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王冠を抱いた女性の彫刻は、この国の王をたたえるもの。


「……皇帝の名前、なんだっけ」


「アウリザヴェル・シルイーヴ・シダ」


絶対、覚えられない、と首を振る。


木製の白木の扉を開けて内部に踏み込むと、優雅な玄関ホール。


左右に窓のついた受付。


受付を通れば長い廊下が両側に伸び、正面に階段。


「ユーキは、左な」


示され、左側の受付を覗くと、年配の女性が出てきた。


「名前を」


「ユーキ・セリア」


女性は手元で何かを確かめうなずいて、鍵を手渡した。


「部屋は1階よ。私は女子寮の管理。門限は夜の九時です。食堂はその階段の奥にあるわ」


「はい」


陶器でできたような白い鍵を眺めると、レイは右側の通路に向かう。


「男子寮は右側だから。買い出し行くだろ? 30分後に」


「ん」


女子寮に、自分が住まねばならないという状況に、納得いかないものの──今は仕方ない。


いまのユーキは、女子なのだ。


鍵に記された118の部屋の、扉を開けて中に入る。


シティホテルのようなワンルーム。


オレンジ色の絨毯、細い玄関、コートかけと備え付けのタンス。


右側に、シングルサイズのベッド。シーツは白。掛け布団はモスグリーン。


左側に小さなキッチンとテーブル。奥は縦長の窓。


窓からは、緑の木立。


タンスの中を開けてみた。


空っぽだ。






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