第2話 高低差があると遠くまでよく見える

さて、やっとのこと見えた最初の村ですが…。


ちっちぇ〜…。


遠くね??


あそこが父さんの知り合いが居るって村かな?


確か冒険者になるためには試験に合格する必要があるとだけ教えてもらったけど、試験の内容を聞いてくるのを完全に忘れてた…。


そもそも冒険者になるための試験って何だよ…。


頭脳?体力?知らな…。


単純な強さが必要とか言われて父さんみたいに強い人ばっかりだったらどうしよう…。それは困るなぁ…そしたらどっかで雇ってもらいながらいい感じに暮らしていけばいいか…。嫌だけど。


ちなみに父さん曰く「2、3時間も歩けばつくだろ」なんて言ってたんだけど…


「もう3時間は歩いたはずですよねー。やはり父さんの感覚はバグってますね」


ついついそんな毒が口から出てきてしまう。


でも、目的地は見えたんだから走ればいいよね!よーし!頑張るぞー!


(30分後)


あれれ〜?おかしいぞ〜?結構走ったと思ったんだけど、さっき見た村が近づいてきたって感じが全然しない。あの村は蜃気楼かなにかなんですかね?


(さらに30分後)


あー疲れた!もう父さんの言うことなんて信用しない!あの人の感覚バグってる!


徒歩で2〜3時間に加えて1時間ぶっ続けで走り続けてやっと到着するって嘘でしかないじゃん!


そうだ…あの人僕と戦っていた時に一回も息を切らしていたことなかったわ。


これだから体力バカは嫌なんですよ。基準をすべて自分に設定するから他の人からしたらたまったもんじゃなんだよ!


今日は移動をしてその後そのまま冒険者の登録を済ましてしまおうと思っていたんだけど、まさか移動だけでこんなに気力を持っていかれるなんて思いもしませんでしたよ。


さて、この村なんですけど…。


村の回りは木製の柵で囲まれてはいるけれどぶっちゃけ僕でもこれを壊せますね。その自信はあります。


ちなみに僕は今村の紋の前に居ますが門番も居ません。


この村警備ガバガバ過ぎやしませんか?


まぁ、平和ってことなんでしょうね。そういうことにしておきましょう。


さてさて、村に入ってみたはいいものの何がどこにあるかなんて全くわかんないっすね…。どうしましょう?


ぼけーっとしていると視界の端に動くものが見えた。


だっ!第一村人発見!!


この世界は僕からしたらファンタジー!


と…なれば!村人を発見したらやらなくてはいけないことがあるじゃないか!


そう、これは儀式のようなもの。


大切な…大切なことなんだ。


「あ、あのぉ…こ、こ、ここって」


はいなんでこういう時に限って僕のコミ症が発揮されましたね…。


いや、だってさ…見かけた人に話しかけるってめちゃくちゃ勇気いるよね!そうだよね!そうだと言ってくれよぉぉぉぉ!


すみません…激しく取り乱しました。


ちなみにおじさん…僕の声って届いていますか?


「ん?ああ、君は外から来たのか。ここはエリーゼの村だよ。特にこれといったものはない普通の村だよ」


き、きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


そうだよね!そうだよ!これだよこれ!


冒険といったらこれだよね!本当にやってくれるんだ!超絶嬉しいんだけど!何この胸の高鳴り!


村の入口の門には村の名前が書いていなかったから誰かに聞くまでわからないはずだよね!でも一回入ったら移動系魔法でいつの間にか名前がわかってるみたいな異世界限定不思議現象があってくれたら楽っちゃ楽だけどやっぱりこれだよね!


「ありがとうございます!」


僕は自然と目の前にいる村人Aに感謝を述べていた。まぁ、実際村の名前を教えてくれたし感謝はしなくては行けないですね。


「お、おう。俺は何もしていないぞ。坊主は持ち物からして旅をしてきたんだろ?今日の寝床はあるのか?無いなら早いこと宿屋に向かいな。ほれ、宿屋は向こうだとっとと行きな」


第一村人Aはそう言うと立ち去ってしまった。


「え、あ…ありがとう…ございました」


とっても親切な第一村人A…。確かにめちゃくちゃ親切な人だったよ!ええ、そうですよありがとうございました!


でもさ…違うじゃん…。


違うんですよ…だって村の最初に出会う村人ってさ…NPCってさ…やっぱり…。


違うじゃんよぉぉぉぉぉぉぉ!!


何回話しかけても同じことを言ってくれるような期待をさせるんじゃないよ!何でそんなに親切に新しい言葉を紡いだんだよぉぉぉぉ!どうしてそうなってしまったんだ!ぷんすかぁ!


ぷりぷりしながら紹介された宿屋通りに向かって歩いている途中で冷静になる。


そうだ…そもそも、ここにいる人って生きている人なんだからNPCってわけじゃないんだよね。さっきは怒ってごめんね第一村人Aさん…。僕が悪かったよ。


この通りは宿屋が密集している通りのようで何件もの宿屋が立ち並んでいた。


「え?何?ここ鶯谷?」


一回しか行ったこと無いからよく知らんけど。


いや、ちょっとあまりに宿屋が立ち並びすぎていてちょっと残念な僕の思考が口から出てしまう。


きっとここにあるのは普通の宿屋で…枕元にたくさんのボタンとか肩こりを振動で治すような健康機器あるところにしか行ったことはなか…いや、この話はやめましょう。


よーし!一番ボロそうなところに入ろう!そうしよう!


そう謎の決心をしてずんずんと宿屋通りを進んでいく。


さっきからいろんな宿の様子を確認するようにキョロキョロしていたから気がついたんだけど、この通りは奥に行けば行くほどに少しずつボロくなっているように感じる。


つまり…一番奥の宿屋が…一番安いはず!!


…うっわほんとにあったよ一番奥の一番ボロい宿…。


ほんとに営業中?


いや、本気?これに入るの?まじかよ…。


ここまでの宿屋は基本的に石造りだったりレンガで作られた宿が多かったのにここは完全に木造建築。


そして、何よりこの看板だよ…。


何で半分に折れているのに放置してるんだよ!商売する気あんのか!?


扉も木造で片方は取手の部分が折れてやがりますね。やめようかな…。でもなぁ…父さんから渡されたお小遣い程度のお金じゃあしかたがない。


「よし…しょうがない…ここにしよう」


僕の決心は硬いぞぉ〜!HB0.5ミリシャー芯くらいは硬いぞ〜!


勇気を出して扉に手をかける。


”ぎぃぃぃ〜〜〜”


すごく重たいしすごく嫌な音がするんだけど…僕の心が…シャー芯が…折れる音も聞こえる気がする。


扉の奥にはふてくされたような顔をしているおっさんが居た。


おじさん…客商売って知ってます?


「いらっしゃい。ここは宿屋だよ」


お、おう…。お前そこはテンプレかましてくるんですか!?完全に予想外過ぎて面食らっちゃったわ。


「お願いします!」


お金を払って部屋の鍵を受け取り部屋に移動をする。


さて、思ったよりも長旅になってしまったし、何かテンションが上ったり下がったりして疲れてしまったな。


そういえば、前世の頃に異世界モノが流行ってたな。


世界を渡ったら最強であるものは自分の世界に帰るため、あるものは自分の仲間のため、あるものは自分自身のために戦い続けるんだよな。


転生している時点で僕は帰るべき場所を失っているわけだし、別にどうなろうってのは考えてないからなぁ…。


それに父さんに負け続けていた時点で最強じゃないからな!


よし、せっかく新しい生活が始まるんだから気合を入れ直す意味も込めてこう始めてみようじゃないか。


さあ、僕の物語を始めようじゃないか!


ただ、僕ができることだけをやって掴み取る僕だけの物語を!

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