生きるためには何をする?

目的が無いと、死ぬ?


口も目も空いたまま、動けなかった。


死ぬ、という言葉の唐突さが頭の中をゆっくりと回る。






「肉体が、じゃなくって心が死ぬんです。この世界では。生きる目的がないとね。アナタここに来る前に、元の世界で何か後悔したことがありませんでした?」






後悔したことがあるか。ある。たくさんある。はず。


しかしなぜだか思い出せない。


思い出そうにもあやふやに、掴もうとしたものがフワフワと消えてしまうかのようなイメージが湧くばかりだった。


何もない。


前の世界での俺は何だったのか。


学生?それとも社会人?


何をしていた?


勉強?仕事?


思い出すのは俺以外のことばかりだった。


スマホの存在。ネットの存在。


家があって道路があって、車が走ってビルが立っていて...。


存在していた記憶はあれども、何も記憶は残っていない。生きた思い出は何もなかった。






「思い出せませんか?」






真面目な顔のまま彼女はそう口にした。


先程までの無礼女の姿はもう無い。


ラスタの大きな金色の瞳は一点、俺の瞳を見つめている。


俺のことを考えてくれているのか、それとも何か答えを待っているのかは、わからない。


ただじっと、瞳をに瞳を映しつづける。


薄汚れた窓の外から雨の音が聞こえ始めた。


ホコリの匂いが際立つ。


この世界での俺の行き先を暗示するかのように、ゆっくりと辺りは闇に落ちはじめる。


灯りはない。ぼんやりとした中でも彼女の瞳は俺に向けられている。


ゆっくりと口を開く。


が、何を言えばいいのかわからない。


明るい言葉なんか出るはずもない。


しかし、口を開いた俺に変わって彼女はこう告げる。




「まあ、そういうこともあるんですよねえ。


珍しいですけど。じゃあちょっと遠いけど、目的聞き出しに天使様の所までいきますかあ!」


「軽いなあ!おい!」

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