第208話・女性のおんぶは乗れば乗るほど気持ちよくなる

 ボクは最後の20分をおんぶしてもらいたい女の子を選んだ。

「キヨカちゃんのおんぶで行きたい」

「ええっ、私はもうへろへろでムリです。なんで私ばっかりなの?」

「キヨカのおんぶに長いこと乗せてもらってたから、もうボクの身体は、キヨカちゃんを求めるようになっちゃってて」

「えーーー、そんなー、ひどいよ。おんぶ重くてツラいんですよ。男の人をおんぶなんて、女の子にとっては・・・・もう泣きたい・・」

 ボクが感じちゃったのは、キヨカのおんぶでだったんだよ。キヨカの気持ちいい

おんぶで感じた、その余韻をもったまま他の女の子に乗るなんて、できないよ。

ボクの身体も神経も脳も、キヨカのおんぶに惚れ惚れして力が抜けちゃってるわけで、最後までキヨカに面倒見てもらいたい。

「じゃあ乗るよ」

「・・・・、・・はい」

 ボクは、飛び乗ると、キヨカの身体には、さっきまで乗っていたぬくもりそのままというか安堵感のような乗り慣れた心地よさを感じた。女の子のおんぶとは不思議なもので、同じ女の子に何度も何度も乗れば乗るほど、乗り心地がよくなるというか、フィット感なのか安定なのか、または心と心の通じ合いなのか・・。何度も乗るうちに、女の子は当然、疲れがたまってくるのだが、乗せてもらってるボクの感覚としては、乗れば乗るほど、いいおんぶになってゆくのだ。

 キヨカはボクが乗って安定したのを確認すると、黙って歩きだしてくれている。こういうところも、もういちいち命令する必要なんかない仲に。ボクとキヨカのおんぶカップルの周囲を囲むように3人の女の子がボクたちの荷物を持って歩いてくれてる光景も、男心をくすぐる。

 それにしても、先々週には自分がおんぶしてもらって下山してたワガママ女のキヨカが、よくぞボクをおんぶして、もうトータルで15分以上は歩いてくれてるし、走ってもくれた。今回ボクが乗ってる女の子は、本来なら自分が乗って楽したいがわの女の子。そういう、お姫様気質の女の子にも自負分は乗せてもらえてるんだなぁと思うと、ますますこのキヨカちゃんおんぶが極上のものに感じれてきた。

 しかし「もうダメ」と突然、キヨカはボクをおんぶしたまま崩れてしまい、地面にヒザを着いてしまった。「気持ちよく感じてるとこだったのに」と言いたかったが、それをクチにするのはやめた。キヨカが、大切なボクのおんぶガールのキヨカが、おヒザを怪我してしまったかもしれないと思うと、申し訳なくって・・

 しかし、ヒザは怪我してなかった、ホッと安心。でももう、これ以上キヨカのおんぶに乗るわけにはいかない。

「チヒロ、乗るよ」

「えっ、重いの疲れるからヤダよー」

「これ以上、キヨカに乗るわけにいかないよ。だからチヒロ」

「まったくもうクロさんには、自分の足で歩くという当たり前の発想がないの?」

「キヨカのおんぶで感じちゃってるから、足腰に力入らなくて歩くのツラいんだよ。こんな恥ずかしいこと他の女の子たちに悟られたくないから、チヒロさっさとおんぶしてくれよ」

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