第3話 王都での邂逅
王都に着く前に地図と睨めっこして、住む場所を探していた。
錬金術師を続けるならアトリエが必要だ。でも人がいる場所で無免許が堂々とやるわけにはいかない。
そこで選んだのが王都外れの森の中だった。リスクを考えると王都に近いのはまずいけど、離れすぎると不便になる。
場所は決まったし、後は水回りと火をどうにかしないと。王都なら質がいい水魔石や火魔石が売ってるはず。
「さすがの人の多さ……」
活気あふれる王都内、道行く人とぶつかりそうになる。背が低い私だと、人によっては視界に入らない可能性があった。
地味に悩みの一つで、こればっかりは錬金術でもどうにもならない。
「おい! 広場で面白い事をやってるみたいだぞ!」
「面白いこと?」
「アルベール王子がなんかやってるってさ!」
「あの氷の貴公子が? 実物は初めて見るな!」
知らない二人が真っすぐ走り去る。王子様か。今の私には関係ない。それより――
「王子が?」
「そりゃ大変だ!」
「あたしファンなの!」
「邪魔よ!」
「わふっ!?」
人の流れが変わった。一斉に広場と思える方向に大勢が向かう。
小柄な私じゃ一溜りもない。もみくちゃにされて身動きが取れなかった。
「呪いの指輪を直せる奴を探しているみたいだぞ」
「なんだそりゃ? 直す? 呪い?」
断片的に聴こえたその言葉が引っかかった。王子はともかく呪いの指輪は興味ある。
頑張って流されつつも、広場に辿り着く。人が多すぎて前がなかなか見えないけど、前のほうで誰かが演説していた。
「さぁ! 誰かいないのか?」
聞き覚えがある声がした。なんとか人をかき分けて前へ進む。
「この呪いの指輪は過去の王妃が身に着けていたものだ。記録によると浮気をした数代前の国王に腹を立てた王妃が、指輪ごと指を切断した。その後、自害したかは定かではないがこの指輪にはそういう曰くがついている」
「アルベール王子! 勝手に持ち出されては困りますな!」
知らないおじさんが、アルベール王子を止めようとしている。
あれは間違いなく私が金のブレスレットを直してあげた男の子だ。王子様だったなんて。あの時とは表情が別人みたいに冷たい印象を受ける。
「この指輪を直せる錬金術師はいないか? 賞金は五十万ゼルだ! さぁ!」
「ごじゅうま……」
「お待ちいただきたい」
金額に驚いたところで名乗り出たのは黒いローブを着た男の人だ。
「呪いの指輪となれば、エクソシストの仕事です。錬金術師は畑違いですな」
「いや、僕は錬金術師を募っている」
「浅学な身ですが、呪いのアイテムをどうにかできる錬金術師など聞いたことがありません。どうかここは私にお任せいただけませんか?」
「……やめておけ。この指輪の呪いは半端なものじゃない。怪我をするぞ」
「俄然、やる気が出ますな」
「そこまで言うのなら、やってみろ」
王子が観念したのか、エクソシストを促す。
エクソシストが台に置かれている指輪に対して何か唱え始めた。呪文みたいだけどそっちは専門じゃないからわからない。
でも表情が苦しそうになってるどころか、汗を流し始めた。
「ハァ……ハァ……」
「どうした!」
「ぐあぁぁぁぁッ!」
エクソシストが何かに弾かれたようにして人ごみに吹っ飛ぶ。悲鳴を上げる人達のところに、白目を向いて気絶したエクソシストが倒れていた。
王子が駆けつけて、エクソシストの脈を調べる。
「お前達!」
「ハッ! ただちに!」
王子の呼びかけで、護衛の兵士が倒れているエクソシストを二人がかりで抱えて連れていく。
「なんだよ、今の?」
「エクソシストが……マジでやばいやつなんじゃ?」
騒然とした広場で、王子が少しため息をつく。慌てふためくおじさんが、王子にすがっていた。
「王子! あの指輪は危険です!」
「……仕方ない。ここは」
「治癒師ですが、私に見せて下さい」
次に名乗り出た人は白いローブと縦長の帽子が特徴的だった。
指輪に手の平を向けて、何かを始める。あれは回復魔法だ。私の錬金術もあれも同じ魔法という括りだけど要求される技術はまったく違う。
私にはない力であの指輪をどうにか、あ。でも賞金が確か五十万ゼルだっけ。みすみす逃すのは惜しい気がしてきた。
「……ダメです。あのエクソストの手に負えない理由がわかりました。これに憑依しているのはなかなかの悪霊です」
「王妃の亡霊か?」
「おそらく……」
憑依型か。フラフラとした足取りで治癒師が去っていく。素人にはまったくわからないけど、あの人はかなり消耗してる。
魔力も気力も体力もだいぶ失っていた。治癒魔法も錬金術も、それだけ扱いが難しい。
「呪いのアイテムを直せる錬金術師の話を聞いたことがないか?」
王子が皆に質問した。もしかしてあの人、呪いを解いた錬金術師を探している?
解くだけなら錬金術師に拘る必要もないし、どういう事だろう? ん、まさか。
「騒がせてすまなかった……ん?」
王子と目が合った。その瞬間、氷の貴公子が目を見開く。
まさかとは思うけどあの人、私を探しているのかな。そうなら尚更、大人しくしていよう。
無免許の錬金術師がこんな場所で仕事をするわけにはいかない。その手には乗らないよ。
「賞金を百万ゼルにする。どうだ?」
「……はい」
百万ゼルが私の心と腕を動かした。颯爽と手を上げた私を見た氷の貴公子がここで初めて笑う。
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