34 2068:ウラシマ・ドリフター

クラクションとタイヤがアスファルトを擦る音に、俺は目を覚ます。

地球に帰って、2度目の朝だ。

デジタル時計の日付には、


《2068年9月2日》


そう記されていた。

こっちで俺が死んでから、実に46年もの月日が経っていたらしい。

それを聞いた時、俺は我が耳を疑った。

まるで童話の《浦島太郎》のようだ。

だが、ここには玉手箱などないーー高校生の姿のまま、俺はこの地上で暮らしていかなければならないのだ。


「ハァ」

俺は軽く、ため息をつく。これからやるべきことは多い。

戸籍の取得に、日銭稼ぎ。そして職探し。何が何だかわからないが、生きてゆくためには必要なことだ。

そう思った時、ふと気づく。


「アレ……?」

俺はそんな声を出しつつ、ポケットや自分の周囲を探る。

スマートフォンが無いのだ。

俺が向こうで死んだ時、確かにスマートフォンを持ってはいなかったーーだが、俺がここにいるということは、あの《神の使い》と名乗る男が何かしたであろうということ。

ならば、彼女が一緒にいてもいいはずなのだがーーどうやら、それはあまりに都合が良すぎたらしい。

俺とマリスは、離れ離れになってしまった。

その事実にショックを受けていた、その時。ノックの音が聞こえた。


「はい」俺は返答し、部屋に入ってもらうよう促す。

ドアが開き、部屋へ入ってきたのはーー


「……!?」


忘れもしない、あの人物――俺を拷問にかけ殺した、あの男――と瓜二つの医師。


「うっ、うわっ、あぁぁぁぁぁ!!」


頭では別人だ、と理解していながらも、思わず悲鳴が漏れた。

俺はベッドから転げ落ち、腰を抜かして腕の力だけで後方へ這う。

そんな俺を心配そうに見つめる医師だったがーーその視線が、俺の恐怖を煽る。

脳裏に蘇る、拷問の感覚。

今ここにあるはずの目が、指が熱くなり、疼く。

人は自身の部位を失った際、あるはずのない部分の痛みを感じることがあるらしいがーーその全く逆の現象が、今俺を襲っていた。

碌に声も出せなくなり、歯を打ち鳴らして震える俺。

男が近づくたびに、思いは大きくなる。


来るな、来るな、来るな。怖い、怖い、怖い。痛い、痛い、痛い。憎い、憎い、憎い。


渦巻く感情は俺の中で膨張し、ついにーー


「うっ、がっ、アッ……」


爆発した。


「アアアアアアアアーーッ!!」


言語にならないような絶叫を上げる俺。

その瞬間、俺の意識は暗転したーー

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