱えたまま試験に挑むことになったのだが、試験の内容は目の前にいる試験官と模擬戦をして勝てばいいという話だった。試験官がどれくらい強いのかわからないけれど勝てばいいというだけなら話は簡単だ。さっきみたいにスローになった世界で攻撃を当てればいいだけだもんね。
あれ、僕に向かってくる強そうなお兄さんの攻撃が全然スローにならない。それどころか、僕の目の前ギリギリを竹刀がかすめている。つまり、僕は相手の攻撃が見えていないだけではなく動くことすらできていないという事なのだ。何故能力が発動していないのか、僕にはその理由がさっぱりわからなかった。
「あの、本当にこの女性が街のゴロツキ共をのしたって言うんですか。僕の攻撃を一切見きれていないみたいなんですけど、調子が悪かったりしてます?」
「いや、調子は悪くないと思うんですけど、自分でもよくわからないです」
「まあいいや、じゃあ、僕じゃなくて他の人とやってみてください。他にも試験官はたくさんいるんでいつも通りの方法で試してくださいね」
竹刀を持っていた男がそう言って僕の目の前からいなくなると、周りを囲んでいた男たちが僕の前に順番に列を作っていた。一斉に襲い掛かってくるパターンなのかと思っていたので今の状況に戸惑っていたのだけれど、一人ずつを相手にするのだったら何とかなるかもしれない。今でこそあの魔法を使うチャンスなのではないかと思っていたが、相変わらず魔法の使い方なんて何も知らなかったのだ。
「じゃあ、いつも通りその志願者を倒した人は刑期が短くなります。少しでも早く出られるように頑張って倒しちゃってね。でも、僕が目の前で見たところによるとそんなに強そうには見えないから半年くらいしか短く出来ないかもしれないけどね。じゃ、順番にどうぞ」
刑期って何だろう。僕の目の前にいるのはいかにも犯罪者って感じの人達なんだけど、あのお兄さんが言っていることを僕が思っている通りに理解してみると、この人達が僕を倒すことが出来れば刑期が短くなるって事なのかな。あの兵士が言ってた試験も難なく通るっていうのは、きっとこれの事なんだな。でも、三十人くらいはいそうなのにさっきみたいに能力が使えないんだったら無理なんじゃないかと思えてしまう。
そう考えている間に試験は始まっていたようだ。今にも僕を殴り飛ばそうという男が目の前にいるのだけれど、なぜか男の動きは遅くなっていた。さっきの人は遅くならなかったというのに、この男はなんで遅くなってるんだろう。とにかく、考えるよりも先に行動をしないとこの場を切り抜けることは出来ない。とにかく、僕はこの男の攻撃を華麗にかわして軽い一撃を入れてみた。
僕の攻撃が当たった瞬間に男の体は壁に向かって飛んでいき、強烈な音を立てて壁にめり込んでしまった。自分でも何が起こったのかわかっていないのだが、吹っ飛んでいった男を見た人達が一斉に列から離れていったのだ。結局のところ、列から離れずに残っていた三人の男とも戦うことになったのだが、あの男と同じように動きがゆっくりになっていたので難なく全員倒すことが出来たのだった。強い相手だと動きが遅くならないのかとも思っていたのだが、他の人達の話を聞いたところによると、最後に向かってきた大男は竹刀を持っている男よりも格段に強いとのことだったので強さで能力の発動条件が変わるということも無さそうだった。となると、考えられるのは何だろう。もしかして、アレが条件だったりするのかもしれない。
「あの、一つ確認したいことがあるんですけどいいですか?」
「え、何だろうか?」
「さっき僕と戦った時なんですけど、僕の事を殺そうとか痛めつけてやろうって考えてました?」
「いや、僕は騎士なので試験とはいえ女性に対してそのような事を考えるわけはないのだが、それがどうかしましたか?」
「いえ、たぶんなんですけど、僕って敵意を向けられた相手としか力を発揮出来ないみたいです。たぶんですけど」
「言っている意味がよくわからないのですが、僕があなたを殺そうとすればいいって事ですか?」
「まあ、そうなりますかね」
「それは騎士道に反するので無理ですね。申し訳ないが、無理です。ただ、通常の試験を突破したのは間違いない事ですし、魔物狩りを一度だけ拝見させていただいてもかまわないでしょうか?」
「それは構わないのですが、寝る場所と食べ物を提供していただく事って可能ですかね?」
「ええ、もちろん。必要でしたら武具も揃えますよ。と言っても、あんまり高価なものは出せませんがね」
僕は魔物狩りに提供されるという宿に案内された。本来であれば誰かと同室になるそうなのだが、この国には女性の魔物狩りが少ないという事で四人用の広い部屋を一人で使うことになった。一人ならば個室で良いだろうと思っていたのだけれど、この国の決まりで魔物狩りは四人部屋を使うということになっているのだ。女性にあてがわれている四人部屋は十部屋あるそうなのだが、女性の魔物狩りは三人しかいないので無理に一部屋に詰め込むのではなく人が増えるまでは個室感覚で使えるというものだった。食事の場でもお風呂でも他の女性に会うことは無かったのだが、全員どこかへ魔物狩りの旅に出ているという事だった。いつまでもこの宿にとどまるというのは正解ではないのだろうが、他の女性は姫の付き人として能力が満たされていないという事なのだろうか。
余談ではあるのだが、お風呂に入っていた際に、僕が女になっているという事実を改めて思い知ることになったのだった。
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