第212話・婚活中の女性官僚のおんぶに乗りたくなった

 仕事先での友人男性が紹介してくれた女性官僚さんは、インテリ風でなかなかの美女だが、彼女自身はエリート官僚といえるコースには乗れていない。しかしその官僚さんマキコにはエリート願望が強かったため、有望な男性官僚との結婚をかなり真剣に模索しているという。

 その手法のひとつとして、家庭持ちの上司との不倫交際をしている。そしてこの

上司から、有望な若手独身男性を紹介してもらおうとしていて、その若手官僚と結ばれたら、上司との不倫も静かに終了という作戦だと。彼女のこの淡々とした婚活作戦の話を聞いて、ボクは、こんなふうに自分の実益を軸に男女関係を捉えようとしている女性に、この俺様をおんぶさせたい、と萌えてしまった。

 こういう女に、自分にとってなんの得にもならない、「好きでもない冴えない男をおんぶ」という重労働をさせてみたい。紹介者友人は、ボクがおんぶフェチであることを熟知しているので、目線で合図しておく。

 最初の約1時間半の会食を終えて別の店へ行こうかというムードになったところでボクは言いだしてみた。

「マキコさん、素敵なスタイルですね。後ろ姿でもこの色っぽさ。素晴らしい、こんな女性と不倫できるって、高級官僚っていいなあ」

「そんな褒め方されるって嬉しいわ」

「後ろ姿も魅力的な女性ってホンモノなんですよ、っていうのがボクの持論で」

「そうなんですか?」

「顔とか前側はだれでも気にするけど、後ろ姿には、その女性の本質のラインが出てて、よほどの人でないと繕えないんで、ホンモノの姿が見えやすい、特に体のラインに、マキコさんの後ろ姿は男を狂わせる魔物の魅力です」

「そんな・・ですか?」

「ボクはもう狂わされちゃってます。だから乗っかりますね」

「えっ? 乗っかりますってなんですか?」

「おんぶです」

「えっ? 私があなたを?」

「そうです」と言うと同時にボクは、官僚マキコの背中に飛び乗る。マキコの身長は165くらいだろうか。肩にかかるかからないぎりぎりの長さのショートヘアが栗色のところが、お洒落インテリ官僚っぽくていい。

 そしてクールでキツい女史っぽさの濃いめグレーのスーツ、そのスーツの上にボクの全体重がドスンと乗って、黒いハイヒールに美脚のマキコの足が2~3歩トントンって揺らいだ感じが、フリーランスの冴えないボクという男が、エリート指向の女性官僚さんに乗ってるぜ、という優越感。

「男の人を女におんぶさせるって、どういうことですか? 重いですから降りてください。ハイヒールなんで足が痛いし、、」

「素敵な女性のおんぶに乗るのって、気持ちいいんですよ。だから、しばらくおんぶしててもらいたいんで、このあと行く次の店まで、おんぶしてくださいよ」

「男をおんぶして運ぶなんて、冗談じゃないわよ、もう降りて」とボクは降ろされてしまった。

 しかしボクの今までの経験から、嫌がっていても、1度でもおんぶしてくれた女性には、ほぼ確実に2度目はある、なのだ。そして、2度目はできるかぎりすぐに乗ってしまったほうがいい。女性にとっては、まだ1度目のおんぶの疲労感が残ってるうちに、2度目を乗ってしまうのがいい。

 というわけで

「マキコさん、もう1回乗るよ」と言いながら、マキコの両肩に手を乗せると

「えっ、ちょっと待ってよ・・私おんぶなんかしないわよ」と言いながらも、乗られる覚悟の体勢で身構えてくれたので、ボクは安心して飛び乗って全体重を預ける。

マキコは、イヤだと言いつつも、両手でボクの両足をホールドしてくれた。この、

両足を持ってくれる行為は、イヤと言いつつも「おんぶしてくれる気持ちあり」だというのが、ボクのこれまでの「女の子におんぶ」経験からの判断。よし、ちょっと

上から目線の命令口調で、マキコを歩かせてみるかな。エリート女性官僚に命令なんて、考えただけでも萌えるなぁ。

「最初のおんぶより、2度目の今のこのおんぶの方が、乗り心地のいい、ナイスな

おんぶになってるよ、マキコ。さすが優秀な官僚なだけあって、体得が速い。では、そのままの方向でいいんで歩いてみて」

 優秀な官僚は、命令口調のほうが、スンナリと従いやすいのか、マキコはボクをおんぶして歩き始めてくれた。165センチのマキコのおんぶ上からの目線は爽快だ。

ハイヒールなので、それほどスタスタとは歩いてくれないが、ちょっとタドタドしい歩き方が、これまた、かわいい。

「次の交差点の横断歩道渡って。その先にあるデニーズへ行こう」

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