第278話・女の子のおんぶ上でソフトクリーム食べる夏感
真夏の女の子は、ボクをおんぶして、目的地へと歩き始めてくれた。さっきまでのイヤイヤおんぶとは打って変わって、大股で颯爽と歩いくれている。女の子というのは、こういうふうに、自分の置かれた状況を、理不尽だ、と思いつつも、初動さえ
受け入れてしまえば、そういうもんなんだ、と継続してくれちゃうところがあり、
おんぶってのは、女の子のそういう面がもっともわかりやすく見えるものかも。
颯爽とカツカツと歩く夏女子のおんぶ上から訊いてみる。
「ボクをどこに連れてってくれるの?」
「この先のショッピングモールの2階ラウンジで友達と待ち合わせしてるのよ、11時待ち合わせなのに、もう過ぎてて遅れちゃう。あなたがおんぶなんて言うからよ」
「えーーっ、もともと遅刻のタイミングでしょ」
「うん、そうだけど・・」
「ボクのせいにしていいよ」
「あっ、そうしよ」
「ひとつお願いがあるんだけど・・」
「なによ」
「おんぶしてもらってる状態で、ソフトクリーム食べたい。ショッピングモール
手前のソフトクリーム屋で買って」
「なんなのよそれ」
「夏の女の子におんぶしてもらってる上でソフトクリーム食べてるって、夏の男
としては最高に幸せそうな絵でしょ」
「おんぶしてる私は楽しくないし」
「楽しくしてあげるから、ソフトクリーム屋寄って」
「うん」
女の子のおんぶ上からボクは「バニラー」と注文。
「お金は?」と女の子。
「奢ってよ」とボク。
「なんで、おんぶなんて重労働サービスさせられてる上に、ソフトクリームまで私が奢らなきゃなんないのよ、私に奢ってほしいわよ、逆なのよ、あなたは全てが」
と言いながらも、女の子は払ってくれた。過去にも何度かあったことだが、女の子におんぶで乗ってしまうと、乗られた女の子には、いま私の上に乗ってるこの男の人の世話をしてあげないと、という母性的な心が湧いてしまうのだろうか。
「ありがとう。夏の似合う女の子におんぶしてショッピングモールまで連れてきてもらって、ソフトクリーム買ってもらって、女の子のおんぶ上でソフトクリーム食べてるあいだに、女の子はボクをおんぶして2階ラウンジまで階段を登ってくれる、なんて夢のような夏の始まりなんだろ」
「えーーっ、おんぶで階段登れっていうの?」
「そのほうが、待たせてる友達に遅刻の理由おんぶだって説得しやすいじゃん」
「そうだけど・・、登れるかなぁ」と。
なんだかんだ言いつつも、階段を登り始めてくれる。ボクはおんぶ上で能天気に
ソフトクリーム食べてる。なんて幸せな構図なのだろう。
真夏の女の子は、最初の4~5段は、まあまあスムーズに登れたのだが、そこで一旦立ち止まってからが、6段目以降がかなり大変そうになり、動きがいきなりスローでぎこちなくなってきた。乗ってるボクとしては呑気にソフトクリーム食べてるしかない。階段の途中でおんぶから降りるのは、ひとつ間違えると2人とも転倒しそうでもあるので、ボクはできるかぎり揺らさないように女の子の上に乗ったまま、ソフトクリームを女の子の髪に垂らさないようにぺろぺろと食べていた。
それでもなんとか一歩一歩頑張って2階まで登ってくれれたことは、さすがボクが惚れ込んで信じて頼った真夏の女の子だ。ボクがソフトクリームを食べ終わらないうちに上り切ってくれたので、待ち合わせの女の子にも、ソフトクリーム男子をおんぶして来たんだよ、という姿を確認してもらえた。
「マユコどうしたのよ、男の人おんぶして」と駆け寄ってきた女性は、クロギャルという感じのファッションのこれまたステキな真夏の女の子ではないか。
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