第11話・インテリ女子のプライドおんぶ

 英国勤務経験ありで、国際政治経済に堪能なインテリ女性のユキエは、身長150以下と小柄だが、キリッとした表情で「男性になんか負けないわよ」オーラびんびんだった。そんなユキエさんと縁あってお酒を飲みに行く機会に恵まれた。

 ユキエさんはお酒もそこそこ強いというので、ボクは弱いふりをして、飲み屋を出てるころには、ふらふらの振り。「ユキエさんは綺麗なだけでなく、強くて素晴らしい・・・」と褒めると、「クロさん(僕のこと)大丈夫?」と。すぐにでも「おんぶして」といきたいところだが、小柄なユキエではさすがにダメかもとおもい、とりあえずそれは控えた。

 そしてしばらく歩いたところで前方にファミレスが見えてきたので、コレだ、

とボクは勝負に出ることにした。

「ボク酔っちゃったので、あのジョナサンでひと休みしたい」

ユキエは「はい、そうしましょう」。

 ジョナサンはちょっと小高い丘にあり、手前から道路が上り坂になっていた。ここでボクは、酔って歩を進められないフリをし、心配するユキエに「ジョナサンの入り口まで、おんぶして」と恥ずかしそうにささやいてみた。

「えっ、男の人をおんぶなんて、ムリよ」

「男まさりのユキエだから、恥をしのんで、こんなこと頼んでんだよ」

「わかったわよ。できなかったらムリなものはムリだからね」

 ユキエは、ボクのほう背中を向けてしゃごんでくれたが、さすがに、その姿勢から立ち上がるのはムリだろう、ということで、ボクが歩道上ガードレールに座り、ユキエには車道側で、おんぶの体勢をとってもらい、そーっとユキエの背中に乗った。中腰だったユキエはボクを背負って立ち上がれた。

「ああ、よかったぁ、ユキエさんおんぶできて。これならボク、楽だよ。もっと最初から、おんぶしてもらえばよかった」

 ユキエは歩き始めてくれたのだが上り坂ということもあり

「私はこれツラいよ。重いよ。私ハイヒールだから足痛いし。やっぱりムリ。レディーにこんなことさせるなんて・・」

「ジョナサンすぐそこなんだから、ムリなんて言わないで、頑張って、おんぶしてよ。ユキエさんのおんぶ、楽なんで、このままずっと乗っていたい」

「ひどいよ、私レディーなのよ、なんでこんな労働させられなきゃなんないの」

 そうは言いながらもユキエはカツカツと歩いて道路を渡る交差点まで行ってくれた。ビシッとスーツで正装してるレディーにおんぶしてもらったのは初めて。ユキエは小柄なので、ユキエの両肩に乗せたボクの両腕はヒジを伸ばした状態なるため、背中からユキエを抱き込む形にはなれないが、小柄なスーツ・レディーが頑張ってくれてる視覚感性にはびんびんきた。

「ハイヒールなのに、ごめんね」と言うと「そう思うなら降りなさいよ」とかなりキツく言われてしまったので、「はい」と言って降りた。ジョナサンまでは素直に歩いて席についた。

 ボクは、ユキエに真実をすべて告白した。ユキエにおんぶしてほしかったから、酔ってふらふらのフリしたことを。どうしても、国際派インテリレディーに乗って歩かせたかったこと。自分が、女の子のおんぶに感じる性癖の持ち主であることを。

「国際派インテリレディーのおんぶ、すごく乗り心地良かったよ、惚れなおしちゃったよ」と伝えると、ユキエは「なんか褒められてる気しない、冒涜されてる感じ。でもそれって私が、女というジェンダー意識してるからなのかしら。国際派インテリレディーなんかじゃないわね。なんか自分、できる女としてのプライド、一気に崩された感じで、すごく悲しい、、、、」

「また、おんぶしてくれる?」

「絶対しない、ハイヒールの女性に乗るなんて最低の男よ」

「うわー、ごもっともで、ごめんなさい、」

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