二人の日常とある旅行記 その3
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宗教国家都市北西部へ旅行にきた、その日の夕方。
俺とクランは宿の食事の前に温泉へと入ることにした。
貸し切り状態の浴場内にはもちろん誰もいない。
屋内の広々とした浴槽や自然に囲まれた野外の岩風呂は、俺一人で楽しむのは贅沢の極みだろう。
とはいえ、クランと一緒に入るのはさすがにためらわれた。
本音を言えば共に楽しみたいところだが、いくら子まで成した仲でも節度は持たなくてはならない。
なにより、彼女と俺の関係は未だ内密にしている。
かく言うクランは今頃、ヒルドアリアの生真面目な補佐官とともに湯に浸かっているだろう。
……宿の人々こそ、どこか俺達を察しているようではあったが。
何はともあれ、風情ある岩風呂で疲れを癒そうとして、近くの椅子に座って身体を洗うための湯を桶に溜める。
と、そこで不意に浴場の戸がゆっくりと開けられる気配を感じた。
振り返ると見慣れた紫のお下げ髪を解いた少女が顔を覗かせている。
桶とタオルを手にする一糸まとわぬ姿のヒルドアリアだ。
そして間もなく、誰かを探して歩く彼女と目が合ってしまった。
「あっ!いました、御主人様ぁ!お背中を流しにきましたぁ!」
頬を染めながら、元気よく手を振っている。
肩越しに少女を見つつ、どう反応したらいいものかと思考を巡らす。
「あー、ヒルデ。その、なんでここに……いや、そうではなくて……少しそのまま待ってくれ。」
お互いに無防備な姿でいることに背徳的な感情が湧き出る。
無邪気に駆け寄るヒルデは恥ずかしがりながらも、その裸体を隠そうとはしない。
小柄かつ豊満な胸を持つクランとは違う、すらりとした年相応の健康的な肢体が目に入ってしまう。
「えへへ……恥ずかしいですけど、御主人様になら見られても良いです!どうですか、気に入っていただけましたか?」
献身的な彼女らしい健気な台詞だ。
自然に身体が反応して、俺の中の劣情が鎌首をもたげる。
――いや、落ち着け俺。
ここで状況に流されて手を出してしまえば、最愛の少女であるクランを悲しませることになる。
シスターである彼女と婚姻は結べないため、不貞には当たらないかもしれないが誠実でありたい。
身体を眺めてしまわないよう、目を逸らしながら言葉を選ぶ。
「ん、何というか……とても魅力的だと思う。ともかく、まずはタオルをだな……」
「はい、御主人様!お待たせしてすみません、今すぐ準備しますので!」
そう言って、彼女は手元のタオルを湯に浸して泡立て始める。
純粋に奉仕を捧げるヒルドアリアの姿に、なんだか俺だけがやましい思いに囚われているようで頭を抱えた。
「……俺の考えすぎなのか。」
「御主人様の背中、すごく大きいですね。たくましくて素敵です!」
「ああ……ありがとう。なんだか照れるな。」
想定していなかった状況と言葉に気恥ずかしくなる。
このままではいけないと思いつつ、断りきれないのは自身の悪いところなのだろう。
ゆっくり背に湯をかけられ、泡を洗い流してもらった。
「……はいっ、終わりましたよ!次は前ですね――」
新たに石鹸で泡だて始める明るい少女の声に耳を疑う。
「いや待て、もう充分だからな、ヒルデ……!」
そして、間の悪いことに……タオルを手にして立ち上がりかけたヒルドアリアが流した泡に足を滑らせて。
よろめく少女を支えようとして、正面から抱き合う形で受け止めてしまった。
腕の中に小さく柔らかな躰が収まる。
「ご、御主人様……!」
ちょうど膝の上にまたがって抱きつく彼女と間近に視線が合った。
とっさの事とはいえ、この密着感は色々と危険過ぎた。
腕に力がこもりそうになり、離れようとして――
突如として強めの風が吹きつけては、白い巨像が広い岩風呂の中央に滞空して湯を波立たせる。
「――何をしているのですか、お二人とも。」
聴き慣れた愛する声。
目を向けると、五メートルほどの白い巨像の腕に腰掛けた少女が俺達を見おろしている。
躰にバスタオルを巻いて紅い瞳を輝かせたクランは続けて言葉を紡ぐ。
「ヒルドアリア、あなたのことはずっと感知していました。何か思惑があるのかと泳がせていましたが……もう一度だけ訊きます。何をしようとしていたのですか?」
微笑んで優しく諭すような口調だが、目は笑っていない。
「あわわ……これはぁ、あたしは御主人様のお背中を流していただけで……!」
両手でヒヨコのおもちゃを握って震えるヒルデ。
そんな彼女を庇うように前に出て弁明をする。
「クラン、ヒルデの言う通りだ。本当にやましい事はしていない。だから、
「もう……あなた様はそんなお姿で。わたくしの気も知らずに……でも、嘘をついていないのはお二人の
少女は頬を染めて俺を眺めるも、言葉尻を聞き取る事はできなかった――
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