第204話・女の子のおんぶでうたた寝しちゃった

 女の子はボクをおんぶして、エスカレーターの乗り口まで来てくれた。

「はい、おんぶ終わり、降りてくださいな」

「エスカレーターの上で降りるよ。エスカレーターに乗ってるときは歩かなくていいんだから、ボクをおんぶしたまんまでも大丈夫でしょ? せっかくだから、お願い」

「まったくもう、せっかくだから、せっかくだらって・・」

 そうは言いながらも、女の子はボクをおんぶしたままエスカレターに乗り込むところまで歩いてくれた。

「エスカレーターに乗ってしまえば、ただ立ってるだけだから、ボクをおんぶしてても楽でしょ?」

「楽なワケないでしょ。こんな重いのに乗られてるだけでも、女の子は大変なのを

全然わかってくれてないの?」

「あっごめんごめん。こうしておんぶしてもらってると、楽ちんで気持ちいいから、下で支えてくれてる女の子が実は大変な重労働してくれているんだってこと、

ついつい忘れちゃってて、ごめんなさい」

 おんぶしてもらう、というのは妙なもので、ホントに、上に乗ってるボクには、おんぶしてくれてる女の子の大変な苦労が実感としてなかなか伝わってこない。だけど、ちょっと考えてみれば簡単にわかること、70キロの荷物を担いでただそこに立っているだけでも、それは大変なこと。しかも華奢な女の子が、それをやらされてる。にもかかわらず、女の子の上に乗ってるボクには伝わってこない。

 女の子の苦労が伝わってこないからこそ、70キロの男は能天気に「気持ちいい」「楽ちん楽ちん」「乗り心地最高」「悦楽ぅぅぅ」なんてほざきながら「もっと歩いてよー、気持ちいいんだから」なんて言ってられる。

 そんなことを考えながら、エスカレーター上に立つ女の子のおんぶに乗っていると、エスカレーターの動きが妙にゆっくりとかんじられてきた。1秒でも長くこの気持ちいいおんぶに乗っていたいという夢心地が、そう感じさせてるのだろうか。だが一方で、70キロに乗られて立ち尽くしている彼女は、エスカレーターもっと速く動いてくれ、と思っているのだろうか。

 そんなこんなな空想にうっとりしていると、彼女がコツンコツンと歩く靴音と振動で、ボクは我に返った。改札階について彼女が歩き出したのだ。エスカレーター上の短い時間に、ボクは女の子のおんぶ上で睡魔に落ちていたのだろうか。眠らせてくれるなんて、素敵なおんぶをありがとう。寝ちゃってたとしたら、重く感じただろうね、ごめんなさい。でもたぶん数秒間のできごと、許してね。

 そんな感謝の念を抱きながら、改札口を入ってゆく女の子にお別れのバイバイをした。ホンネではバイバイしたくなかったが・・・・しかたない。


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