35 2068:エヴォリューション・タイム
「グッ……ウァッ、アウゥ……」
強く降りしきる雨の夜。獣の如き唸り声を上げる一つの影があった。
痛々しく脚を引きずり歩くそれは、他でもないアヤツジ・ケイトの姿であった。
その最中――街頭に設置された大きなテレビの前を通った際。彼の耳にあるニュースが飛び込んでいた。
『先日発生した市民病院爆発事故について、警察はテロの――』
すぐに通り過ぎたため彼の耳にはそこまでしか入っていなかった。が――
(……何で、何で俺は)
人気のない廃工場へと入り、力なく鉄骨に腰掛け膝を抱えて項垂れる。
《一を聞いて十を知る》。内心で自分を責め立てる彼には、この事故の――否、《事件》の真相がすべてわかっていた。
(何で俺は、あんなことを――!)
そう――爆発事件の犯人は、他でもない彼自身。アヤツジ・ケイト自身なのだから。
事件が発生したあの日の朝。彼が異世界において自身を惨たらしく殺害した男に似た医師と遭遇したことがその発端だ。
あの時彼に巻き起こった恐怖や憎悪、怒り、そう言った《負》の感情が一気に解き放たれ、新たな力を目覚めさせたのだ。
しかし、まだその力は不完全。あと一押し――何かが必要だ。
「やぁ、久しぶりだね。アヤツジ・ケイト君」
そのために、私は彼の前へと姿を現した。
「貴方は――?」
突然現れた私のことを、怯えた目で見つめる彼。
私は目線を合わせ、答えた。
「そうだね……神の使い、とでも言っておこうか?」
あえて、彼と初めて会った時にかけた言葉を選ぶ。それを聞き、彼も思いだしたようだ。
そして彼は途端に血相を変え、私へと詰め寄る。
「貴方が、貴方が俺を蘇らせたんですかっ!?何で、何であんな力を俺に!」
よほど錯乱しているのか、怒りの形相でまくしたてる彼。
しかし、それは見当違いだ。
私がやったのは、彼をこの地球へ導くという事だけ。彼に発現したあの力は、まぎれもなく――
「あれは君自身が目覚めさせた、君の力なのだよ?アヤツジ・ケイト君」
私は彼の手を払いのけつつ、そう返す。
そうすると、彼の顔から血の気が引いた。地面にへたり込み、目を見開く彼。
その口は、「俺自身の、力?」――と力なく呟いている。
私は彼に合わせる形でしゃがみ込み、その肩に手を置いて言う。
「そう。あれは君が生み出した力さ。君は進化し、復活したのさ」
「進化……?復活……?」
「君の中に渦巻く哀しみ、絶望、怒り、憎悪。そんな《悪意》が、君の存在を生物として新たなステージへと引き上げたのさ。もはや君は、人間と言う矮小な存在なんかじゃない」
私は一つの花束を差し出し、告げる。
「ハッピーバースデー、
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