第24話 一人じゃない

 二日目の朝。

 ボトルの形の不揃いを『加工』で直しつつ、それを労働者の人達に渡す。

 それから洗浄済みのボトルにポーションを入れてもらって、最後の工程は箱詰めと荷台への運搬作業だ。役割分担すれば明日中には終わる。

 店から廃棄予定だった草色ハーブを貰えたし、冒険者の人達からも納品してもらえた。魔法水も集まったし、これで素材の不足はないはず。

 唯一の不足があるとすれば――


「眠い……」


 結局、今日の準備のために深夜まで起きてた。ほとんど寝てなくてつらい。

 しかも私の仕事はボトルの加工だけじゃない。そのうちポーションの液もなくなるから、そっちも追加で作らないと。


「おっと! うっかりこぼしちまった!」

「こちらのボトルを使って下さい。次からは気をつけて下さいね」


 共同作業だからこういう事も起こる。こんな時にイライラして怒っても事態は悪化するだけだ。

 淡々と注意して素早く作業に戻ってもらう。


「今の量だと一時間以内で尽きるから、このボトルをあと三十本ほど加工してから仕込み始めないと……」

「レイリィちゃん! すまん! ボトルを割っちまった!」

「はい、あとで直します。本当に気をつけて下さいね」


 『修繕』で割れたボトルを直すべきなんだけど、直し作業は終わった後でやったほうがいい。

 こんな感じで次々と予定が狂うから気が抜けない。


「はい。ここで十五分の休憩を挟みます」


 皆には適度に休憩してもらうけど、私はほぼ休みなしだ。まだ午前中でアクシデントはあるけど、思ったよりペースは悪くない。

 むしろ初めての作業なのに上出来なくらいだった。

 ポーションの追加分を作っていると、誰かが後ろから覗き込んでくる。


「ルルアちゃん?」

「あ、ごめん! あの、お屋敷で休暇をもらって……」

「いやいや、謝らなくてもいいよ。それよりお休みなのにいいの?」

「その……ちょっと興味があってぇ」


 いつの間にか来ていたルルアちゃんが気まずそうにモジモジしている。


「このお仕事に?」

「なんだか、かっこいいなぁって思う。錬金術師ってすごく難しいんだよね?」

「そりゃね。なりたくてもなれずに別の道を選んだ人なんか大勢いるもの。仮に免許を取っても食べていける人達となると、更に減るね」

「そうなんだ……。レイリィちゃんはどのくらいで免許を取ったの?」


 ちゃん付け。それより、この話題はまずい。


「あ! そろそろ休憩も終わる! ポーションの仕込みを終えないと!」

「邪魔してごめん! そうだ! 私もお手伝いする!」

「ありがたいけど、せっかくの休暇じゃ?」

「ぜひやらせてくださいっ!」


 熱意があるなら断れない。新たにルルアちゃんがビン詰めに加わった事で作業効率が上がった。

 丁寧かつ手早い。大人達がペース負けるほどだ。そんな中でルルアちゃんが皆にコツを教え始める。


「これはね、こっちの手で持ったほうがいいよ」

「そうか! 俺は左利きだからなぁ!」

「そそぐ時はそーっとね……」

「そーっと! そーっとか!」


 作業の合間で微笑ましく見守っていたけど、思った以上の効果だ。なんと液体をこぼすロスが大幅に減った。

 ボトルを割ったりなんかのトラブルもほとんどなくなる。おかげで午後になって、歩留まりが上がりつつあった。

 昼食はルルアちゃんにも手伝ってもらって、大鍋のシチューだ。


「味には自信ありませんが、栄養だけはあるはずです」

「こ、こんなうまいもの初めて食べた!」

「俺も!」


 おかわりの嵐で大鍋がものすごい勢いでなくなりつつある。考えてみたら、この人達は明日の食事も危うい生活をしているんだ。

 そう考えると、もう少し用意するべきだったかもしれない。


「ご満足いただけましたか」

「大満足どころじゃないぞ! こんなメシが食えるなら毎日、働きたいくらいだ!」

「アハハ、そうもいかないのも難しいところです」

「だよなぁ」


 モチベーションと体力が回復したところで、午後からもうひと踏ん張りだ。ビンの加工とポーション作りに手をつけようとした時、眠気が襲ってくる。

 ダメだ、まだ眠るわけにはいかない。

 

「はい! 追加のポーションです! このペースならなんと、今日の夜には終わりそうです!」

「おぉー!」

「皆さんの頑張りのおかげです。ですから、気を抜かずに最後までお願いします」

「レイリィちゃんだってきついもんな。頑張るよ」

「え、そんな事は」

「顔に書いてある。俺達が頑張れば、早く休めるだろうからさ。それまで辛抱してくれよ」


 本来は私が励ます立場なのに、逆に気を使われてしまった。しかも頭まで撫でらるとは。

 お父さんくらいの年のおじさん達も多いし、私なんか娘みたいなものかもしれない。


「す、すみません……。まだまだ未熟ですね」

「いいんだ。本来であれば俺達、大人がしっかりしなきゃいけないんだからな。こんな時くらいは遠慮なく頼ってくれ」

「はい……!」


 眠い目をこすり、頬を両手で叩く。心機一転、最後の追い込みを始めた。

 徹夜でお仕事なんて、錬金術師なら当たり前だ。皆には悪いけど、こんなのでへこたれているようじゃまだまだ。

 私は錬金術師レイリィ。ギルドが見放しても私は私を見放さない。

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