第2話 異世界での戦い方を覚えました
「なんだ、お前は魔法使いなのかよ。じゃあ、この“タネ”を食っても平気って事かよ。でも、その程度の初級魔法で俺達をどうにか出来るなんて思わない方がいいぜ」
“タネ”だの初級魔法だの言っていることがさっぱり理解出来ないのだが、とにかく僕はこの魔法を使ってこの場を切り抜けるしかないのだ。だが、それに関して問題が三つある。
一つ目は、この魔法をどうやって使ったのかわからないという事だ。
二つ目は、この魔法で何が出来るのかわからないという事だ。
三つ目は、この魔法が初級魔法だというのならもっと強い魔法を使うことが出来るのかという事だ。
当然、その答えは見つかるはずもなく、僕は襲い掛かってくる男の攻撃をただ単純に避けることしか出来ないのだった。どういうわけなのかわからないが、僕は男たちの繰り出す攻撃の一つ一つを目で確認してから確実に避けることが出来ていたのだ。例えるならば、僕以外の人の動きが急にスローになってしまった世界に迷い込んだ時のようだった。
男たちがいくら攻撃しても僕は全くそれを受けることなんてなかったし、今は自分の意思で魔法を使うことが出来ないので魔法に頼るのではなくこの状況を上手く使って立ち回る方がいいのだと思った。取り合えず、僕は襲ってきた男の攻撃を避けつつ男のお腹に向かって膝蹴りを入れてみたのだが、男に僕の攻撃が当たった瞬間に世界の早さが元に戻ったのだった。
僕の膝に突っ込んできた形になった男はピクリとも動かなかったので心配になったが、気を失っているだけのようで息はあるようだった。それを見た残っていた男が逆上して僕に再び襲い掛かってきたのだけれど、僕はそれらも上手くかわして一人ずつに攻撃を確実に当てていった。
最後の一人を無事に大人しくさせることに成功した後に気が付いたのだが、一人くらいは残しておいた方がこの場を上手く切り抜けられたのではないかと思った。だが、その辺の処理は騒ぎを聞いて駆けつけてくれた兵士っぽい人達が片付けてくれたのだ。
「女性でありながらその身のこなし見事でありました。もしや、噂に名高い拳聖様ではないですか?」
「いえ、僕は拳聖ではなく真琴と言います」
「真琴様。あなた様ほどの技術をお持ちの方であれば噂くらいはきいたことがあると思うのですが、不勉強で申し訳ございません」
「気にしないで下さい。僕もここに来たのは今日が初めてですから。それと、もし良かったら何か働き口を紹介してもらえませんでしょうか?」
「仕事をお探しでしたらちょうど良い仕事がございますよ。真琴様ほどの技術をお持ちの方でしたら間違いなく務まる仕事だと思います。むしろ、それをしにここに来たのではないですか?」
「それって何ですか?」
「もちろん決まっております。魔物退治でありますよ」
あ、そう言う事ですね。何となく察しはついていました。なんだかわからないけど無法者がいて怪しい“タネ”を持っているような世界。そりゃ、魔物だっていますよね。でも、大丈夫。僕にはさっきみたいに相手がゆっくり動く能力があるんですから問題ありません。さっきは人が相手だったんで自分の体を相手に当てるだけだったけど、魔物が相手だったのならば思いっきり攻撃しても問題無いはずですよ。むしろ、思いっきり攻撃しないと本気で殺されかねないよね。
「あ、そうでした。そうそう、どこで登録すればいいですかね?」
「この街は古くからある城下町ですのでわかりにくいと思うのでご案内いたしますね。ですが、真琴様ほどの技術をお持ちでしたら試験も難なく通ると思いますよ。これで私達も魔物との戦いに召集される回数も減りそうですな。それにしても、こんなに美しい女性があれほどの技術を身に付けるとは、まさに天は二物を与えたと言っても過言ではありませんね」
「いや、美しい女性ってさっきの人たちも勘違いしてたみたいですけど、僕はこう見えてもれっきとした男なんですよ」
「またまた、そのようなご冗談を。一部の国では女性に魔物狩りを認めないところもあるようですが、我が国は性別で判断することは無いのでご安心してよいのですよ」
「そうではなくて、僕は本当に男なんですって」
「失礼ながら、わずかに膨らんでいるその胸は詰め物か何かという事ですか?」
「わずかに膨らんでいる胸って、僕はそんなに太ってないはずですけど」
あれ、言われて初めて気が付いたけど、僕の胸ってこんなに膨らんでいたっけ?
膨らんでいると言っても本当に微々たるものではあるのだけれど、確かに膨らんではいた。それに、案内をしてくれているこの人には悪いけれど、背中をいったん向けて股間に手を伸ばしてみた。そこには、本来あるべきものが存在していなかった。
「あ、あれ、僕は本当に女性だったみたいですね。なんで男だと思ってたんだろう。あはは」
「ですよね。私も真琴様が男性だと言い張るのは何か深い事情でもあるのかと思いましたが、勘違いしていたという事ですよね。それならそれで良かったですよ」
その後もこの世界の事をそれとなく聞いてみたりした。詳しいことはわからなかったのだが、この国にとても強い姫がいて、その姫が魔物狩りの旅に出たいとワガママを言っているそうだ。ただ、今の状況では姫のお供に出来るほど強い女性がいないので旅に出ることは出来ないそうだ。お供が男性だけだというのは国王が認めないそうなのだが、国王が認めるほど強い女性はこの国には存在していないのでいつまでたっても姫は魔物狩りの旅に出ることは出来ないそうだ。
「あの、もしかしてなんですけど、僕って姫が魔物狩りに行くためのお供になればいいなとか思ってないですよね?」
「もちろん。そう思ってますよ」
「それって大丈夫なんですか?」
「もちろん大丈夫ですよ。姫の旅に反対しているのは国王陛下だけですし、皇后陛下も姫様自身も旅に出ることには賛成しているのです。ただ、いくら姫様が強いと言ってもこの国の中だけの話ですので、一歩外に出て本物の魔物の恐怖を知ればすぐにでも引き返してくると思うんですよ」
「外の魔物ってそんなに強かったんでしたっけ?」
「まあ、真琴様にしてみれば些少な獲物かも知れませんが、我々にとっては命がけで戦う相手ですからね。一匹の魔物を狩るために我々兵士では数十名の力を合わせる必要があるんですよ。お恥ずかしい話ではありますが、我々のような一般兵では数の力に頼るほかはないのですよ」
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