ヒーローは眠らない
マサユキ・K
第1話
『カザマライダー
シローではなくシロなので注意してくれ。
いや、犬じゃない……改造人間だ。
どこが改造されたのかって?
腕と脚と、頭と尻と……
と、とにかくあっちこっちだ。
『彼を改造したデーモンは、世界征服を企む悪の秘密結社である』
変な化粧したロック歌手かって?
いや、それピーだろ。
え……
ややこしいって?
まあ、そう言われても……
と、とにかく悪いヤツらなのだ。
『カザマライダーは、人間の自由のためにデーモンと闘うのである!』
――――――――――――――
「あとは変身ポーズだな」
そう呟くと、俺――風間シロは鏡の前に立った。
「変身っ!」
両手を
うむ……いまいちインパクト無いか……
「へ〜んしん!」
今度は両手を広げ、胸元に引き寄せる。
かんたん過ぎるな……
「へっ…………………………しん!」
うずくまった体勢から一気に体を開く。
ダメだ……タメが長くて「ん」が飛んでしまう。
俺はブツブツ言いながら、机上のノートを手に取った。
パラパラとめくると、手の上に水滴が落ちた。
目の前に
どうやら俺の涙らしい……
どうしたのかって?
急に、言いようの無い
理由は簡単……
俺の出番が無いからだ。
デーモンとの自由をかけた闘いが起こらないのである。
ヤツら俺を改造して二か月も経つのに、一向に世界征服を始めようとしない。
おかげで、暇にまかせて書き貯めた変身ポーズ集も、ノート十冊を超えてしまった。
まったく何考えてんだ、アイツら……
一応アジトの場所も分かってたので、手紙を出してみた。
――征服はいつ頃になりそうっすか?
そんな文面を送ってみた。
だが、いまだ返事は無い。
これじゃ蛇の生殺しだ。
闘わないヒーローなんて、ヒーローじゃない。
そもそも、なんで改造なんてしたんだ。
そりゃ子どもの頃、テレビの変身ポーズに
だが、ホントに改造してくれなんて頼んでない。
睡眠薬を飲まされ、眠りこんだ間にやられた。
目が覚めると、白覆面の奴らがベッド上の俺に言ったんだ。
手術は終わった――
お前は生まれ変わったのだ――と
怖くなった俺はそこからこっそり抜け出して、自分のアパートに戻って来た。
しかし、いつかは見つかってしまう。
俺は気を取り直して、闘うことにした。
そして来るべき日に備え、変身ポーズ、決めゼリフ、必殺技の考案に注力した。
どうせ改造されたんなら、とことんヒーローぽく振る舞ってやる。
愛車レインボー号も購入した。
勿論バイクの免許など無いので、電動付き自転車だ。
赤と青の車体にちなんで、レインボーと名付けた。
バイクっぽく見せるため、サドルは限界まで上げてある。
前かがみになると、それらしく見える。
たまに足が地につかず横転したりするが、まあ仕方ない。
俺はヒーローなのだ。
細かいことはいい。
俺は涙を拭き鼻をかむと、テレビのスイッチを入れた。
あちこちのニュース番組をチェックするが、やはりヤツらに関する事件は無い。
そもそも「これはデーモンが起こしたものです」と注釈がつく訳では無いので、分からなくて当然だ。
一応メアドも知ってたので、メールを送ってみた。
――貴殿の起こした犯罪には目印をお願いします。
そんな文面を送ってみた。
だが、いまだ返事は無い。
ええい、もうガマンならん!
待つのも限界だ!
こうなったら直接アジトに乗り込んで、
お前ら、俺を改造人間にしたんだろ!
なら最後まで責任持てよ!
手紙もメールも無視とは、どういう了見だ!
なんなら出るとこ出てもいいんだぞ!
それが嫌なら、さっさと世界征服始めろ!
そして俺と闘え!
変身ポーズは五つに絞ったから、最低でも敵は五人用意しろ!
あ、軟体動物系はダメだぞ!
俺はタコアレルギーだからな!
あと変身ポーズは十秒ほどかかるから、そこんとこ空気読めるヤツな!
必殺技はジャンプしてからキックだぞ!
もう一度言うからな!
ジャンプ……キック……オーケー!?
そして最後の決めゼリフはこれだ!
「お前たちに朝は来ない……フッ」
くれぐれも、最後のフッまでがセリフだからな!
言っとくが「朝が来ない」てのは、目を覚ますことはないという意味だ!
俺が寝る間も惜しんで、お前ら全員倒してやる!
いいか、分かったか!
この悪党どもっ!!
俺はその場で変身し、レインボー号を走らせた。
――――――――――――――
「厨二病もいいかげんにしてください!」
受付の窓から、年配の女性が怒鳴る。
歪んだ顔がタコそっくりだった。
「おかしな手紙やメールまで送りつけて来て……まったく、何考えてるんですか!」
「体の
「ちょっとは歳を考えてください!」
「今度やったら、診察お断りしますよ!」
敵の波状攻撃を受けた俺は、一旦撤退することにした。
受けたダメージが予想以上に大きく、用意したセリフを一つも言えなかったからだ。
恐るべし、デーモンの怪人!
アジトを脱出し振り返ると、不思議な光線を放つ物体が目に入った。
戸口に掛かったそれには文字が刻まれていた。
『出門整形』
ヒーローは眠らない マサユキ・K @gfqyp999
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