異世界転生してウエイターをする奴がいる
「ラスタさん!3番テーブル様!シーサーペントのかき揚げ2人前でーす!!!」
「はーい!カガヤさん!」
ここは荒野に立つ一軒家。
だったところ。
ホコリまみれで灯りもなくて、とっても汚い寂しい場所。
だったところ。
でも今は、人で溢れている。
人、と言っていいのかわからないような、半身化け物みたいな人もいるが。
そんな場所で今俺はなぜだか、食事処のウエイターもどきをしている。
もちろん料理人は獣耳のラスタだ。
「あと、兄ちゃん!ショゴスエール3つくれや!」
全身赤い鱗で覆われた全裸の二足歩行オオトカゲが叫ぶ。
「はーい!少々お待ち下さーい!」
それに負けじと俺も叫んだ。
あのあと、天使様に俺の生きる目的と転生した理由を聞きに行こうと決まったのだが、そこで彼女は俺に代行屋について少しだけ話をした。
代行屋
生きるのに必要な目的を失ってしまった人たちの代わりに、少しだけでも幸せを感じてもらえるようにする。
誰かの夢を、目的を、野望を叶えるのが仕事。
だそうだ。
そこまで言うとラスタは早々に今の依頼主の説明をした。
依頼主は昔やっていた料理屋を復興させたいそうだ。どうやら大怪我をしてベッドから立てなくなってしまったらしい。
そこで彼女、ラスタの出番だ。
依頼主から料理屋の場所とどんな料理を作っていたか、「居酒屋ステュムパーリデスの鳥」という大仰かつ意味不明な名前を聞き出し、この荒野にやってきたそうだ。
そんなときにヒョンヒョロと俺が現れたらしい。
「ご飯を作って運んでを一人でするのは大変だし、まあ丁度良かったですねえ」
よくねえよ。
まさか俺はウエイターをするためにこの世界に呼ばれたのか。
ウエイターで異世界の頂点を取るのが目的なのか。いや、別にそうではないようだ。だって別に率先してやりたいとは思わないし。
この料理屋は依頼主が満足したらすぐに閉めるらしい。期間としては数日から数週間くらい。
それで満足してもらえて代行屋としての報酬ももらえる。それに店での儲けもこちらのものと言うのなら、まあ悪い話じゃあない。
「カガヤさん!かき揚げとエール運んでください!」
「はいはい!今すぐ!」
さっきも言ったが荒野のど真ん中にも関わらず、店は大繁盛だ。
依頼主からの要望があった後、チラシを作ったり街の掲示板にひたすら「限定!!居酒屋ステュムパーリデスの鳥!再開します!!」と書き込みまくったらしい。
街の掲示板なるものが、この世界でどのくらい効力があるのかは分からないが、それなりに見ている人はいるようだ。まあ、スマホとか絶対ないだろうし、情報収集するのに貴重なツールなんだろう。
「おまたせしました!ショゴスエールとかき揚げです。」
「ありがとよ!」
ドロッとした半透明の黒い液体、あまりいい匂いとは言えない、むしろ少しオエッとしてしまう系のモノをグイッと飲む赤い全裸のオオトカゲ。
ぷはぁ!ととっても幸せそうな顔をしているオオトカゲ。
その対面に座るデカいイカ。2mくらいあるデカいイカ。海鮮っぽいかき揚げを2本の触手で頬張るデカいイカ。う〜んどう見たって化け物だ。
この世界では、生きる目的がない状態が続くと心も体も化け物に、モンスターになってしまうとラスタは言っていた。だがトカゲとイカは別に危害を加えようとはしてこない。むしろフレンドリーだ。
店内にある5つのテーブルとキッチン目の前のカウンター、どこも満員だが座っている半分以上の見た目は化け物だ。トカゲとイカに続いて、完全に二足歩行の馬、全身緑のドロドロ全裸のお姉さん、人間の手足が生えたアザラシ、人並みサイズのキノコ、木、羽と蛇の生えたライオン。もちろん人間もいる。
動物園かな?いや、植物園?
まさにサラダボウル状態だ。
「カガヤさーん、次ぃ!ハウンドバーサーカーおろし持っていってぇ!」
「ただいまぁ!」
ただゆっくりと観察はできない。開店初日の居酒屋ステュムパーリデスの鳥は目の回るような忙しさだった。
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