第11話 釈放、そして新生活の始まり
早朝、裏口から釈放されて久しぶりに外の空気をたくさん吸った。
アルベール王子が見送りをしてくれて、手短に今後の話をしてくれる。
「君は無免許だから宮廷錬金術師として招待できない。それでなくとも、一級かつ本部からの推薦状が必須条件だからな」
「はい。私がアルベール王子に捕まったところにアトリエを建てる予定です」
「一人で建てられるのか?」
「大丈夫です。自分で建てたアトリエじゃないと落ち着けないと言ってる錬金術師も多いですし、自作は当たり前です」
「そうか。それなら心配ないな」
そう言いながらも、なんだかそわそわしてる。また追いかけてこないといいけど。
「近いうちに仕事の依頼をするかもしれない」
「何なら今でもいいんですよ?」
「いや、まだ様子を見たくてな」
「手遅れにならないといいですけど……」
「とにかく君は環境を整えろ。無免許だとバレると面倒だから極力、隠せ。いいな?」
「はい。ところで一つ、提案があるのですが……」
「なんだ?」
少し図々しいかと思ったけど、これは私の問題だ。思い切って言ってみよう。
「報酬ですが、これは私の提示する額を優先していただきたいのです」
「いいだろう」
「いいんですか?」
「さすがに限度はあるけどな。君にそれだけの価値があると判断すれば、の話でもある」
「ではまとまりましたね」
裏口からコソコソと離れて振り向くと、まだ王子が立っていた。少し難しい顔をしてる。
そして顔を逸らしたところで、私も離れた。
* * *
朝日が昇った王都は相変わらず賑やかだ。ゆっくりと観光したいけど、そんな余裕はない。
予め調べておいた店で炎魔石と水魔石、アトリエ建築に必要な資材を買って退散する事にした。
錬金術師たるもの、それくらい生み出せなくてどうするとお父さんに怒られそうだけど仕方ない。何せまず住むところがない状態なんだから。
「さて、無事に買い物も出来たし後は……」
「てめぇ! ふざけてんのか!」
商店街の通りで、前から怒声が聴こえる。野次馬根性で見に行くと、店の前で男の人同士でケンカしていた。
「お前のところの目覚まし魔導具なぁ! 音がでかすぎだろ! 部屋を筒抜けて近所にまで響いたぞ!」
「そりゃいい! 近所さんも助かっただろ! ガハハッ!」
「金を返せ! こんなもの使えるか!」
私以外の野次馬もそれなりに多い。ガガハと笑う体格がいい男の人は錬金術師かな。もう一人は客だ。
「返品? そりゃ無理な相談だな」
「はぁ!?」
「お前は納得して金を出した。つまりそれはもうお前のものだ。それをまた返すと言われても、俺はいらない! ガハハハハッ!」
「こいつっ!」
「おっと」
殴りかかった客の拳を、ガハハ男が簡単に受け止める。体格差もあって、お客さんに勝ち目はないと思う。
「なんだぁ? やるってのかぁ? なぁ?」
「うぎぎ……!」
「あの爆裂目覚ましは、爆裂魔法を放ったかのような轟音が響く魔導具で俺の拘りだ。男はでっかく商売しないとな」
「あ、あんた何級の錬金術師だよ……。こんな仕事をするからにはどうせ」
「四級だが?」
「やっぱりな!」
見習いの五級とは違って、自分の店を持てる等級だ。あの人は貴族に見えないけど、もしかして平民出身なのかな。だとしたら私と同じかも?
「俺ってやつは天才だからなぁ。錬金術師は貴族ばかりだと言われているが、平民の俺でもがんばれば四級になれる。ま、目指すは一級なんだけどな。ガハハハッ!」
「ヘッ、だからこんな低品質なものしか作れないんだ。いいものを作るには知識や技術、そして何よりセンスがいるだろうからな」
「うるせぇな! てめぇに同じ真似が出来んのかよッ!」
「待って下さい」
また余計な事をしてしまった。こんなトラブル自体はどうでもいいんだけど、あの魔導具が気になったからしょうがない。
「なんだ、チビ。文句あんのか?」
「その魔導具なんですけど、お値段はいくらですか?」
「五千ゼルだ!」
「高すぎますね」
「あ?」
目覚まし魔導具を手に取ってみるとひどい仕上がりだった。
「ここ、見て下さい。継ぎ目もいい加減で、耐久性もよくありません。寝ぼけてぶつけたらすぐ壊れますよ。
使われている素材もめちゃくちゃです。薄紅の歯車をこんなにデタラメに組み合わせちゃダメですよ。内部にある炎魔石と摩擦が起きて、火事が起こる危険性さえあります」
「おう、チビ。いい加減な事を言うんじゃねぇ」
「音がなる度にかなり負担がかかっています。反響石を使ってますけど、多すぎな上に位置も適当です。やたらと大きな音が鳴るのもこのせいですね。
というより、爆裂みたいな音もたぶんそこまで拘ってないですよね。素材の組み合わせでたまたまそうなったから、と妥協している感じです」
「こ、こ、こいつめ! 何を言いやがるんだ! 言いがかりだろうが!」
「私ならこうします。あ、これいじって問題ないですよね?」
男の人に確認を取ると曖昧ながらも頷いてくれた。このままじゃ魔導具がかわいそうだからせめて値段相応の仕上がりにしてあげたい。
『分解』をしてから歯車の位置を修正。反響石を『加工』で小さくして、残りは取り除く。炎魔石も『破壊』で砕いてから小さい粒を使用した。
「これでよし、と。鳴らしてみて下さい」
「あぁ……」
音が爆裂じゃなくて耳心地のいい音になった。反響石を少なくした事でボリュームが下がって、音の質は炎魔石の質や大きさに比例してる。
炎の音が目覚ましに適するわけないけど、他に素材がないからしょうがない。今は耳を強く刺激しない炎の噴出音とでも例えればいいのかな。
「すげぇ!」
「なんだかほしくなってきた!」
「な、なんだって……」
野次馬の人達が騒ぎ始めて、大男が圧倒される。なんかまずい流れだ。呪いの指輪の時から何も学んでないな、私。そろそろ言いたい事をいって逃げよう。
「買うなら安眠のオルゴールもお勧めですよ。目覚ましに起こされるよりは生活リズムを整えて、安眠のオルゴールに助けてもらったほうが快適です。出来れば二級以上の方が作れられたものがいいです」
「てめぇ! 馬鹿にしてんのか!」
「いえ、そういうわけでは……わわっ! は、離して下さい!」
胸ぐらを掴まれて、足が地面から離れてしまった。周りの人達も悲鳴を上げるけど、助ける素振りはない。この人の体格がいいからきっと怖いんだ。
「こいつ、もう勘弁ならねぇぞ!」
「おい! まずいだろう! 離してやれ!」
「うるせぇ!」
こうなったら仕方ない。ポケットに入れておいたこれを――
「離してあげて下さい」
「あぁ?! あ……あんたは」
いきり立った大男だけど、その人の一声であっさり引き下がった。他の人達もどこか動揺したようにざわめいている。なんでこの人がここにいるんだろう。
「確かフォンデスタント家の……」
「この子の主張は正しいです。私からも指摘しましょうか?」
「いや! わかった! 反省した!」
「それならよかったです」
リシェナさんにあの大男が萎縮してる。淡々とした言葉と態度が逆に怖いのかも。
一安心した私のほうへ向いて、少しだけ観察された。
「大丈夫ですか」
「はい。どうもです……」
「よかった。その閃光弾を使わずに済みましたね」
「なんでそれを……いえ、愚問ですね」
王都でも有名人なのかな。いや、フォンデスタント家といえば聞いた事がある。
この国に代々仕える錬金術師の名家、宮廷魔術師バイロンの名は国中に知れ渡っているはず。この人はバイロンの娘かな。
「さ、行きましょう」
「え、どこへ」
「あなたが行くところです」
「いやいや、意味がわかりません」
わからないけど背中を押されて進むしかなくなった。より皆の注目を集める結果になったけど、リシェナさんは気にしてない。なんだか思ったよりマイペースな人かも。
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