第236話・歩道で出会ったカッコイイ颯爽女性のおんぶ

 地下鉄駅への降り口があるやや広めの歩道。ボクはその歩道の中央部にある車止めポールに座って、地下鉄駅へ向かう人々の流れを眺めていた。すると駅から出てきたカッコイイ女性の颯爽と歩く姿に、目が止まってしまった。今年の冬の流行なのか

白いコート。その白いコートのポケットに両手を突っ込んでキリリッとした姿勢で歩く彼女の姿に「カッコイイ・・・」と。

 ボクは、突然のこんなカッコイイ歩き方の女性の出現に驚いて、動きが止まってしまったので、ただただ啞然として彼女を眺めてたもんだから、目が合ってしまった。キリリッとした姿勢で歩く女性は、自分の美貌に唖然としてアホヅラこいて見つめている冴えない男が一匹ころがってるな的な認識をしたに違いない。

 女性のそんなオーラに圧倒されて、目の前をカツカツッと通過してゆく彼女に声もかけれずにチャンスを逃してしまった。しかしチャンスを逃した後、ボクは彼女の後ろ姿を、どんどん遠ざかってゆく姿を目で追っているうちに我慢できなくなり、ボクは走り出した。カッコイイ女性を追ってしまった。

「あのー、すみません」

「えっハイ、なにか?」

「あまりにもカッコイイ女性なんで、追ってきちゃいました、すみません」

「あら、ありがとう。ナンパですか?」

「ナンパといえばナンパなんですが、5分くらいで済むお願いが・・」

「なんですか?」

「おんぶしてほしいんです」

「おんぶ?? わたしが?? なにそれ」

「貴女があまりにもカッコイイ女性なんで、こんなカッコイイ女性におんぶしてもらって、カツカツッて颯爽と歩いてもらえたら素敵だろうな、って妄想しちゃって」

「素敵だろうなって妄想? 女の私に男のあなたをおんぶしろって?? どういう感覚してんのよ」

 おんぶしてあげるよ的な反応ではないが、女性がボクの申し出を無視して歩き去りはせず、会話をしてくれてることから、ボクは、乘ってしまえばこの女性はおんぶしてくれそう、と判断。ボクは、女性の背中側にまわりこんで

「じゃあとりあえず乗りますよ」と言うと同時に、女性の背中に飛び乗る。感触として身長は165くらいだろうか。ヒールの高さは5センチくらいだ。今までにいろんな女性のおんぶに乘ってきてるボクは、おんぶ飛び乗りの感触で、女性のだいたいの身長を当てられるという特技が・・

「身長165?」と訊くと

「ちょっとー、おんぶするなんて言ってないよー。だけど身長当てられたのはびっくり、よくわかったわね」

「女性におんぶ乗りしたときの感触で、だいたい当てられるかも」

「そんなにたくさんの女性におんぶしてもらってきてるの?」

「うん、気に入った女性にはできるかぎり乗ってきてるよ」

「乗ってきてるよって・・女性を乗り物みたいにしたこの言い方なんなのよ」

「言い方失礼でゴメン。でも、女性のおんぶに乗るの大好きおんぶフェチのボクにとっては、貴女のようなカッコイイ女性に乗れること、最高級の車に乗れることよりも幸せなんで、このまんまちょっとでいいんで歩いてほしいん」

 女性はカツカツッと歩き始めてくれた。やはり、ナイスな女性ってのは、乘ってしまえば、文句を言っていても、・・・乘ってしまえば歩いてくれる、というボクの長年の経験からの勘が当たって、嬉しすぎる。その「勘が当たってる」という嬉しさを噛みしめるように、女性の歩く一歩一歩の振動をボクは全身で堪能。この幸せの振動を体感することをムダになんかしないぞ、と。

 この振動は、おんぶしてくれてる女性が、ボクに悦楽の快感をプレゼントしてくれるために、70キロの重い荷物を運んでくれるという苛酷な労働をしてくれてる、

その献身の表れ、上に乘ってるボクに、気持ちいい体感としてボクに・・。

 やはりボクをおんぶしての歩き方は、さすがのカッコイイ女性でも歩調に軽やかさがなくなってきていたので、ボクは上から脳天気に言ってみた。

「ボクが乗る前みたいに、カッコ良く颯爽と歩いてみて・・」

「まったく、こんな重いのおんぶさせといて、よくそういう注文できるわ」と不満を言いながらも、歩幅を大きくする歩きに修正しようとしてる努力を、上に乘ってる

ボクにも感じさせる歩き方に。カッコイイ女性がボクのワガママをこんなふうに即座に受け入れてくれてる感がたまらない。

「うんそうそう、いい感じになってきたよ」

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