第23話 負けるもんか

 皆がビンの洗浄をしている間、こっちでポーションを作ろう。

 ポーションの基本材料は空色ハーブとヒリング草だ。たったこれだけなのに、それなりに手間がかかる。

 これよりも質が高くて、尚且つコストカットとなると――


「草色ハーブと魔力水だね。うん」


 草色ハーブは主に軽い毒消しなんかに使われるけど、『加工』と『変換』で人体にいい影響を与えるものに出来る。

 魔力水はピンからキリで高額になると一口分の量で万単位だ。もちろん私が使うのは一番安い魔力水だから、大幅に節約できる。


「草色ハーブを煮詰めてから、毒に効く成分を『抽出』!」


 更に分離した成分を『変換』する。毒消し成分の『変換』なんて、特効薬に比べたら楽だ。


素材:新陳代謝促進剤

効果:新陳代謝を上げて怪我の治療を促す。


「でも、これだけじゃ実は効果が薄い。そこで……」


 魔力水を『変換』だ。特効薬の時に、治癒魔術向けの魔力に変えた経験があるおかげで捗る。

 安い魔力水の少ない魔力に役割を与えてやればいい。


「魔力水……『変換』!」


素材:治癒の魔力水

効果:配合された素材の効果を上昇させる。


 促進剤の効果を変換した魔力水によって上げている。試しに飲んでみると昨日、角にぶつけた小指の痛さが引いた。

 効果がすぐ出るし、あとは調整して少しの怪我くらいなら治せるようにしよう。


「これを大きな容器に入れて保存しておいて、あの人達に入れてもらおう。でもまだまだ足りないなー……」


 ここら辺で気合いを入れて、全体の半分ほど仕込んでおこう。何せ時間がない。そして素材もない。


「……まずい。店中の素材を買い占めちゃうかも。仕方ない、あの手でいきましょう!」


 あの手、この手を考えた。モタモタしていると日が落ちるし、素材が手に入るのは最短で明日だ。

 私が動いている間に、貧民街の人達に出来る作業を進めてもらおう。


                * * *


  一日目は空き瓶の洗浄とポーションの瓶詰の四分の一が終わった。ペースとしては少し遅れているけど、まだ許容範囲だ。

 アトリエの前で作業していた貧民街の人達に日当を渡していく。


「ありがてぇ、ありがてぇ……。これでしばらくは飢えなくてすむ」

「皆さん、頑張ってくれましたから少し色をつけてます」

「色ついとるぅぅぅ!」


 日当を確認した人が仰天して、声が夜空に届かんばかりだ。


「こ、こんな割のいい仕事があっていいのか?!」

「ジャンク品漁りなんて、ほとんど金にならねぇのにな!」

「よーし! 明日もバリバリ働くぞ! 子ども達にうまいもの食わせてやれるからな!」


 貧乏でも心は貧しくない。食事さえとお金あれば、こんなに元気な人達だ。

 私が意欲を持って錬金術師を目指したように、環境に阻まれてやりたい事をやれないというのは不憫だと思う。

 とはいえ、人助けが目的じゃない。


「昼間に出しておいた草色のハーブと魔法水調達の依頼はどうなってるかな?」


 頼みの綱の一つは冒険者だ。あの人達は日頃から危険な場所に立ち入って、素材を獲得している。

 ついでに草色のハーブと魔法水を調達してきてもらおうという魂胆だった。


「もう一つは店巡り!」


 いろいろな店で廃棄になった草色のハーブを無料で貰う。売れ残ってしなびたロスを私が再利用する。

 もちろん新鮮なものと違って、成分量は下がるというデメリットがあった。

 でも『抽出』で成分さえ少しでも取り出せればいいから、数を集めれば何とかなる。


「今夜中に出来るだけ、店を巡って朝一に冒険者ギルドに確認しに行こう」


 この分だと睡眠時間がだいぶ削られるかもしれない。あと二日の辛抱だ。二日間、頑張って達成してこの無茶な依頼の本質を暴いてやりたい。

 大体、想像がつくからこそやる気が出る。


「無茶な依頼を達成してこそ、私の立場が固まるんだ。結果を出して認めさせてやる」


 免許を剥奪されて追放された日の事は一日たりとも忘れた事はなかった。

 あそこで認められなかったなら、今度は今の場所でリベンジだ。私は錬金術師レイリィ、腕一つで生き抜いてやる。


「疲れて今すぐにでも寝たいけど、もうひとっ走り!」


 錬金術師だって体が資本。とはいえ、体力作りは積極的にやってなかった。脇腹が、痛い。

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