10 それが俺の仕事

「スクトさん……どうしてここに」

「あ?そりゃこっちのセリフだ」

「にしても、何だこの状況は」


「……俺の、せいなんです」

「はぁ?」

「スクトさんの言ったことを無視して、首を突っ込んだから!報復で、皆が巻き込まれてしまった……だからこの事件を引き起こしたのは、俺なんです!」

「皆、狙いは俺の持ってる魔法具です。住人同士で殺しあっているのは、只の暇つぶしでしかない」

俺はスクトさんの前で膝をつき、地面を叩いて涙を流す。


「……落ち着け。話が見えてこねぇ。その言い方だと、何か知ってるな?」

「はい。多分ですけど……先日の誘拐事件と同一犯です。奴も、狙いはこれでしたから」

「なら話は早え。そいつをぶっ潰せば丸く収まるってわけだ」

「俺が、何とかします。この事態の原因は俺なんです。だから……」


そうとだけ言って、ふらふらと歩き出す俺。

正直、もう降伏してスマホを奴に渡してしまったほうがいいのでは?という考えが、頭をよぎっていた。

完全に、やけっぱちだった。

そんな俺を――スクトさんが引きとめた。


「人守んのが俺の仕事だ。俺の目の黒いうちは、そんなことさせるかよ」

俺の肩を掴み真っ直ぐに見つめながら、スクトさんはそう言った。

「でも!」

それでも尚罪悪感から動こうとする俺。


「バカが!お前だって例外じゃねえ。みすみす命を捨てさせるような真似させるかよ!」

そんな俺の心を、スクトさんは見透かしていたようだ。俺はその場に座り込み、言う。


「じゃあ、どうするんですか」

「さっきも言ったろ……原因はそいつなんだろ。探し出して、ぶっ潰す。そんだけだ」

俺の肩を軽く叩くスクトさん。そんな彼の態度に、俺の心は少しだけ、軽くなった気がした。そんな時だった。


『マスター、敵本体を発見しました。』

マリスが俺たちへ語り掛けてきたのは。


「うぉびっくりした……喋んのかよそれ。どういう仕組みだ」

「見つけたって、どうやって」

『魔力パターンを解析し、逆探知しました。ナビも可能です』

「だが、この状況はほっとけねぇぞ。解決までに犠牲者が増え続けることになる」


『それなら大丈夫!』

悩む俺たちのもとに、また別の声が割って入った。それはスクトさんのつけたブレスレットから聞こえてくる。

この声には聞き覚えがあった。まさか――


「キュリオ、さん?」

『お、ケイちゃんもいるんだ。あの時以来だね』

「ケイちゃん?おいどういうことだ。あの時って何があった」

『ちょちょ、スクト!それは後!とにかくそこに二人いるなら好都合!協力して本体叩いちゃって!』

「チッ……わーったよ。で?この状況はどう解決するんだ」

『今その場の魔力パターンを解析して、疑似的に真逆のパターンを作ったんだ。それを打ち込めば効果を打ち消せるはずだよ』

「そんなこと出来るんですか?」

『なんたって僕、天才ですから。それじゃ送るから、スクトは指示通りに動いて』

「……了解」


『まず、キー出して腕輪に挿しこんで』

「こうだな」

そう言うと、スクトさんは何やら鍵のようなものを取り出し、腕輪に差し込んだ。


『挿したね?じゃあデータ送るからちょっと待ってて……よし!オッケー、《展開》して!』

「ああ。……《展開》!」

そう言うとスクトさんはキーを回し、腕輪の下部のボタンを叩いた。すると――


《Armed on……》


「……変わった」

その姿は、瞬く間に変化していた。まるで特撮番組のヒーローのようなその姿に、驚く俺。

それだけでは無い。俺はあの装甲が装着されるまでのシーケンスに、見覚えがあった。


「マリス、あれって……」

『はい。《生成》のシーケンスと酷似しています』

それを聞いて、合点がいった。あれを作ったのは、キュリオさんだろう。あの時データを取らせてくれと言っていたのは、このためだったのか。


「で?次は?」

そんな俺には目もくれず、話を続ける二人。

『んじゃ、右の太もも辺りの装甲に手かざして』

「こうか……おお、何か出た。銃、か?」


スクトさんが右手を太もも部の装甲へかざすと、その手元に銃のような物体が生成された。

ディテールの少ない、シンプルなハンドガンサイズの銃だ。

その後部には、翼を模したような何かを挿し込むためのスロットが設けられている。


『で、キーをそこに装填して!』

「よし」


《Loading……》


スクトさんがキーを挿し込むと、音声が流れる。そして――


『上に向けて撃って!』

「オゥラッ!」

スクトさんは、トリガーを引いた。


《Pecking blast……!》


音声とともに、エネルギー弾が空高く放たれる。それは空中で静止し、薄い膜となって広がってゆく――


「……あれ、俺は何を?」

するとたちまち、人々は正気に戻り始めた。


「すげぇ……」

『外部からのデータ供給による特殊効果の付与――ラーニング』

感心する俺をよそに、マリスがそう呟いた。


『オッケー、後は事後処理隊が向かうから、二人は本体を!』

「わかった。おい、行くぞ。案内しろ」

「はい!」


そう答え、俺たちは走り出した。

アイツだけは、絶対に許せない。そんな思いを胸にしながら――

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