11
週明けの学校は乾と会える喜びというよりは、土曜日の夜に乾とのデートを自分のつまらない創作に利用しようとした気持ちが申し訳なくて、なんとなく乾に会うのが気まずくなっていた。
乾は決まった電車に乗って、決まった時間に席に着く事が分かっていたから、乾となんとなく顔を合わせたくなくて、いつもより少し早めの電車に乗った。
乾とのlineは土曜日の状態で途切れていて、そこからlineしなかった。いつも俺から送っているから、乾からlineが来ない事はなんとなく知っていた。たった一週間の付き合いしかないのに、なんで乾の行動がこんなにもわかるのだろうと思った。
自分の思い込みに振り回される状態がよくないなと思いながら、つり革を掴んで電車に乗っている所で、心君が隣に立った。
「土日どうだった?」
挨拶もなしに、でも俺もlineを無視していたので、何も話したくなかった。
「無視かよ坂グッチ」
「坂口だよ」
「あ、あだ名だめっすか? そすか」
「俺と乾の事に首突っ込まないでくれ」
「乾ちゃんに当てられた?」
「…どういう意味」
「俺も乾の好きな物紹介されたのさ、80円自販機、カレーパン、それから猫だよな。そのあと、B級映画を見て…」
「は?」
なぜ、心君が俺と乾が昨日行った所を知っているのか何も分からなかった。
「俺たちの事付けてきたの?」
「土曜日ライブだったじゃん、午前リハして、そのあと普通にライブやって打ち上げいって終わりだよ」
「…」
「乾ちゃんの儀式みたいなもんさ。坂グッチも遊ばれたんだね」
「遊ばれてない」
「語気が荒いね。図星じゃん」
人の事を知った風にいうなと言いかけた所で、さっきの自分の思い込みがよみがえってくる。乾に対して俺が何を思っていたのか、土曜日の夜に俺が何をしようとしたのか。
「俺も最初に乾とあって、紹介されてさ。凄くうれしかったんだよね。まるで自分が乾にとって特別な存在になったみたいでさ」
心君はいつものおちゃらけた様子がなくなっていて、車窓の遠くの方を見ていた。
「そうじゃないんだよ。乾は自分に近づいてきた奴らに同じ景色を見て確かめるんだ。自分をどうみているのか、観察してるのさ」
「…」
「だから、坂グッチは乾にとってただの景色の一部で、実験動物に過ぎないって話。俺の愛が届かないみたいにね」
「愛?」
「変に近づくと、火傷するよ。ほんとに」
高校の最寄り駅になると、心君は俺を置いて一人でさっさと改札を抜けていった。
俺の中にのこっているわだかまりが膨れて気持ち悪くなってきた。ホーム前のベンチに座って、地面を見つめて、酔いが冷めるまで待っていた。どれくらいの時間が経ったのか分からなかったが、俺の前に誰かが経っているのがわかった。
「坂口、ポカリ」
乾だった。乾が俺に声をかけてきたのだった。見上げると、乾の見下げる無表情な顔と、差し出されたポカリがあって、俺は、それを跳ねのけてしまった。
反射的に振り払った右手は、乾の手を拭き飛ばして、ポカリのペットボトルがサラリーマンに当たった。
「は?」
サラリーマンが近づいてきて、「何? 喧嘩打っているの?」と俺にいった。
「すいません!」
俺は謝って、頭を下げた。サラリーマンはその場を去り、乾は棒立ちで、無表情だけど、何が起きているのわからないように、目を開いて俺の事をじっとみていた。
「ごめん」
俺はその場から逃げ出した。乾はずっとその場に立っていて、ベンチの上に置き去りにされたポカリを見ていた。それをちらっと後ろを振り返ってみた俺は、それをみて、心がぐちゃぐちゃだった。
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