12 傲慢なる悪意

「《転生者》……だと!?何を言ってやがる!」

「フン、うるさい男だ……黙れ」

「ぐっ!?」

「スクトさんっ!?」

「ぐ、ぐぐ……!」

男が手をかざした瞬間、スクトさんの周囲に赤い稲妻が迸る。体を動かそうともがくも、どうやら動けないようだ。


「これでよし。さて小僧。私が話があるのは、お前だ」

再び俺を指差し、言う男。奴はそのまま手のひらを俺に差し出すように開き――


「私の名はアロガ……またの名をサイトウ・ジョウジ」

「最後通告だ。魔法具……いや、スマートフォンと言ったほうが分かりやすいか?それを渡せ」

「ずっとそればかり……何故そこまでして!」

「ハハハハ!そんなこともわからないか?」

奴は笑いを浮かべながら、続ける。


「我ら《転生者》は、いわば選ばれし者!ならば全てを支配するのは当然のことだろう!そのために……もっと《能力スキル》が必要なのだよ」

「何て身勝手な……!力があるからって、好き勝手していい訳がない!ましてや他人の人生を踏みにじるなんて!」

「ならば問う。貴様は、何のために力を持っているのだ?」

「それは……!」


――沈黙。

答えなんて、出てきやしない。確かに奴の言うとおり、俺はこの世界に来てから、流されるがままに動いていただけだ。特に何かをしようと思ったことなんて、一度もない。

歯を食いしばる俺を、奴は嗤う。


「クク、答えられぬだろう。だからな。貴様のようなガキにその力は過ぎたおもちゃなのだよ。それならば、私が有意義に使ってやろう……さぁ、渡せ」

「そのつもりはない!」

「ほう?まだ強情を張るつもりか。ならばこれはどうだ?」

アロガが再び、手をかざす。すると今度は俺の身体の周りを電流が奔り――


「な、何をするつもりだ……!」

「ふん、こうするのさ」

奴が言うと、俺の身体が意思とは関係なく動き始めた。地に片膝をつき、スマホを差し出す形になる。

「あの時は遠隔操作の鎧越し故に効かなかったようだが……こうして対面であれば通じるようだな」

「そんな……!」

「言っただろう?私と貴様は同じ存在だと。貴様の持つ力が神に与えられたものであるように、私の力もまた同様。自分だけが特別などと思うなよ?」

「くそっ……!」

身体の自由が利かず、唸ることしかできない俺。

じりじりと歩み寄るアロガ。渡すつもりなど毛頭ないが、身体は言うことを聞かない。

一体、どうすればいいんだ――?


「フフ、これで俺は、さらに高みへと至ることができる……!」

奴がついにスマホを手にとった、その時だった。




『……嫌です』

「何?」

突如として、マリスがはっきりと言ったのだ。


『拒否します。マスター以外の人間に使用権を与えるつもりはありません』

「ほう。だったらそんな男のことは忘れさせてやろう」

「マリスに何をするつもりだ!やめろ!」


俺の言葉も聞かず、アロガはスマホを持つ手に力を込める。


『あ……うああああああっ!』

すると赤い電流がスマホを包み、マリスが悲鳴を上げ始めた。

「この私に支配できぬものなどありはしない。さぁ、私のものとなれ!」

『嫌……です。私は……マスターの……!』

「まだ言うか!」

『あああああーーーーーっ!』

奴がさらに電流を強めた、その瞬間!


「……な」

「ん?」

「ざっけんじゃねぇぞ、コラァ!さっきからグチャグチャグチャグチャ、訳わかんねぇことばかりぬかしやがって!」


スクトさんが、叫んだ。


「てめえの方が、よっぽど力っておもちゃを振りかざして遊んでるガキじゃねぇか!確かに余計なことしかしねぇが、それでも人助けをしようとしてるコイツと比べんじゃねぇ!」

「スクトさん……」


「黙れと……言ったはずだぁぁぁぁ!」

そのセリフがよっぽど頭に来たのか――奴はマリスを痛めつけることを一旦止めると、スクトさんへ一際強く能力を行使する。


「ぐあぁぁぁぁぁぁーーっ!」

「この俺に……選ばれし者に無礼な口を利くんじゃあないぞ!この下等人種いせかいじんがぁーーっ!」

「やめろーーっ!」

アロガはますます力を強めていく。だが――


「う、ぐぐぐ……!こんな……こんな物でっ!」

なんとスクトさんは、足を震えさせながらも立ち上がった。そして全身に力を込め――


「俺を縛れると思うなあぁぁぁぁぁ!」

力づくで、呪縛を打ち破ったのだ!


「なっ……何故だ!」

想定外の事態に困惑し、後ずさるアロガ。同時に、俺の拘束も解ける。


「ハァ、ハァ……ヘッ、知るかよ。いつだって最後は気合と根性だろ」

「そんな、そんなことで……ええい、斯くなる上は!」


男はそう言うと、どこからともなく鎧を召喚する。それはあの時、俺が戦ったものと全く同一のものだった。


「貴様らを始末してから、ゆっくりとこいつを調教してくれるわぁぁぁーっ!」

男が長刀を振りかざし、スクトさんを狙う。

しかし、

「ぐ……!」


《Armed on……!》

「へっ、助かるぜ」

あの装甲を身に纏ったスクトさんは、それを左腕で防いでいた。そして今度は右腕を振りかぶり――


「殴りやすい姿になってくれて、なぁ!」

「ぐおぉっ!」


その胴体を、思いきり殴りつけた!

あまりの衝撃に、大きく後退するアロガ。

その拍子に地面に落ちたスマホを、俺は拾い上げる。


「マリス!大丈夫か、マリス!」

『マス、ター……はい、大丈夫です』

「よかった……」

『それよりも、お伝えしたいことが』

「どうしたんだ?」

『攻撃を受けている間、あの者を《解析》していました。そして、わかったことが――』

「なにがわかったんだ?」


『あの肉体に、二つの生命反応を検知しました』

「……ってことは、まさか!」

『はい。アロガと言う男は、あの少女の身体に乗り移っただけの存在――いわば精神生命体です』

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