本編後の話
二人の日常とある旅行記 その1
♤
これは宗教国家、中央部都市での大きな騒動から二週間が経ったある週末の事だ。
俺はクランと一緒に宗教国家都市の北西部に向かう蒸気列車に乗っていた。
祝日を含めた二泊三日の予定で宿泊施設に予約も済ませてあり、二人分の荷物を詰めた旅行鞄を手に引いている。
「たまには聖務を抜きにしての旅行というのも良いものですね、あなた様。」
向かい合って姿勢正しく座席に座るクランが微笑む。
優しい笑顔の彼女を見ていると、こちらもつられて笑みを浮かべてしまう。
「そうだな。クラン、腹は減っていないか?さっき、駅の購買で買った弁当でも開けてみるか?」
つい色々と喜ぶところが見たくなり、自分でも分かるほどに浮かれていた。
目の前の清楚な少女は口元に手を当てて、くすくすと笑いながら言葉を紡ぐ。
「うふふ、あなた様の普段は見れないお姿……とても新鮮で、素敵ですよ。」
そんなことを言われ、急に照れくさくなってくる。
軽く頭を掻きながら口を開いた。
「あぁ、その……はは、参ったな。」
なぜ、自分がここまで高揚としてしまっているのか。
その理由は明白だった。
愛する少女と二人で旅行に加えて、クランのお腹には俺達の子供が宿っているからだ。
新しい命を授かった身で遠出をするのは、もちろん好ましいことではないだろう。
とはいえ、少女の躰の変化が大きくなる前に二人の思い出を作っておきたい、と互いの意見が一致したのだった。
俺は手元の弁当のうちの一つを開けてみる。
彩り豊かにバランスよくまとまった食材が目に映り、思わず喉が鳴った。
「あなた様、お先に食べてもかまいません。わたくしはまだ、食事を取れる時間ではないですから。」
子を宿してから食事をより管理しているクランは、気を使って言ってくれる。
「ん……いや、君と一緒に食べるつもりでいるから、俺は少し我慢するとしよう。」
そして、蓋を閉めようとすると、不意に少女は手元の弁当を取り上げては箸でおかずをつまみ。
「……はい、あなた様。あーん。」
なんと、俺の口元へ向けて食べさせようとしてきた。
当然ながら、そんな彼女の仕草に抵抗することなど出来ず、食べ物を口に含む。
彼女はにこにこしながら食材を選び、箸でつまんでいく。
――これはしかし、相当に恥ずかしくなってくるな。
俺は周囲の視線をいつも以上に意識しているのを自覚しつつ、甘い状況を受け入れてしまうのだった。
†
北西部都市に到着したわたくし達は、まず宿へと足を運びました。
二人分の荷物を引いたヒツギ様が隣に並び、施設の敷居をまたぐとそこには見知った顔が。
紫髪のお下げ、白と朱の修道服にエプロンをかけた少女の姿。
「お待ちしておりました!クランさん、御主人様!さぁ、こちらへどうぞ。あたしが部屋まで案内しますので!」
わたくしと同じシスターであり、四位を冠する巫女神官のヒルドアリア。
彼女の傍に控えた宿の支配人は何とも言えない顔をしていました。
同様に唖然としたわたくし達に、巫女の少女は元気よく言葉を紡ぎます。
「あれー?どうかしましたか、お二人とも?ささ、そんなところに立ってないで!心配しなくても、しっかりあたしがお世話しますから!」
彼から荷物を受け取り、
「申し訳ありません、三位巫女神官様。お二人がこの街へいらっしゃると知るや、宿の仲
ヒルドアリアの補佐官はとても信頼できる方で、わたくしはお腹の子の乳母役をお任せしたいと思っているほどです。
その点では、旅先の不自由なく過ごせるでしょう。
あとは……天衣無縫な
「ありがとうございます。それでは、
……変に頭を悩ませても仕方ありません。
妊娠したこの身で
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