第18話 魔禍病の特効薬を作ろう 2
治療院の院長シャニルさんのおかげで、魔力の調整に着手できた。
だからこれじゃ強すぎるんだ。つまりルルアのお母さんように調整するわけだけど、これがまた難題だった。
「お湯が熱すぎたら水で薄めるよねぇ……」
などと、お風呂のお湯を薄めながら呟く。温度ですら人によって感じ方が違う。
魔力をどうこうしようというんだから途方もない話だ。
「浸かりすぎた……うぅ……」
お湯に浸かりながら、考え事をしていたらのぼせた。今日の研究はここまでか。
* * *
食事や風呂以外は研究に打ち込む。一度も外に出ない日が続く事もあった。ドアのノック音にしばらく気づかないほどだ。
「子猫に食事を与えに来た」
「アルベール王子、猫は飼ってません。嫌いじゃないですけど、アトリエを荒らされる可能性がありますからね」
「その子猫は錬金術の素材も好物だ。ほら」
「わぁ! ありがとうございます!」
ランチボックスと頼んでおいた素材がアトリエに届く。王子がアトリエ内を見渡しているのを見て、改めて片付いてない室内が気になっちゃった。
「熱心だな。報酬額に見合わないと思うけど?」
「やってみたら面白くて……。それに好物のおかげで捗ります」
「フン、ちゃっかりしてるね」
ランチボックスにはメンチカツサンドイッチが入っていた。ソースがはみ出ていておいしそう。
「これは王子が作ったんですか?」
「当然だ。まさか甘ちゃん王子だから料理の一つも出来ないと思ったか?」
「いえ、そこまで言ってませんけど」
「食べてみろ」
一口、ぱくりといただくと思ったより濃厚な味わいが口いっぱいに広がった。
肉の旨味が損なわれず、風味がきちんと感じられる。それになんといってもこのソースだ。
「このソース、普通じゃないですね。私、こういうのって味が濃すぎて苦手だったんです。でも、これは無理なく食べられます」
「通常のソースの荒々しさを抑えているからな。もはや至高の技といっていい」
「自分でそこまで言いますか。これは普通のソースの上位互換です。なんといっていいか……味はしっかりしてるのにしつこくないというか」
「君は錬金術師なのに料理には疎いんだな」
食べられて栄養があればいいと思ってるから、そこまで味漬けには拘ってない。
そんな私を王子がジッと見つめてきた。なんか恥ずかしい。
「ホントおいしいですね。割と濃い味付けなのに……」
「しつこくなる濃さを鎮めている。でも、だからといって味が薄くなってまずいわけじゃない。むしろおいしくなってるだろう?」
「確かに……」
「君の言葉を借りれば、下位互換でも何でもないんだ。作り方、素材一つで味を劣化させずに昇華させる事だって出来る」
「劣化させずに昇華……」
頭の中でバラバラだったピースが集まり始める。一つずつ、きっちりとはまり始めると思考が止まらなくなった。
急いでサンドイッチにかぶりついて飲み込んだ。
「アルベール王子! サンドイッチおいしかったです! ごちそうさま!」
「その割には早かったね」
「あなたのおかげで突破口が見えたかもしれません! そこで素材の依頼をしたいのです!」
「限界はあるぞ。とにかく言ってみろ」
必要素材は高級じゃないけど、この辺じゃ手に入らないものも多い。一通り、言い終えると王子が怪訝な顔をする。
「一見、薬とは関係がなさそうなものばかりだ。本当にそれらでいいのか?」
「はい。お願いできますか?」
「もしこれで魔禍病が完治できれば医療現場にも衝撃が走る。やってみないわけないだろう」
「お願いします!」
「やれやれ、もっとゆっくりと食事をしたかったんだけどな」
申し訳ないけど、居ても立ってもいられなかった。王子がアトリエから出ていった後、デスクに向かう。
頭の中の情報をすべて書き出してみた。いくつもパターンを思い描いてみて、一つずつ吟味していく。
* * *
気がつけば深夜に差し掛かっていた。夕食も忘れて没頭したところ、ようやく一つのパターンに絞り込める。
今のところ、これしかないという確信があった。これでダメなら一から出直しだ。それどころか、今の私には無理かもしれない。
何せ先人達が長年、研究をしても答えを出せなかった難問だ。
――レイリィ! いい錬金術師ほど常識を無視するんだ!
「お金がなくて私を学校に行かせなかったんじゃなくて、あえて行かせなかったの?」
ほとんど無償で仕事をしてるから、お金なんてあまりなかった。
今の私がいい錬金術師かわからないけど、お父さんのこの言葉のおかげで辿りついたようなものだ。
富や名誉なんてどうでもいい。一人の錬金術師として、いい仕事がしたいだけ。お願いだから正解であってほしい。
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