耽美たる回顧録 前編

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 わたしは一人、サロンのソファーで寝そべっていた。

 周りからはよくダラけているように思われているが、きちんとやるべき事はやっている。


 プライベートと仕事を頭の中と身体で切り分けるのは大事なことなのだ。

 特にわたしのような躰を酷使する職業ではなおのこと。


 わたしは聖なる教のシスター、最高位である七位を冠する巫女神官のラクリマリア。

 宗教国家の中で海に面した、歓楽街の広がる南部都市を管轄としている。

 巫女神官は全部で七人いて、神鎧アンヘルと呼ばれる天使をかたどる子なる神を顕現させる力があった。



 ……シスターになる前は娼婦だった。

 聖職に就いた理由は、わたしに神鎧アンヘルを呼び出す力がある事を知られたから。

 今の立場になって、もう四年くらい経つだろうか。


 わたしが娼婦として躰を売り出したのは八年前、十二歳の頃からだ。

 もともと身寄りがなく、孤児院から引き離された先が娼館だった。

 そこは貴族の御用達でもある場所で集められる女達は皆、によって見定められた女子供ばかりだった。



 わたしが神鎧アンヘルの力に目覚めたのも丁度、初潮を迎えたその頃だったでしょう。

 周りにいる全ての人の思考や記憶が読み取れる。

 神鎧アンヘルの恩恵なのか、躰は彫刻の女神のように美しく発育した上で、客の望みを言わずとも叶えた。

 わたしはすぐに高級娼婦として持てはやされるようになった。



 それでも、客の中には趣味の悪い輩も数多くいた。

 あまりに酷く暴力的で、受け入れられない時は神鎧アンヘルを呼び出した。


 わたしの神鎧アンヘル『ファーデルメイデン』。

 二メートルほどの重厚な甲冑を纏った白い騎士の神鎧アンヘル


 死なない程度に痛めつけて撃退しても、特に問題はなかった。

 常連ではない相手なら、どんな文句を言われても妄言や言いがかりとして済まされたからだ。

 逆に良客や常連客からは女神の生まれ変わりだと、さらに人気を集めてしまった。



 けれど、その人気ぶりは決して良いことばかりではない。

 同じ仲間内からねたみや嫌がらせを受けるようになっていく。

 幸い、わたしは神鎧アンヘルの力で思念や記憶が読めるので探しは容易に出来た。

 当然ながら報復として、その子の客をまとめて奪うと自然とサロンから姿を消した。



 そんな風にして、わたしは彷徨さまよう蝶のように夜の街で過ごしていた。

 女としての魅力と神鎧アンヘルの力を武器に、今後に困らないだけの稼ぎをしようとする生活はしかし、十六歳になって唐突に終わりを告げる。


 を終えて帰路についたわたしの前に一人の少女が現れたのだ。



 その少女は、わたしより十五センチは背が低い小柄な躰で、羽織ったフード付きケープコートの左肩には禍々しい紋様に十字の印章が刻まれていた。

 薄暗い路地の真ん中を行く手を遮るように立ち塞がっている。


「わたしに何か用事かしら?」


 わたしは不審に思いながら声をかけてみた。


「…………」


 少女からの返答はない。

 念のために神鎧アンヘルの力で目の前の少女の思念や記憶を読んでみた。


 ところが、彼女のは何一つとして読み取ることが出来なかった。

 わたしの不信感や違和感が確かになるのは、すぐその後だった――

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