14

 残された時間は少なく、俺の部屋の中には何もなかった。

 趣味なんてものもない。


 あったら、メモ帳に書きつける遊びなんてしないし、友達がいたら、多分そんな事をしている暇はんてなかっただろう。そうだろ。俺と思いながら、自分には何もない事を改めて気が付かされてしまった。


 絶望だった。俺一人にしかない絶望で、15年間自分が何をしてきたのか、振り返ると何もしてこなかった。その事実だけが残っていた。ただ、あるとすればメモ帳に書いていた。そう書いていたんだ。挨拶と愚痴を書き連ねたスマートフォン。中学生の時に与えられた自分にとって初めて携帯電話。


 でも誰ともつながる事はなく、親と連絡を取ったりするだけに使った。ゲームアプリはモレナクつまらなかったから。誰ともつながらないのにSNSをやっても意味がなかった。持て余した時間は動画を見る事に使った。けど、それは自分の中にある隙間を満たすための手段でしかなくて、行為としてはばあちゃんが同じチャンネルのテレビ番組を見ているのに、見ている内容を覚えていない事と一緒だ。


 …このメモ帳が俺の全てだ。ああ、全てだとしたら、何ができるんだろう。


 嘘をつこうか。俺は心君みたいにギターが弾ける。音楽を打ち込みでちょっと作れる。スポーツが好きで、ダーツとかビリヤードみたいな大人がやるようなの。本も好きで漫画も好きだ。絵を描くのも好き。動画を作ってあげたりするのは好き。Twitterのフォロワーは一杯いる。


 メモ帳に案が溜まっていく。自分をごまかすための手段が、嘘つきの才能が自分にはあるかもしれないと思った。


 だが、そこで乾に通じるようなリアリティはないと思った。そんな付け焼刃が通じる相手だったら、俺はきっと乾と友達になりたいと思わなかっただろうと気が付いた。


 …そこで俺は重大な事実に気が付いたのだった。


 俺は乾と友達になりかったのではないか?


 友達ってなんだ。どうやったら友達になれるんだ。もう友達なのか。色々な疑問があるし、俺はまだ乾と友達じゃない。心君とも。心からそういえないけど、でも確かな感情が自分の中にあること。それは乾と友達になりたいという心なんじゃないのか?


 そして、乾は自分と友達になるために自分の好きな物を教えてくれた。だとしたら、俺も、何も恐れずに自分を出すしかないじゃないのだろうか。


 何もない俺が、初めて誰かと友達になりたいと思えたこと。

 

 もっと乾の事が知りたいと思ったように、乾も俺のことがもっと知りたいんだとしたら、気が付いた時に、lineを打つ文字が動いた。


 「今度の土曜日、先週と同じ時間に駅前のカフェでまってて」


 既読の文字が付く前に寝た。

 寝ないともう無理だと思った。待ちきれずにlineをずっと凝視して、既読の文字を待っている自分を考えたら死んでしまいそうなくらいだった。


 でも、俺は自分のメモ帳を乾に見せようと思った。

 それしかないじゃんか。


「わかりました」


 と次の日起きた朝に文字をみた。


 見た俺は、自分のスマートフォンを抱えて、「ありがとう」と人に心から感謝を伝えたのだった。こんな形だけじゃない気持ちを持ったのは生まれて初めてだった。

 

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