第238話・歩く速度で女性に負けておんぶしてもらうった
夕方になりかけていたがまだ明るい。都区内の私鉄3駅分を線路沿いに近い道を
歩いて帰ることにした。たまには自分の足でも歩かないと、運動不足になっちゃう
もんね。運動目的なのでやや早歩きとした。地味な住宅街なので、大通りを渡る信号交差点もなく、ほぼノンストップで。
そんな感じで2駅目の駅前広場を歩いていると、駅から出てきた数人と同じ方向に混じり合うように歩く感じになった。その中の1人が、女性としてはなかなかの
ハイスピートで、しかもハイヒールでカツンカツンと軽快な靴音を響かせながら、ボクの5メートルほど前を行く。
紺色のスーツにスカート、身長は155以下ではないだろうか。つまりそれほど速く歩きそうな姿ではない女性。なのに、やや早歩きをしているはずの男のボクが、
じょじょに距離を離されていくではないか。スーツスカートでハイヒールの小柄女性に、歩く速度で負けてるの?ーという疑問とくやしさ・・
偶然にも、そのスーツスカート女性は、ボクの行く方向へと歩いてゆく、そして
ちょっとずつ距離が離れてゆく、なさけない・・敗北感。そんなことを感じながらも、ボク自身の歩行速度も女性につられて速度アップしてるのが、その女性にまどわされているようで、これまた敗北感。
しかも女性の歩き方は早歩きや小走りにありがちな前傾姿勢ではなく、胸を張って悠然と歩く、姿勢の良い女性の美しさでの歩きなのだ。カツッカツッという彼女の靴音が遠ざかってゆく、追いつけない自分、なんか寂しくなってきちゃった。
するとなぜか、女性は突然、スマホを見ながら立ち止ったではないか。。当然ながらボクは追いついてしまった。声かける心の準備はできていなかったが・・
「ハイヒールなのに歩くの速いですね」
「えっ???」
「どんどん距離が離れてくのを見て、男としてすごい敗北感なんで、つい声かけちゃいました、すみません」
「敗北感だなんて・・そんな。たしかに私、歩くの速いかもしれませんが、、」
「で、唐突なんですが、ちょっとしたお願いがあるんですけど」
「えっ、お願いが??」
「ボクをおんぶして歩いてみてほしくなっちゃったんです」
「男の人をおんぶなんてしたことありません」
「したことなくても、オッケーですよ」と言いながら、ボクは、小柄スーツ女性の背中に飛び乗ると、彼女は「えっ、ほんとに乗ってくるんですか」と言いながらも、おんぶ態勢になって、両手でボクの両足をホールドしてくれた。この「ホールドしてくれた」を、おんぶオーケーしてくれたと解釈する身勝手なボク。
小柄なのにスーツスカート女性は安定していて、姿勢も前傾にならずイイ感じなので、よい位置に乘れて、なかなか乗り心地のよいおんぶだ。足腰がしっかりしていて体幹もよい女の子なのだろう。さすが、ハイヒールであの美しい歩きをしていた、
ボクが見込んだ女性だ。
「さっきまでのように、カツカツって歩いてくださいよ」
「なんで私に、、こんなことを・・」
「貴女の素敵な歩きをうしろから敗北感をもって見つめていたら、この素敵な女性のおんぶに乗ってみたい、とボクの本能が・・。ごめんなさい」
歩き始めて彼女の背中の上で感じたシアワセ感のひとつとして、ボクを敗北感に導いたその女性自身が、ボクを優しく包み込んでくれてる感。ボクの目の前で揺れてる女性の黒髪にも、情けない敗北感に寂しさを感じていたボクの心を優しく癒してくれてる感を。
「もう降りてもらってもいいですか?」
「ヤダ、降りたくないよー。キミに離されまいと頑張って歩きすぎて、足疲れちゃってるから、このままおんぶで行きたい」
「私だって疲れてるんですからー。そもそも女の私がなんで男を・・」
そうは言うものの、女の子は腰を使ってボクの乗り位置をポンッと上げてくれた。疲れてるのにこの行動をしてくれる女の子の優しさにドキューンとハートを射抜かれてしまい、ボクはもう「でれでれのへろへろで足腰の力抜けちゃって歩けなーーい」
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