26 オ ワ リ ノ ハ ジ マ リ

「長官っ!」


レイヴンズ本部――長官室。乱暴にドアを開け放ち、顔を真っ青にした職員が部屋へと入ってきた。

何事かね、と問うタダシに、彼は応える。


「屯所が突如襲撃を受け、音信不通となりました!犯人は依然として特定できておりません!」


そう――それはつい先刻のこと。本部へと入った緊急連絡が混乱の引き金であった。

送信者は慌てた様子で話しており、要領すらつかめていなかった。

しかし轟く爆音と悲鳴、映る瓦礫の山と最後に見えた謎の触手が、事態の異常性を現している。


そんな報告を聞き、タダシは――



「なるほど。……では今すぐ緊急戦闘態勢を取れ。隊員を総動員し、本部を防衛するのだ」


やはりか、と言わんばかりにほくそえみ、淡々と命令を告げた。

はは、と返事をして部屋を出ていく部下。

残された彼は一人腕を組み、呟いた。


「全て予定通りだ――ここに、新たな脅威が誕生した。《転生者》という、最大にして最悪の《悪》が。後は、我々の正義を示すのみ!」


金色のスマートフォンを見つめ、彼は再び笑みを浮かべた――



「周囲に生体反応無し……ターゲット変更。標的……レイヴンズ本部」


レイヴンズ屯所跡地。瓦礫と死体の山と化したこの場所に佇み、ケイトは――否、ケイトの姿をしたマリスが呟く。

その赤い瞳を輝かせ、彼女ははるか遠くを見据えた。その方角にあるのは――レイヴンズ本部。彼女は静かに歩き出した。

全ては復讐を果たすため。

ケイトの命を奪った者に対する怒り、憎悪。そして彼を失ったことへの哀しみと――彼への愛が、彼女を突き動かすエネルギーであった。


「悪意……」


彼女は呟きつつ、以前ケイトが言った言葉を思い返す。


「どこの世界でも、悪意ってやつは無くならないもんだな」


彼女はそれを痛感していた。

自分自身の中でも湧き上がっている怒りや憎悪、復讐心という紛れもない《悪意》。

――この世界にも渦巻くそれは、ケイトを危機に至らしめてきた。その果てが、彼の死だ。

生み出しているのは誰だ?と問われればそれは――この世界そのものだ。

ならば、滅ぼしてしまえばいい。知的生命体が存在する限り悪意が生まれ続けるならば、その全てを絶つ。

それが彼女の学習ラーニングの末の結論であった。

最初の標的は、彼を利用しようと目論んだレイヴンズ。

その次は、全人類だ。

そしてその次は――


「……誰であろうと、邪魔はさせません」


森へ差し掛かってきた頃、本能的恐怖から気が狂い、襲い掛かってきた魔獣に触手を突き刺し、その能力を取り込みつつ呟くマリス。


最早、全てを滅ぼすまで彼女は止まらない。


狂った正義、バーサス無情なる悪。

終焉への序曲が、今まさに始まろうとしていた――

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